一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
国道220 号早崎改良 新海潟(しんかいがた)トンネルの開通
谷口廉宏

キーワード:早崎改良事業、山岳トンネル、国土強靱化

1.はじめに
国道220 号は、宮崎県宮崎市を起点とし、鹿児島県霧島市に至る道路で、南九州東南部地域の経済、産業、観光振興等の上で重要な役割を担う主要幹線道路である。また、鹿児島県大隅地域と県庁所在地である鹿児島市や鹿児島空港とを結ぶ重要な路線としても機能している。
国道220 号早崎改良事業は、鹿児島県垂水市の牛根・早崎地区における安全・円滑な交通の確保と、土砂災害などに強い道路の整備(異常気象時の通行規制区間の解除等)などを目的として、昭和59 年度に事業化し、平成9 年度に早崎大橋区間(延長1.1㎞)、平成19 年度に牛根地区(延長2.7㎞)の供用を開始している(写真-1、2参照)。
図-1に早崎改良事業の位置図、図-2に早崎改良事業の事業区間を示す。
今回開通報告を行う新海潟トンネルは、この早崎改良事業の残事業区間1.4㎞内に位置し、事業の中核をなす工事である。

2.新海潟トンネルの整備
(1)トンネル諸元
写真-3に新海潟トンネル付近の航空写真を示す。表-1に新海潟トンネル諸元を示す。

(2)安全・円滑な交通の確保
早崎改良事業の残事業区間は、歩道が未設置で路肩も狭いことから、歩行者の安全が十分に保たれているとはいいづらい状況であった。そのため、当該道路は小中学校の通学路に指定されているにも関わらず、安全の問題から学童を車で送迎している状況も認められた。
特に、残事業区間内に位置する既設海潟トンネル(延長L = 95m)は、歩道のない2 車線トンネルで、内空断面が小さく、改良前の道路区分(第3 種第3 級相当)の建築限界に対して断面が不足していた。そのため、既設海潟トンネル内では、大型車の中央線のはみ出し走行が頻繁に見受けられ(写真-4参照)、交通量の増加とともに、事故の危険性が高まっている状態となっていた。
このようなことから、トンネル区間の安全・円滑な交通確保のために、建築限界の拡大、歩道の確保が求められた。そこで、本事業では、既設の海潟トンネルの横に1 車線の新海潟トンネルの構築を行い、既設トンネルと新設トンネルを上下1 車線ずつ運用し、早崎改良事業の道路区分(第3 種第2 級)の建築限界を確保するとともに、既設トンネル内に歩道の幅員を確保する計画とした(図-4参照)。

(3)土砂災害に強い道路の整備
早崎地区は活発に活動を続ける桜島(写真-5参照)の昭和火口から約6㎞のところに位置している。そのため、当該地区の斜面は、基盤岩の上に有史以来の桜島の噴火に由来する火山灰層・ボラ層(軽石層;写真-6参照)が表面を覆っている。
桜島の爆発的噴火回数は、平成25 年には835回を数え、斜面上には火山灰が継続的に供給されている。そのため、表層の火山灰層・ボラ層は、豪雨の際に崩壊の危険があり、土砂災害に強い道路の整備が求められた。
写真-7に平成17 年に既設海潟トンネル坑口付近の斜面にて表層崩壊が発生した状況を示すとともに、図ー4に斜面崩壊の概念図を示す。
このようなことから、トンネルの両坑口上部の斜面については、強固な表層崩壊対策工を施した。対策は「のり枠+鉄筋挿入工(L = 2 ~ 5m)」を基本とし、その上で、降灰量が年間数㎝にもおよぶ当該地区の地域特性を考慮し、枠内はモルタル吹付けとした(写真-8参照)。

(4)トンネル掘削
トンネル掘削対象となった地山の深部は、斜面表層部と異なり、高温な火砕流が溶結して形成された非常に硬質な溶結凝灰岩であった。そのため、ブレーカ等を用いた機械掘削はできず、151.8mと短いトンネルにも関わらず、全線発破掘削を行う必要があった(写真-9参照)。
発破掘削の実施にあたっては、既設トンネルと近接するため、爆音等を考慮し1回5分程度の一時通行止めを1日当り最大6回実施し、通行車両への影響を考慮した。
また、発破に伴う既設トンネルへの影響把握・安全性の確認については、事前調査で確認したひび割れ部の常時観測を実施した。既設トンネル内や地山の変位については、3次元による変位計測を実施し、発破直後のひずみと収束の確認、掘進長の進捗に伴う地山全体の変位状況の把握を行った。さらに、実施発破掘削に伴い周辺環境の保全を目的として坑口付近には防音扉の設置、仮設ヤードの仮囲いの設置を行った(写真- 10、11参照)。
周辺には家屋もあり、早朝や深夜の発破は極力回避し、やむを得ず実施する場合は、段数や薬量を調整し騒音・振動に配慮した。
上記の対策を行った結果、既設トンネル並びに通行車両への影響もなく、また、周辺住民からの苦情等もなく、工事を完成することが出来た。

3.開通
新海潟トンネルは、本年(平成26 年)2 月1 日に、既設トンネルの下り線交通を新設トンネルに切替え、供用を開始した。
その後、既設トンネル内に歩道を整備する工事を引き続き実施し、3 月末に整備事業全体を完成することができた。
写真- 12 に完成した新海潟トンネルを、写真-13 に、2 月1 日に実施した開通式の状況を示す。開通式には大勢の近隣住民の方が参加して下さり、本トンネルへの期待の大きさを伺うことができた。

4.おわりに
新海潟トンネルの開通により、「トンネル通行時に大型車と離合する際の恐怖がなくなった。」などの評価を頂いている。
最後となるが、本事業の実施にあたっては、地元住民の方々をはじめ、関係諸機関、設計コンサルタント、施工者、その他大勢の方々にご協力頂いた。ここに感謝申し上げる。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧