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土木分野における性能規定化を考える際の基本的視点

建設省 土木研究所材料施工部
 新材料開発研究官
三 木 博 史

1 はじめに
土木分野における性能規定化の方向性や具体的なイメージについては,各分野で検討が進められているものの,まだ広く共通の認識が固まっているとはいえない状況にあると思われる。
そこで,まず性能規定化を総論的にどう捉えるか,また性能規定化を実現するための方向性としてどのような視点が重要かを整理し,この問題を考える糸口としたい。

2 技術基準類の性能規定化の方向性
(1)既存の技術甚準類との関係
我が国の既存の技術基準類は,これまでの技術の蓄積により体系化された知的財産であり,世界的なレベルにある。したがって,技術基準類を性能規定化する際には,これらの従来技術は「みなし照査」の一手法として,あるいは標準手法として位置付けるのが妥当である。その上で,設計・施工の自由度を高める方策や体制を整えていくことがいま求められている。
(2)国際規格の動向
現在各方面で検討されている技術基準類の性能規定化の方向性についての共通認識を固めておくことも重要である。これには,ISOをはじめとする国際規格の動向をにらんでおく必要がある。
1989年に欧州閣僚理事会から出された「建設製品指令」で示された基本的要求事項(表ー1)は,我が国でいえば道路法や道路構造令あるいは河川法や河川管理施設等構造令などで定めるべき構造物の基本的要求性能に相当するものである。

また,ISO/TC98(構造物の基本専門委員会)で制定・改正されたISO2394(構造物の信頼性に関する一般原則)は,表ー2に内容の構成を示ように,土木構造物の設計の基本となる規格であり,構造物の設計・施工方法の原則を示すものとして,各種構造物ごとの技術基準類の頂点に位置する。我が国では,これに相当する技術基準がまだほとんど無いのが現状で,このレベルの技術基準を鋼構造物,コンクリート構造物,土構造物といった構造材料別に早急に整備する必要がある。
さらにその下に,現在の道路橋示方書,アスファルトコンクリート舗装要綱,道路土工指針,河川砂防技術基準,土木工事共通仕様書などのような各種構造物や施設ごとに定められている設計・施工方法や材料の品質を規定する技術基準類が位置する。そして,これらを上記の上位基準と整合した形で,性能規定型もしくは望ましい場合は仕様規定型で規定し直すことが今後必要である。
以上のように,欧州やISOで先行しているような一群の技術基準類の休系化が我が国でも求められており,既にその作業が各基準ごとに進められつつある。ただし,その進捗については基準ごとに状況が異なり,まだ内容が固まっていないものが多いので,ここでの紹介はさしひかえたい。

(3)限界状態設計法への移行
表ー2に示したISO2394においては,限界状態設計法を今後構造物の設計の基本とする姿勢をを明確に打ち出している。これを受けて,欧州の政府機関やコンサルタントは,限界状態設計法による設計・解析プログラムの開発を急ピッチで進めている。我が国でも,いくつかの構造分野でその必要性を認識し,転換を図っているが,国内工事はもちろんのこと,今後の海外工事における競争力確保の面ではこの対応が急務である。発注団体,コンサルタント業界,関係学会を挙げてこの問題に取り組む必要がある。

3 性能規定化の実効をあげるための体制上の課題
(1)発注者,施工者,製造者の役割分担
性能規定化を実行する際に重要なポイントとなるのは,発注者,施工者・製造者の役割分担である。この点は,発注方法にもからむ問題であるが,基本的には「照査」,「検査」,「品質管理」の用語と概念をはっきりさせることで,それぞれの責任がかなり明確になる。そこで,基本的な考え方として,以下のような用語の使い方を提案したい(図ー1)。

まず,「照査」とは,「実施工着工前の段階で設計・計画された内容が要求性能を満足しているかどうかを判定すること」と定義する。
これに対して「検査」とは,「実施工中もしくは実施工後に対象構造物品質が判定基準に適合しているか否かを判定する行為」と考える。
また「品質管理」とは,「使用目的や要求性能に合致した対象構造物を経済的に造るために,工事のあらゆる段階で行う,効果的で組織的な技術活動」をいう。
このように定義すると,施工者・製造者は設計や計画の内容を提案し,発注者がそれを照査する。また,施工者・製造者が責任をもって品質管理を行い,発注者はその品質管理に関わる技術活動全体の信頼性を評価しつつ,施工された構造物の品質を検査するというのが,性能規定型発注における各々の役割分担であることがわかりやすくなる。

(2)照査・検査の方法と体制上の課顆
性能規定化により,設計や施工方法の自由度が高まり選択肢が増えると,発注者側でとるべき照査方法や検査方法およびその体制をどうするかという問題を解決しなければならない。
当然のことながら,照査方法や検査方法を示すことができない新しい設計・施工法の提案は採用できないので,新しい提案については,提案者が照査方法や検査方法も提示し,それをもとに発注者と具体的な方法をつめていくことになる。
また,このような性能規定化の流れが一般化してくると,設計や計画の照査や,施工中・施工後の検査の責任を負っている発注者をサポートするシステムが今後ますます重要になってくる。従来のような個別の技術検討委員会による方法では効率性や公平性の問題が残るし,新しい契約方法においてもリスクコントロールの面での課題がある。このため,ISO(国際標準化機構)で提案されているような認証機関や検査機関の充実を国家規模で図っていくことを真剣に議論すべき時期に至っている。

4 検査技術の開発の重要性
施工中や施工後に行う検査方法においても,簡便で実用的に十分な精度が確保できる検査技術の開発が望まれる。一例として,コンクリートの塩分含有量規制(1986年)をあげると,コンクリー卜塩分量試験が開発されたことが規制の実効を促し,コンクリートの品質向上に革命的変化をもたらした。このように,検査技術の高度化が各種構造物の品質向上の鍵を握っている。今後,たとえばコンクリートの水セメント比のリアルタイム検査技術が開発されれば,コンクリートの飛躍的な品質向上が望めると期待されており,この点は他分野でも同様である。
このような観点から,建設省総合技術開発プロジェクト「建設事業の品質管理体系に関する技術開発」(平成9年度~12年度)においても,以下のような検査技術の開発を進めているので,詳細な技術的内容については機会をあらためて紹介したい。
 1)鋼構造物の溶接内欠陥の超音波自動探傷試験技術
 2)フレッシュコンクリートの単位水量推定技術
 3)光ファイバーを用いたグラウト管理技術
 4)電気抵抗測定によるコンクリートの透過性評価技術
 5)超音波を用いたコンクリート部材厚測定技術
 6)省検査塗料の開発

5 おわりに
現在各分野で進められている性能規定化の動向をまとめることは,とうてい筆者一人の力の及ぶところではないので,いくつかの基本的視点と今後の課題の整理に内容を限らせていただいた。
将来の性能規定化への移行に向けて,関係者が各々の役割を再確認するヒントになれば幸いである。
最後に,本文をまとめるにあたり,とくに以下の参考文献が貴重な指針となった。その労作に対し,この場をお借りして深く謝意を表したい。

参考文献
1)河野広隆・古賀裕久:コンクリート構造物の基準類の性能規定化と検査のあり方に関する考察,土木学会論文集№651/Ⅵ-47,1-10,2000.
2)辻幸和:建設製品指令CPDについて,土木学会,ISO対応速報第2号,pp.5~10,1999.
3)辻幸和:ISOへの対応-わが国の技術基準体系の再構築,土木学会「ISOへの対応」に関するシンポジウム講演資料集,pp.47~52,1998.
4)辻幸和:ISOにおける性能照査型設計とCENにおけるCPD(建設製品指令),土木学会「ISOへの対応」に関する第2回シンポジウム-ISOとCEN-講演資料集,pp.55~64,1999.

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