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国土交通省の誕生がもたらした新しい動き

国土交通省 九州地方整備局
 企画部 企画調整官
西 野 賢 治

1 はじめに
平成13年1月6日,中央省庁等改革の一環として,国土の総合的,体系的な利用・開発・保全,そのための社会資本の整合的な整備,交通政策の推進等を担う責任官庁として,北海道開発庁,国土庁,運輸省及び建設省を母体として国土交通省が発足した。国土交通省の誕生に伴い,本省や地方支分部局の組織が統合されるとともに,従来9つあった審議会(中央建設業審議会,道路審議会,公共用地審議会,河川審議会,歴史的風土審議会,都市計画中央審議会,住宅宅地審議会,建築審議会,国土開発幹線自動車道建設審議会)を再編成し,社会資本整備審議会として生活の基盤から国土の基盤までトータルにまちづくり,地域づくりを審議することとなる等,組織的に大きく変化するとともに,仕事の進め方にも大きな変化が生じた。
九州では省庁統合に伴い,建設省九州地方建設局と運輸省第四港湾建設局が一緒になり,九州地方整備局が誕生した。
これにより,九川地方の都市,住宅,河川,道路,港湾,空港,営繕事業などの幅広い分野の社会資本整備を所掌するとともに,国の直轄事業のほか,県や市町村の行う補助事業や建設・不動産薬行政など,従来本省で行っていた業務の一部が地方支分部局に移譲された。九州地方整備局では,統合のメリットを最大に活かすべく,従来縦割りであると批判が強かった各事業の連携を進めるとともに,より地域に密着した補助事業を所掌するに伴い,地域の抱える諸課題を解決すべく施策を推進している。
また,平成14年4月に今後の九州地方整備局の所管事業のあり方(理念)について「九州新長期ビジョン~都市と自然,アジアが身近な21世紀のフロンティア九州~」を策定した。
本稿では,「国土交通省の誕生がもたらした新しい動き」と題して,①九州・新長期ビジョンの紹介②九州地方整備局における連携施策の取り組み状況③国土交通省の最近の動きとして,長期計画等の見直し,コスト構造改革について紹介する。

2 九州・新長期ビジョンの概要
九州・新長期ビジョンにおいては,3つの基本施策及び基本施策を推進するにあたるための方策を具体的に提示しており,以下にその概要を紹介する。

(1)「九州・新長期ビジョン~都市と自然,アジアが身近な21世紀の
 フロンティア九州~」に示す3つの基本施策
① 「暮らしを守る国土と環境の保全・再生」
人々の最も身近な安全と安心を確保するため,流域圏を基本的な単位として,災害対策,水資源の確保,自然環境の保全等に加え,歴史・文化をも認識しつつ総合的な国土の保全と管理を図る。また,災害を未然に防ぐための危機管理体制についても充実させていく。更に,循環型社会に対応するため,環境負荷の少ない社会資本整備に努める。

② 「自然と都市サービスを享受できる都市・自然交流圏づくり」
適度に分布する「都市圏」の高度な都市機能を整備・充実するとともに,中小都市を核とし,農村漁村や離島,半島が一体となった「多自然居住地域」の基盤を整備する。
さらに,隣接する「都市圏」と「多自然居住地域」を有機的に結合させ,都市機能と豊かな自然を享受できる「都市・自然交流圏」を形成していく。

③ 「地域の活力を支えるネットワーク型交流基盤づくり」
「都市・自然交流圏」の核となる8つの「基幹都市圏」を高速交通・通信ネットワークで結合し,九州の一体化を推進するとともに,国際交流基盤の整備により,環黄海,環日本海・環東シナ海の経済圏の形成を強化し,あわせて「九州広域国際交流圏」の本格的確立を図る。

(2)推進方策
施策の推進にあたっては,以下の事項について留意し事業展開を図る。
① 多様な主体の参加と連携を促すコミュニケーション型行政の推進
地域住民,ボランティア団体,NPO,民間事業者等及び関係行政機関相互の連携を図りつつ,社会資本整備の促進に努める。
説明責任(アカウンタビリティ)の向上,住民のパートナーシップによる協働,多様な主体の参加や連携による地域づくりの支援に取り組んでいく。

② 良質な社会資本整備の推進
ユニバーサルデザインの考え方やコスト意識を持ちつつ,丈夫で長持ちのする社会資本整備を図るとともに,多様な利用に応え地域の住民にはぐくまれる事により,長い年月の間に風土として地域の個性に溶け込んでいく美しい社会資本の整備を進める。

③ 効率的・効果的な事業実施と公平性・透明性の確保
地域発のプロジェクトを発掘し,地域との連携を図りながら,地域づくりに寄与する効率的・集中的なプロジェクトの育成を図る。

④ マネジメントサイクルの確立に向けた評価システムの充実
各施策について,その必要性や有効性,効果等を事前にチェックし,施策実施後の目標達成度の測定や効果を分析し,改善方策を検討する政策評価システムの積極的導入とその充実を図る。

⑤ 新技術の利用促進及び技術開発の推進
ソフト技術を含む「建設コストの縮減」,「安全・安心の確保」,「環境保全対策」等の課題解決に向けた適正な「新技術・新工法」の公共事業への積極的な活用・普及を図るとともに,技術開発を推進する。

(3)ビジョン策定後の動き
平成14年4月にビジョンを策定後,ビジョンをより多くの方に知っていただくとともに地域のニーズの掘り起こしを目的とした地域懇談会を,九州全県において実施した。
また,ビジョンで掲げた「都市・自然交流圏」の実現を図るため,九州各地・各分野の有識者からなる「九州都市・自然交流圏研究会」を設置し,ビジョン推進のための具体的な方策について検討を行っている。

3 九州地方整備局関連の連携施策
(1)基本的考え方
国土交通省では省庁統合のメリットを活かし,従来縦割りで行われているとの批判が強い各種事業の連携施策を行い,まちづくり,地域づくりの支援を行っていくこととしている。以下に,ハード的施策とソフト的施策に分けて,九州地方整備局において行われている連携施策を紹介する。

(2)ハード的連携施策
① 施策融合による新しい施策の展開
a 九州新幹線駅と周辺まちづくりの連携
(効果)利用者の利便性の向上,駅と一体となったまちづくりが図られる。
(事例)西鹿児島駅,新水俣駅,熊本駅
b 連続立体交差事業と市街地整備の連携
(効果)鉄道の高架化とあわせ,街路,土地区画整理,道路事業など同時に実施する事により,市街地整備,都市の発展といった面で大きな効果が期待できる。
(事例)大分駅周辺,日向駅周辺,香椎駅周辺など

② 共通目標に基づく守備範囲の広い施策の総合的実施
a 港湾,空港と道路の連携強化による物流の効率化(マルチモーダル交通体系事業連携)
(効果)マルチモーダル交通体系の整備により,環境負荷とコストの低減効果が期待できる。
(事例)新北九州空港と北九州空港道路,新若戸道路の整備と響灘開発,女神大橋の整備と長崎港
b 道路と地下鉄の整備による都市交通の円滑化
(効果)適切な機能分担による交通渋滞の緩和,交通利便性の向上が図られる。
(事例)福岡外環状道路,福岡都市高速5号線,福岡地下鉄3号線の整備等

③ 共通計画に基づく各種事業の集中実施による効果の早期実現,効率化
a シビックコア地区整備計画
(効果)シビックコア地区整備計画に基づき,国,県市等が集中的に事業を実施する事により,中心市街地を活性化し,魅力と賑わいのある拠点地区を形成する。
(事例)都城市シビックコア地区整備事業
b 総合的土石流対策の強化
(効果)災害流出土砂受入施設の整備によるコストの縮減が期待できる。
(事例)多比良港,鹿児島港

(3)ソフト的連携施策
① 情報の共有・統合による施策の質の向上
a 高速バスロケーションシステム「九州IT’S(いつ)バス」
(効果)高速バスのGPS情報を関係機関で共有化し,公共交通支援や運行管理システムの開発の合理化を図る。
(連携機関)九州地方整備局,九州地方運輸局,JH九州,福岡北九州高速道路公社,バス事業者
b 国道,河川の県管理区間に対する防災情報の支援
(効果)県管理区間への支援対策として,防災ヘリ,衛星通信車,照明車等の災害対策用機械,機器を出動させ,情報収集等の支援を実施する。
(連携機関)九州地方整備局,気象庁,各県

4 最近の国土交通省の重点施策
(1)公共事業関係長期計画の見直し
公共事業関係の長期計画については,従来,事業分野別の計画で示されていた。これらの計画は,省庁統合前に策定されており,各事業毎にどういう政策を行い,それに必要な予算額を示すという役割を担っていた。
しかし,こういった事業別の縦割りの計画であることが予算の硬直性を招いているのではないか,一度事業化されると計画時と社会情勢が変わっても途中でやめれなくなる等といった疑問を生じさせる一因となっている。
平成14年度,15年度に国土交通省が所管する10本の長期計画のうち9本が期限を迎える事,省庁統合のメリットを最大限に発揮させるという観点に立ち,従来の事業分野別計画について,横断的政策テーマを設定し,事業横断的に重点化・集中化を進めるための一本化された長期計画(国土交通社会資本整備重点化計画(仮称))を策定することとした。(図ー1)

新たな長期計画のあり方については以下の5つの基本的な考え方によることとしている。

① 計画策定の重点を「事業費」から「成果」へ
計画策定の重点を従来の事業費から,社会資本が整備される事により何が実現されるのかを示す横断的に設定されたアウトカム目標(事業を行うことにより,達成される成果)とし,国民にわかりやすく提示する。また,原則として事業費総額は計画の内容としないが,道路事業費については道路関係諸税の税率の根拠になっており,別途明示されることとなる。需要予測は,現行のフォローアップを踏まえて実施,情報公開を行い,フォローアップと必要に応じた見直しを実施する。

② 重点化・集中化の徹底
横断的に設定したアウトカム目標での重点化を基本とし,目標の達成に必要な横断的な取組み内容,国家プロジェクト・主要プロジェクト等を示すとともに,各事業分野においても重点化,優先度を明確化する。

③ 事業間連携のさらなる強化
異なる分野・異なる主体による事業連携を一層強化する。

④ 公共事業改革の取組の強化
コスト縮減目標や事業評価の厳正な実施,事業の重点化によるスピードアップといった,公共事業改革の取組の考え方を明示するとともに,国と地方の役割分担の明確化,地方の主体的取組の促進等を明示する。

⑤国と地方の連携の下,国民に開かれた計画策定プロセスの実現
ブロック別地方懇談会等やPIを実施し,社会資本整備の方向性を国,地方,国民が共有する。

また,長期計画を一本化することに伴う根拠法の見直しも行われている。(図ー2)従来の事業分野別計画の根拠法である6本の緊急措置法を原則廃止し,新たに「社会資本整備重点化計画法(仮称)」を新法として定めるものである。但し,道路整備特別措置法等は道路関係諸税の税率との関係もありどう取り扱うかを引き続き検討が行われている。

平成14年11月現在では,具体的なアウトカム指標をどうするのかといった国土交通省社会資本整備重点化計画の具体的な内容,新法の条文,道路整備特別会計,治水特別会計,港湾整備特別会計,空港整備特別会計等の特別会計制度についての取り扱い等といった議論がされている状況にある。いずれにしろ,平成15年の春頃には新たに一本化された長期計画が策定されることとなる。

(2)コスト構造改革
公共工事のコスト縮減については平成9年度から政府全体としての取り組みを開始した。平成11年度までの3カ年で工事コストを10%削減することを目標とし,結果としてこの目標は概ね達成された。平成12年度からは新行動指針のもとに,引き続き直接的な工事コストの縮減に取り組むことに加え,工事の時間コスト,ライフサイクルコスト等も加えた総合的なコスト縮減に取り組んできた。この間,着実な成果を上げては来ているが,工事コストは公共事業に伴う種々のコストの一部に過ぎず,また,これまでと同様の手法でのコス卜縮減には限界が見えてきたのも事実である。
国,地方自治体とも厳しい財政事情の下で,決して十分とは言いがたいわが国の社会資本整備の現状を鑑みると,工事という局面のみならず,公共工事の全てのプロセスをコストの観点から見直す「コスト構造改革」が求められている。
国土交通省としては,8月29日の経済財政諮問会議において,扇大臣よりコスト構造改革に取り組むことを表明し,9月30日には事務次官を委員長とする「国土交通省公共事業コスト構造改革推進委員会」が設置された。
「コスト構造改革」とは,「発注者としてコストの観点から公共調達の全てのプロセスを従来からの制度的枠組み等にとらわれず見直し,より良い調達システムに変えていくこと」と定義されている。
見直しのポイントとしては,「事業のスピードアップ」,「設計の最適化」,「調達の最適化」の3点に主眼を置くこととしている。

① 事業のスピードアップ
工事に先立つ段階での事業の円滑な進捗を図ることに重点を置き,合意形成手法の改善や,事業の重点化・集中化,用地取得の円滑化を図る。極めて遅れている地籍調査についてもその促進を図る。

② 設計の最適化
計画・設計に関する規格の見直し,民間の技術提案を積極的に導入する仕組みの構築等を行うことにより,従来からの取り組みにおける技術的な限界をブレークスルーする。特に,地域に応じた構造基準の見直し(ローカルルール)や,直轄工事における設計の総点検は地方整備局においても既に具体的な検討が行われている。

③ 調達の最適化
今までの直営方式準拠の考え方を抜本的に改め,民間の調達方式の導入を基本としながら,官民の技術力を結集できる調達を確立するとともに,公共発注における予定価格,積算,発注単位,入札,契約などに関する制度的な制約等についても検討し,必要な制度改革を行うこととしている。

また,コスト縮減の具体的な目標についても,従来の工事コストの縮減率から,新たな数値目標概念である「総合コスト縮減率」を導入することとしている。「総合コスト縮減率」とは,従来の工事コストの縮減に加え,規格の見直しによるさらなるコスト縮減,事業便益の早期発現,将来の維持管理費の縮減といった項目も評価するものであり,具体的な目標数値,目標期間とあわせ,公表すべく現在検討が行われている。

5 おわりに
国土交通省及び九州地方整備局の誕生により,従来に比べ所掌分野が広がるとともに,国土交通行政もドラスティックに動いている。今回紹介した長期計画の見直しやコスト構造改革は今年度国土交通省から表明された最も大きなトピックであろう。
ただ単に4省庁が一緒になっただけと言われないように全省をあげて取り組んで来ており,九州地方整備局においても,そういう中で統合のメリットを最大限発揮するため,長期ビジョンの策定や連携施策の積極展開を図ってきた。
勿論,統合の正否が問われるのはこれからの取り組み如何であることは言うまでもなく,九州地方整備局としても「九州・新長期ビジョン」の理念を実現化するため,関係機関と協力しながら,地域が主体的に地域づくりを進めるための仕組み,地域づくりのあり方を地域が自ら選択していく仕組み,更に九州全体が一体となり,各地の独自性を発揮して自立的な発展を図っていくための体制作りに取り組んでいくこととしている。

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