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土木の使命と価値の伝え方
~デミーとマツ式伝わる土木広報~

長崎大学大学院 工学研究科
出 水  享

キーワード:デミーとマツ、土木の魅力、ワクワク土木土木(ドキドキ)

1.はじめに
現在、土木業界は担い手不足が深刻な問題となっており、東洋経済新聞社が 2018 年に発表した人手不足が深刻な職業ランキングにおいて 10 位内に土木業が 5 つも入っている。また、学研が発表した小学生白書 2018 において将来に就きたい職業ランキングに土木業の文字が一つも入っていない。このままでは土木業界が活力を失い、国土が荒廃し市民の安全・安心な暮らしを守ることができなくなる可能性がある。入職者を確保していくためには、未だに拭いきれない「きつい、きたない、危険」を払拭し、土木のイメージをリブランディングする必要がある。
国土交通省は建設現場で働く人々の誇り・魅力・やりがい検討委員会を発足し、担い手確保に向けた取り組みや施策の展開を検討している。また、(公社)土木学会は 2018 年から土木広報大賞を設立し、全国から土木の広報の成功事例を集めて模範となる広報活動を顕彰するとともに効果的な土木広報について分析を行っている。
そのような中、筆者は「土木の使命と価値」を伝えるために二人組のユニット「噂の土木応援チームデミーとマツ1) (以下、デミーとマツと略)」を結成している。活動が評価され土木広報大賞2018 優秀賞、2019 準優秀賞を受賞している。ここでは、デミーとマツの概要、現状の土木イベントの問題点、デミーとマツ式伝わる土木広報について紹介する。

2.噂の土木応援チームデミーとマツ

デミーとマツ(図- 1)は、2016 年 4 月に土木技術者で博士(工学)である二人組が結成したボランティアユニットである。学校では学べない土木体験を通して、土木の使命と価値を楽しく伝える活動を行っている。
主な活動内容は土木体験イベントの発案、イベントメニューの企画・運営、イベントチラシの作成ならびに告知、イベントでの講義などである。参加者のターゲットは主に子供にしているため、開催日は土日祝祭日としている。
イベントは「楽しく学ぼう」と「楽しく遊ぼう」の 2 つに分けている。「楽しく学ぼう」は、デミーとマツが担当でプロジェクターとスクリーンを使い、土木の仕事について専門用語を分かりわりやすい言葉に噛み砕いて説明する。説明資料には振り仮名をつけるなどの工夫も行っている。説明時間は、約 20 分と短めに設定し、初めて土木を耳にする参加者が飽きないように配慮している。「楽しく遊ぼう」は協力機関が担当で現場の説明や仕事体験の指導やプロの技の披露を行う。時間は約 2 時間とし、移動時間を含めるとイベントは合計約3時間となる。
現在までに福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島で 24 回のイベントを実施し、延べ 1,000 名以上が参加している。また、新聞、テレビなど 250 件以上のメディアに取り上げられ、「噂の二人組」として紹介されている。

3.現状の土木イベントの問題点
現在、土木のイメージアップのために全国各地で見学会・体験会などのイベントが精力的に行われている。しかし、誤った伝え方をしているイベントが多く、伝わる土木イベントが行なわれていない。伝えると伝わるは大きく異なり、伝え方を誤ったイベントでは土木のイメージを悪くしてしまう。ここでは現状の土木イベントの問題点をいくつか紹介する。

(1)見学だけ
安全に配慮しすぎて、遠くから現場を見学するだけのイベントが多い。遠くから説明されても、初めて現場を見る参加者は理解できない。また、イベントは休日に行うことが多く、現場で活躍する土木技術者・技能者などの姿を見る場面がほとんどない。

(2)説明が分かりにくい
イベントで工事概要の説明が行われるが、専門用語、文字、漢字が多く使われる。専門用語で説明を聞かされると、参加者は理解できず楽しくなくなる。また、文字や漢字が多い資料を渡されても子供は目を通さない。さらに、説明時は早口になりがちで聞き取りにくい。

(3)重機やドローンの使い方
イベントでは、重機やドローンの登場が多い。子供に人気で楽しんでもらえるが、重機やドローンがどのように土木の仕事に役立っているかを説明しなければ意味がない。また、誰がどのような作業をしているのかを見せなければ単なるアトラクションにすぎない。

(4)企画会社に委託
企画会社にイベントを委託することがある。イベント会社は土木について知らない人が多い。客寄せのためにヒーローショーが行われる。それでは、参加者は土木を見に来たのでなく、ヒーローを見に来たことになり、イベントの目的が薄れ、土木の使命と価値が伝わらない。

(5)やらされている感
発注者や上司に指示を受けてイベントを行うケースが多いが、これは受け身の土木広報である。土木広報について経験がなく、広報のやり方が分からない人がほとんどで、その場合は消化試合のようなイベントになってしまう。やらされている感がでると参加者に楽しさは伝わらない。

(6)挨拶が多い
イベントを複数の機関で実施する場合、機関の代表が代わる代わる挨拶を行う。参加者からす ると、堅苦しい話を何度も聞かされた時点で楽しい気持ちがなくなってしまう。

(7)説得力に欠ける
発注者や受注者が土木の大切さや必要性を説明しても参加者に伝わりにくく、説得力に欠ける。参加者の中には違和感を感じる人や悪いイメージを持つ人もいる。

(8)参加者との距離感
参加者が多いと、主催者とのコミュニケーションが難しくなり一方的なイベントになってしまう。結果として参加者との距離感が遠いと伝わりにくいイベントになる。

(9)女性が少ない
子供向けのイベントでは女の子も多く参加する。しかし、男性しかいないイベントが多い。そのため、参加者は「土木業界は女性の働き手がいない、女性が活躍できない」と思い込んでしまう。

(10)ワクワクしないイベントチラシ
チラシがつまらないと、参加したいと思わない。結果として参加者が集まらず、動員をかけて身内だけのイベントになってしまう。

4.デミーとマツ式伝わる土木広報
我々は上述する問題が発生しないようにイベント計画を立てることを心掛けている。また、イベント毎に伝わる土木広報を行うための PDCA サイクルを回している。ここでは、過去 24 回のイベントで見えてきたデミーとマツ式伝わる土木広報について、特にこだわりをもって行っている事項について紹介する。

(1)ターゲットは子供
子供をターゲットにすると、親もしくは保護者が必ず参加する。最近では子供の就職に親の意見が左右することが多いことから、親にも土木の使命と価値を伝える必要がある。子供は宣伝マンとして大活躍する。子供を楽しませる(写真- 1) ことができれば、イベントを終えたあとに家族との団らんや学校の友達に土木体験の自慢をするため、多くの人に土木の魅力を伝えることができる。

(2)リアルな現場で仕事体験
リアルな現場でイベントを開催することで、現場の大きさ、空気感、匂い、音、振動などを伝えることができる。また、誰が、何のために、どんな仕事をしているのかを伝えることもできる。さらに、現場で仕事体験(写真- 2)をすることで働く人の気持ちを身体と心で受け止めて土木の仕事をより身近なものに感じてもらうことができる。

(3)プロの技の披露
初めて仕事体験する参加者は失敗する。しかし、プロが簡単に手ほどきを披露(写真- 3)すると
「かっこいい!」や「凄い」などの歓声とともに拍手が沸く。「かっこいい!」や「凄い」は、「憧れ」に繋がる。テレビでプロ野球選手やプロサッカー選手の活躍に憧れるのと同じである。プロは自分の作業に歓声や拍手をもらうことで仕事に誇りをもてるようになる。

(4)写真撮影をしてもらう
デミーとマツのイベントでは、現場内の写真映えスポットを探しイベントで写真撮影会(写真— 4)を行う。参加者は、普段見たことない工事現場の非現実空間に魅せられ多くの写真を撮影する。子供にポージングなどを決めさせると、ヒーローになった気分になる。撮影写真は、SNS で拡散してもらうため、PR 効果が高まる。

(5)家族の参加
市民への理解も大切だが、家族への理解が一番大切だと思っている。我々のイベントでは、お父さんやお母さんが活躍できる場を演出している。前述するプロの技の披露もその一つである。参加者からの歓声や拍手されている姿を見た家族は、お父さんとお母さんを誇りに思う。

(6)少人数で実施
イベントの参加者を少人数に絞ることで、一人あたりに費やす体験時間を長めに設定でき、参加者全員が十分に満足できる体験が可能となる。大勢だと説明などが一方的になってしまい、参加者との距離感が縮まりにくい。少人数で双方向なイベントができれば、参加者との距離が縮まり、信頼関係を築くことができ、伝えたいことが伝わりやすくなる。

(7)主催者になる
発注者や受注者が、土木の必要性や大切さを説明しても自我自賛になり説得力に欠ける。我々が主催者として同じ説明をすることで参加者の共感を得易く、発注者と受注者がヒーローに変身する。我々のような第三者の存在が必要であり、第三者が主催することで土木が伝わりやすくなる。

(8)伝えたいことを絞る
イベントで説明したいこと、見せたい場所がたくさんありすぎて全てを実行することが多い。情報量が多すぎると、何を伝えたいのかが分かりにくくなる。見る場所が多いと、滞在時間が短くなり、十分な説明ができなくなることや、移動ばかりが増えて参加者が疲れてしまう。我々は伝えたいことを絞り込みイベントを組み立てている。

(9)一体感を大切にする
イベントの協力機関と伝えたい思いにギャップがあると、バランスが崩れて伝わりにくいイベントになる。そのため、我々の思いが伝わるまで何度も話し合いを行う。イベントでは我々のやりたいことを押し付けるのではなく、協力機関と一緒になってイベント内容を考える。一緒に考えることで、イベントの達成感を共有・共感できる。

(10)メディアの活用
土木のことを知らないメディが多い。メディアにも土木の使命と価値を伝えることができれば、取材をしてくれる確率が増える。そのため、我々はメディアに何度も足を運び土木の使命と価値について説明を行う。また、メディが撮りたい写真やメディアが作る番組の流れを想定しながらイベントストーリーを組み立てるなどの工夫を行っている。

5.今後の展開
我々の活動はボランティアで行っているため、活動の幅に限界がある。そのため志を共にする仲間が必要となる。現在、我々が力を注いでいるのは第二、第三のデミーとマツの育成である。
具体的には、①デミーとマツマインドの植付けるための講演活動、②伝わる土木体験イベントのプロデュースならびに指導である。
2019 年 4 月に九州地方整備局広報官・広報担当者会議において講演、同年 11 月に中部地方整備局が中心として発足した産官学連携広報プロジェクト「あいち土木の魅力・未来プロジェクト」において、講演ならびにプロデュースを行っている。
同年 12 月には東京で開催された全国建設青年 会議第 24 回全国大会(大会テーマ「子供たちへ未来の建設を繋ぐために」において、全国から集まった建設業関係者、国土交通省関係者など約 600 名の聴衆の前で講演「デミーとマツ式伝わる土木広報」を行うとともに国土交通省大臣官房技術審議官 東川直正氏、事業構想大学院大学学長 田中理沙氏、大会会長 高野大介氏とともに「働きたい建設業をつくる」をテーマにパネルディスカッションを行った。
このように我々の活動が全国へ広がろうとしている。今後もデミーとマツは土木広報のトップランナーとして「土木で働く人が誇れる職業に、子供たちが憧れる職業に」を目標に全力で土木業界を応援していくとともに、全国に「土木の風」を吹かせて土木ファンを増やしていく。

参考文献
1)噂の土木応援チームデミーとマツHP
https://doboku.wixsite.com/index

謝辞
活動に協力してくれた関係機関や支えてくれた松永昭吾氏をはじめとする仲間に感謝の意を表す。

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