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嘉瀬川ダムの試験湛水結果について
永松和彦
沖永泰知

キーワード:排水量、揚圧力、変形量、放流設備試験

1.はじめに

嘉瀬川ダムは、九州地方整備局が一級河川嘉瀬川水系嘉瀬川の河口から約30㎞上流本川(佐賀市富士町)に建設する多目的ダムとして、昭和48年度から実施計画調査を行い、昭和63年度に建設事業に着手しました。以来、平成3年度にダム基本計画の告示、平成6年度損失補償基準妥結調印、用地取得、集団移転地の造成、付替道路工事等を実施しました。さらに平成16年度ダム本体工事に着手、平成21年度ダム本体コンクリートの打設を完了、平成23 年度末嘉瀬川ダム建設
事業を完了し、平成24年度より運用を開始しているものである。
本稿は、平成22年10月19日から平成24年2月13日まで実施した嘉瀬川ダム試験湛水結果について報告するものである。

2.嘉瀬川ダムの概要

嘉瀬川ダムは、重力式コンクリートダムであり、洪水調節を始め6つの目的を有し、その規模は、堤高99m、堤頂長456m、堤体積975千3、総貯水容量71,000千3の多目的ダムである。

3.試験湛水結果
3.1試験湛水の目的

ダムの建設にあたっては、入念な諸調査を実施しその結果に基づいて諸設備等の確実な設計施工を行っているところであるが、ダムの初期湛水にあたっては、下記のことからダム堤体等の挙動を計測、監視し、貯水池周辺を含めたダムの安全性を再確認しておく必要がある。
・ダムは、治水や利水を目的として大量の水を貯留する施設であり、このため万一ダムが決壊した場合、その被害の大きさは計りしれないものがある。
・貯水池に水を貯めたり、貯水池の水を安全に流下させるための設備である放流設備も、その機能が損なわれた場合、ダム本来の効用を失うばかりでなく、人工洪水の発生等を引き起こす危険性がある。
・そこでダム築造後初めて湛水にあたる場合には、ダム堤体や基礎地盤の安全性、更には放流設備やそれに関わる諸設備の作動状況、操作の信頼性を確実なものにしておかなければならない。
・貯水池の斜面も、ダムの湛水に伴ってこれまでにない地下水の影響を受けることになり、すなわち地下水の上昇による間隙水圧の発生や浸水による強度低下が原因となって地すべりや崩壊をもたらすことがある。その影響は貯水池周辺の周辺(道路等)やダム堤体の安全性にも及ぶことがある。
これらについて安全性を再確認する行為を「試験湛水」と呼んでいる。

3.2試験湛水結果

本稿では、堤体、並びに放流設備について述べるものとする。

(1)湛水実績

試験湛水は、計画通り平成22年10月19日より開始し、平成23年11月19日にサーチャージ水位(397日経過)に到達した。平均水位上昇速度は、0.2m/日となっており、計画年に対し82日早いサーチャージ水位到達となった。
試験湛水開始から試験湛水完了までの主要水位の到達実績は次のとおりである。
・試験湛水開始:EL219.5m(H22.10.19)
・最低水位:EL245.5m(H22.12.8)
・常時満水位:EL292.5m(H23.8.31)
・常時満水位:EL292.5m(H23.9.21)
・サーチャージ水位:EL300.0m(H23.11.19)
・常時満水位:EL292.5m(H24.2.13(試験湛水完了))
1)水位下降について
サーチャージ水位に計画年より早く到達したことから、堤体並びに貯水池斜面のより安全性の確保の観点及び下流の冬場の流況を考慮して0.1m/日程度の水位下降とした。
試験湛水実績図を図-3に示す。

(2)堤体観測結果
1)排水量観測結果
①全排水量
全排水量の結果は、以下の通りであり、貯水位上昇と排水量の増加に線形の関係が成立している。
ⅰ:各箇所の排水量は、サーチャージ水位時において、左岸部10.4L/分、河床部251.6L/分、右岸部63.4L/分、合計325.4L/分であった。
ⅱ:排水量と貯水位とは、線形の関係にある。但し右岸高標高部においては、J-20~22、25の継目排水量が増加したため若干線形の関係を失っている。なおこれらの排水量は、3L/分~13L/分であり、問題はないと判断される。

②基礎排水量
基礎排水孔各孔の最大排水量及び排水状況は、以下のとおりであり、特筆すべき有害な異変は確認されなかった。
ⅰ:管理基準値である20L/分を超過した孔は、全96孔中3孔であり最大排水量は、
・BL-17D002:29.8L/分
・BL-18D001:24.3L/分
・BL-19D001:63.4L/分であった。
ⅱ:基準値を超過した3孔を含め、貯水位と線形の関係にあった。
③継目排水量
継目排水孔の最大排水量及び排水状況は以下の通りであり、有害な異変は確認されなかった。
ⅰ:管理基準値である20L/分を超過した孔はなかった。
ⅱ:J-20~22及びJ25以外の孔は、貯水位と線形の関係にあった。
※J-20~J-22及びJ-25について、増加傾向がみられたため、要監視孔として注視し、対応した。
2)揚圧力観測結果
揚圧力観測結果は、以下の通りであり有害な異変は確認されなかった。
①揚圧力測定孔での揚圧力
ⅰ:貯水位と観測揚圧力は、線形の関係にあった。
ⅱ:設計値に対し極端に高い様圧力は計測されなかった。
ⅲ:クロス通廊の揚圧力観測結果を図-5に示す。

各貯水位段階での揚圧力の分布を図-6に示す。

3)変形量観測結果
変形量計測結果は、以下の通りであり有害な異変は確認されなかった。
①ノーマルプラムライン・リバースプラムラインの変形量は、同規模の他ダムの事例と同等であった。
②貯水位降下時は、上昇時に比較して変位の戻りは緩慢であるが、上昇時・降下時ともに急変するような状況は確認されなかった。
図-7に上下流方向の変形量を示す。

4)地下水位観測結果
地下水位が、基礎排水量及び揚圧力に与える影響の度合いを知るために、右岸2ヶ所、左岸1ヶ所、左岸下流部1ヶ所の計4ヶ所にて地下水観測を行った。位置及び結果を図-8に示す。

その結果地下水は、貯水位の上昇・下降によらず概ね一定であった。なお地下水変動は降雨の影響を強く受けているものと推察した。

(3)放流設備試験

試験湛水中において、洪水吐である非常用洪水吐(自由越流頂)、常用洪水吐(コンジットゲート)、水位維持放流設備(オリフィスゲート)の要求される機能、作動状況、操作確認を行うために放流試験を実施した。
①非常用洪水吐
非常用洪水吐は、B=13m×19門設置してあり、試験として下記の確認を行った。
ⅰ流入部、導流部、減勢部の流況確認
ⅱ越流部の平坦性の確認
ⅲ放流能力の確認
試験結果、流況については良好である。
平坦性については、各門ともほぼ左右端同時に流出しており良好である。
放流能力については、流入量と越流水深からみて問題ないと確認できた。
②コンジットゲート
要求される機能と安全性及び操作性について確認した。
放流時の測定項目は、振動、変位、応力、風速、圧力、騒音、温度とした。
操作試験としての測定項目は、作動、機側、遠
方操作試験を行った。
また、水密検査、予備動力試験、保護装置を実施した。その結果は、以下の通りであった。
ⅰ振動測定結果
主ゲートの放流時における振動を、圧電式加速度計を使用して測定した。その結果1号ゲート、2号ゲートとも「頗る安定領域」の振動であり問題なかった。また、1号、2号ゲート同時操作時においても振動の大きさに変化はなく「頗る安定領域」の振動であり問題ない。
ⅱ変位測定結果
静水圧におけるゲート扉体の変位を高感度変位計にて測定した。その結果、設計値を下回っており問題ないと判断した。
ⅲ応力測定結果
応力測定は、予備ゲートを全閉した後放流管内を抜水した状態での応力を基準として、充水装置にて充水したときの応力の測定及び放流時の応力変動について測定した。測定結果は、すべて許容応力値を大きく下回っており、安全性が確認された。
ⅳ風速測定結果
給気管吐口風速はゲートの開操作時と全閉直前が大きくなり、最大で9.5m/Sを記録したが、開度一定の放流状態では、5m/S程度の一定風速であった。これは、許容値45m/S(ダム・堰施設技術基準)を大きく下回り、問題ないと判断した。
ⅴ圧力測定結果
1号ゲート放流時、2号ゲート放流時、1,2号ゲート同時放流時において、各左岸側空気箱及び通廊にて圧力測定を行った。その結果放流試験時の圧力変化は殆どなく、左岸空気箱内で最大-0.2kpa、通廊内で-0.10kpaの負圧が測定されたが、許容値15kpa(ダム・堰技術基準)以下であり問題ないと判断した。
ⅵ騒音測定
放流時における、ゲート室内及び下流民家付近で騒音測定を行った。その結果ゲート室内においては暗騒音54db時に99db45db の増加がみられた。また民家付近では、56dbであり暗騒音と変化は微少であり放流による影響はないと判断した。
また、1/3オクターブ分析結果では、放流中に異騒音を示す卓越成分はなく、ゲート操作時も聴覚で感じ取れる様な「金属的な打撃音」、「きしみ音」や「うなり音」は確認されなかった。
ⅶ温度測定
放流時における、油圧ポンプ並びに電動機について運転における温度異常上昇の有無を確認した。その結果許容値以下であることを確認した。
また、操作試験、水密試験、予備動力試験、保護装置作動試験結果についても、正常であり問題がないことを確認した。
①オリフィスゲート
オリフィスゲートについては、放流時の水密試験、操作・制御試験、予備動力試験、保護装置作動試験を実施し、正常な動作であり問題がないことを確認した。

4.あとがき

嘉瀬川ダムの試験湛水は、九州地方整備局としては、「グラウチング技術指針」改訂後初めてであり、このため土木研究所を始め関係機関のご助言を仰ぎながら実施した、この結果計画通り平成23年度内に完了することができました。ここにあらためて、関係各位に感謝の意を表します。

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