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「国道218号 北方延岡道路開通の波及効果
九州地方整備局 新保二郎
●はじめに

宮崎県北地域は、東九州随一の工業集積を誇り、宮崎県北地域の中心都市として発展してきた延岡市や、海上交易拠点の主要な役割を果たす細島港を擁する日向市や門川町など、重要な交通の結節点としての地理特性を有している。
また、その背後圏に位置する東部沿岸部では農業・水産業が、西部山岳地帯の高千穂町・日之影等では豊富な森林・観光資源を生かした地域づくりが盛んに進められている。しかしながら、人口減少等により、他地域との競争力強化などの課題も抱えている。

このような地域特性の中、延岡河川国道事務所では、地域産業や観光を支援するための交通網、特に、未整備の高速道路網整備について、東九州自動車道の県境~北川間、国道10号延岡道路、国道218号北方延岡道路、国道218号高千穂日之影道路の整備を推進している。
今回、これらのうち国道218号北方延岡道路の部分開通の波及効果について紹介する。

1.国道218号北方延岡道路について
(1)国道218号沿線の現状
国道218号は、高規格幹線道路網の一部である九州横断自動車道延岡線と平行し、熊本市を起点とし、山都町、五ヶ瀬町、高千穂町、日之影町を経て、五ヶ瀬川の左岸沿いを通過し、延岡市に至る延長約146kmの幹線道路で、九州中央部を東西に結び、社会、文化、経済活動に重要な役割を果たしている。しかしながら、国道218号は、平面線形・縦断線形不良区間が存在するとともに、一部冠水区間が存在し、交通止めに伴い社会経済活動に大きな影響を与えており、走行性・安全性の確保が急務となっている。

(2)国道218号北方延岡道路の計画概要
当道路は、宮崎県北地域の産業や経済の発展等はもちろんのこと、国道10号延岡道路と接続し、延岡市街地部の交通混雑を緩和するとともに、将来、東九州自動車道及び九州横断自動車道延岡線と一体となって、高速交通ネットワークを形成する自動車専用道路として計画された路線である。

特に、北方延岡道路の現道である国道218号は、五ヶ瀬川沿いを通過し、平成17年9月の台風14号の豪雨により冠水、平成19年8月の台風5号の豪雨でも冠水し周辺の地区が長時間にわたり孤立するなど、早期の現道の代替ルートの整備が必要な状況であり、当道路は、災害に強く、安全性、信頼性の高い代替機能を有している。


写真-1:国道218号北方町総合支所付近冠水状況
(H17.9 台風14号時の被災状況)

(3)部分開通の状況
平成8年の事業化決定以降、区間を3工区に分けて整備を進め、平成18年2月18日には延岡市舞野町~延岡間の2.1㎞ (3工区) を供用開始、平成20年4月26日には北方IC~舞野間の6.4㎞ (2工区) を供用し、併せて8.5kmを供用開始したところである。
以下の写真は、地元主催による開通プレイベント時のウォーキングの状況で、約2千名もの参加のもと、『どげんかせんといかん!命をつなぐ地方の道』と書かれた横断幕を作製されるなど、地方部の道路整備の必要性を切に訴えてられていた。

写真-2:開通プレイベントの状況(H20.4.19)

写真-3:開通プレイベントの状況(H20.4.19)

また、1週間後の開通式典では、会場に入りきれないくらいの大勢の方々が参加され、開通を祝って頂き、この開通を待ち望んで頂いていたことを痛感した次第であった。


写真-4:開通式典時の状況①(H20.4.26)


写真-5:開通式典時の状況②(H20.4.26)


写真-6:開通(H20.4.26)後の通行状況
※概ね6割が現国道218号から転換し、
1日あたり約6千台が通行する

残る北方町蔵田~北方IC間の4.6㎞ (1工区) については、平成18年11月19日に着手式として鋲杭打ちを行い、平成20年11月から用地買収に着手したところであり、地元の皆様のご理解・ご協力により、約半年で約5割を超える用地の協力を頂いており、今年度(平成21年度)も事業推進を図ることとしている。
今後の事業の実施にあたっては、着実なコスト縮減を図るとともに、事業のマネジメント管理を重視し、地元の皆様へ工事中の影響を最小限にしつつ早期供用を目指して整備を推進することとしている。

2.国道218号北方延岡道路の整備効果
(1)整備効果の概要
整備により期待される効果と、一部ではあるが開通後に寄せられた地域の声を併せて紹介する。
当事務所で考える整備効果と同様な声を頂くとともに、残り区間の整備促進の声も頂いている。
◎:事務所で考える整備効果
●:開通後の地域の声
効果①:災害時等における広域交通の信頼性確保
◎国道218 号被災時における代替ルートとなり、物流・経済活動を確保
◎県北地域と熊本方面を結ぶ唯一の緊急輸送道路1次ネットワークとしての十分な機能確保
【地域の声】
● 平成19年8月の台風5号豪雨により国道218号が冠水により孤立し、救急車も入れず、ボランティアも応援に来ることができなかった。
●ようやく安心して生活できるようになった。

効果②:走行環境の改善
◎規格の高い道路整備により、北方町~延岡市間の走行環境の改善が期待
◎国道10号延岡道路と一体となったネットワーク整備により市街地部の交通混雑緩和や、走行環境の改善による走 行時間の削減、CO排出量の削減等の効果が期待
【地域の声】
●曲がりくねった道で交通事故の可能性も高かったが、安全性が増した。
●北方延岡道路が開通し、国道218号の交通事故がずいぶん減ったように思う。

効果③:安全で安心できる暮らしの確保
◎高度医療施設への早急な搬送が期待でき、救命率の向上など住民の安心・安全の確保
◎走行性の向上により、揺れや振動も押えられ、患者の安静な搬送が期待
【地域の声】
●日之影町で足の大動脈切断の大怪我をされた方が開通後の北方延岡道路を通り、県立延岡病院に搬送され、一命を取りとめられた。
●延岡の病院などへの通院が楽・便利になった。
【消防関係者からの声】
●救急出動、救急搬送時の1分の差は非常に大きく、救命率の向上が期待できる。
●救急車は、運転手が病院と無線連絡をとりつつ、カーブや道路の小さな凸凹にも気遣いしながら運転しなければならないため、救急車両走行時における安全性が非常に高くなっている。
●揺れが少なくなり、緊急搬送時の患者の負担が軽減されるようになった。

宮崎県北地域には、三次救急医療施設として県立延岡病院があるものの、二次救急医療施設は旧北方町になく、更には、人口1万人あたりの医師数や病院数など日常(一次)の医療面をみても、医療サービス水準は低く、旧延岡市に依存せざるを得ない状況である。


図-1:県北地域の救急医療体制


図-2:県北地域の日常医療の状況

効果④:地域開発の支援
◎高速ネットワークを活かした物流拠点地区形成に大きく貢献
◎企業立地・企業活動の進展や地域の発展に寄与
【地域の声】
●クレアパーク延岡は、企業誘致が進んでおり、未造成の第二工区の問合せもきている。


図-3:クレアパーク延岡の計画図

効果⑤:広域道路ネットワーク整備による広域交流支援
◎人口集積の高い北部九州及び西九州の基幹都市への所要時間は大幅に短縮し、延岡の産業・経済活動圏域の拡大や広域交流の活発化が期待
【地域の声】
●北方延岡道路の開通で延岡市街地を完全に回避することができ大変便利になった。延岡南道路の利用率も上がっていることと思う。
●延岡から高千穂方面への配送について業務が効率化した。


図-4:高速ネットワーク整備時の時間距離イメージ

効果⑥:広域観光の振興支援
◎九州横断自動車道延岡線が整備されると、「阿蘇」,「熊本市」等の九州有数の観光地や都市部と延岡地域が2時間以内で結ばれる
◎県外観光客が少ない延岡市等は回遊性が向上することで、多くの県外観光客の来訪が期待
【地域の声】
●将来、阿蘇~高千穂~竹田の歴史観光ルートの展望も開け、九州全体の活性化にも繋がる。
●今後、熊本・高千穂方面からの観光客誘致を進める上で効果があると思われる。

効果⑦:地域産業の振興支援
◎漁業や農業が盛んであり、宮崎県水産物ブランド品の認証を受けた「北浦灘アジ」、「ひむか本サバ」や、宮崎ブランドの認証を受けた「みやざき新たまねぎ」、「みやざきエコオクラ」などの様々な特産品の販路拡大


図-5:宮崎県北地域における主要特産品

【地域の声】
●今後、熊本・高千穂方面からの観光客誘致を進める上で効果があると思われる。

効果⑧:その他の地域の声
●時間短縮・利便性向上
・通勤・通学など時間短縮により便利になった。
・延岡から熊本・福岡方面への移動時など、時間短縮だけでなく時間がよめるようになった。

●時間短縮・利便性向上
・通勤・通学など時間短縮により便利になった。
・延岡から熊本・福岡方面への移動時など、時間短縮だけでなく時間がよめるようになった。

2)整備効果の分析(アンケート調査)
以上の想定される整備効果及び地域の声を基に、広域的な視点や間接的な効果も把握できるよう効果の特定テーマと調査の実施方針を設定し、そのテーマごとに適切な調査内容やアンケート手法を採用し把握・分析を行った。
以下に、各種アンケート結果のうち、注目される傾向の一部を紹介する。


図-6:効果の特定テーマ、実施方針、調査内容等

①実生活への影響
整備効果の影響が想定される国道218号沿線市町の住民を対象に実生活への具体的な影響を調査した結果、高千穂、日之影町方面の方々は買い物・通勤等の日常的行動、延岡市の方々は観光・レジャー等の非日常的行動が増加する傾向の回答が多数を占めた。今後の地域活性化に期するものと考える。また、災害等に対する安心感が増したとの意見も多数頂いた。

(
住民アンケート:高千穂町、日之影町、延岡市住民1,000 世帯を対象、回答267 票
(H21.2.9 ~ 10 配布、2.20 までの回収分で集計)
)
 


図-7 北方延岡道路開通に伴う実生活への影響

また、今後の北方延岡道路の延伸整備については、災害等における迂回路に対する期待が多数を占め、県北地域の地域間交流の促進等に関する期待も多数の意見を頂いた。


図-8 延伸整備に伴う期待

②県外地域からみた整備に対する期待
宮崎県北地域のみならず、県外地域からの道路整備についても、これまでに車で延岡を訪れた方を対象にwebアンケートを実施した。延岡に対するイメージは、地域の特色・特産等は理解されているものの『遠い』との意見が最も多く、特に、福岡県や熊本県の方々が自動車専用道路の整備による大幅な時間短縮を望んでおり、九州横断道延岡線の整備が必要との意見が多いことが伺える。

(
web アンケート:福岡県、熊本県、大分県を対象
(H21.2.16 ~ 18 の1,000 票で集計)
)
 


図-9 延岡に対するイメージ


図-10 道路整備に伴う延岡への来訪の増加見込み

③観光客の観光行動の把握
北方延岡道路の一部開通による観光行動への影響について、県北地域7駅での来訪者聞き取り調査による利用者の居住特性から、横断道延岡線の整備により福岡・熊本から、東九州道の整備により北九州・大分からの来訪者増加が期待できると推測される結果となった。
(H20.11.23(日)実施、7駅合計925票)


図-11 道の駅別の利用者の居住特性

また、旅行代理店へのヒアリング結果では、「高千穂-宮崎市間は時間がかかりすぎて(4時間30分~5時間)、観光ルートとしてつなげられない。高千穂⇔宮崎市間の高速ネットワーク整備のメリットが高い。」との意見を頂いた。


図-12 居住地域別の利用経路

④事業活動への影響把握
産業活動(農業、林業、漁業、工業)について、現状の課題と道路の使われ方、道路整備への期待について企業ヒアリングを行った。
すべての産業において、地理的な不利や輸送コストについて、さらに、魚介類は線形不良による運搬の不都合も課題を抱えており、道路整備により販路の拡大への期待が大きいことが伺える。


図-13 県北地域における各種産業の主な利用経路

●おわりに

道路は、人流・物流だけでなく、人命を救い、さらには情報を運び、地域発展の基盤を成すものと考える。今回整理した整備効果は一部分であり、様々な分野での波及効果があると考える。また、都市部の方々でも地方部の道路整備の必要性が理解されるよう、効果把握・整理が必要と考える。
現在、県北地域では高速道路整備後を想定し、地元商工会議所等が中心となり「活道会」を組織され、ストロー減少など負の効果の回避などについて活発な議論・検討が進められており、当事務所は積極的に支援させて頂くこととしている。
当道路2・3工区(8.5km)の短期間での開通は、地元の方々をはじめ関係各位の協力により実現でき、全区間整備についても協力を頂いている。宮崎県北地域の活性化、より一層の地域間連携支援を主眼に据えた基盤整備に努め、今後とも、地域の方々とともに透明かつ効率的な道路整備の推進に努めることでご期待に応えて参りたい。

~開通1年後の地域の声~」

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