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品質の高い床版コンクリ-トの打設について
比丘尼谷(びくにだに)橋における品質向上の為のとりくみ~
今田一典

キーワード:鋼ニールセンローゼ桁橋、コンクリート床版打設、施工管理

1.はじめに
現在、全国の橋梁数は約70 万橋にも及び、このうち約18%は既に建設後50 年を超えている。バブル崩壊後の建設コスト縮減等により、平成14 年3月の道路橋示方書改訂から耐用年数として100 年が目安とされ、今後は維持管理を踏まえた品質・耐久性の高い道路橋の建設が課題となっている。
今回の比丘尼谷橋(L=213.0m)は、国道57号の4車線拡幅事業において建設される橋梁である。本橋は、鋼ニールセンローゼ桁橋(L=125.0m)と鋼2 径間連続非合成プレートガーダー橋(L=88.0m)の2連からなり、床版はいずれも厚さ20cm で、床版幅は8.7m である。その全景を写真-1に、橋梁一般図を図-1に示す。
本橋のうちP2~A2間の鋼ニールセンローゼ桁は、斜材が支点となり、床版が連続梁の挙動をしめすほか、アーチ部材と斜材よって、打設した直後の床版コンクリートに引張力が作用し、床板にひび割れが発生しやすい橋梁形式である。さらに、本橋は阿蘇外輪山の中腹から一級河川 白川に向かう長い坂路(合成勾配3.6%)の途中にあり、冬季に散布される路面凍結防止剤による塩害が懸念される。
これらの条件に加えて、床版コンクリートはボックスカルバ-トや下部工等の構造物と比べて部材が薄く(t=20㎝)、活荷重が直接載荷するので他の部位よりも傷みやすく老朽化が早く進行する。このため、補修工事を行う部位としては、床版下面が多いのが一般的である。
今回の比丘尼谷橋は、(イ)架橋地が急峻なV字谷の地形で、桁下から重機を用いた点検と補修工事が不可能であること、(ロ)橋面上からの補修点検や工事では、橋梁点検車のブームが本橋の斜材ケーブルによって支障となること、等の条件により、本橋は維持管理を踏まえた道路改築事業として、耐久性の高い床版コンクリートが要求され、より丁寧で、密実なコンクリートの施工方法が必要不可欠となった。
ここでは、比丘尼谷橋について行った、19 項目の取り組みを紹介する。

2.比丘尼谷橋床版コンクリ-ト打設検討会
工事で最も重要な事は、施工計画を念密に練り、その計画どおりに施工を行うことである。したがって、事前に準備する施工計画書が工事を左右する。
今回は、品質の高いコンクリート床版を打設するための取組みとして、産官学が一体となった比丘尼谷橋床版打設検討会を立ち上げた。検討会は、施工業者と建設監督官に加え、学識経験者や発注担当課職員、施工計画・施工管理に精通したコンサルタントOB等で構成し、熊本河川国道事務所と比丘尼谷橋床版工事のコンクリ-ト打設現場で開催した。
事務所で行った第1回検討会では、施工業者の打設計画書を参加者全員で議論し、これまでの不具合事例の原因と照らし合わせて計画書の改善点を抽出した。第2回検討会では改善内容を確認し、計画書が根本から改善したうえで現場作業に着手した。
現場では、事務所検討会で改善した打設計画のほか、型枠、支保工の点検、作業員の配置と作業状況を確認し、じかに学識経験者と作業員が温度計測について細かく議論する場面もあった。
写真-2に風よけを施した内側での打設作業状況、写真-3に学識経験者と現場作業員が問答している状況を示す。

3.品質向上の為の取り組み
床版コンクリートの、打設ステップ毎に配慮すべき19 項目を次頁のフロ-(図-2)に示す。

3.1 打設ステップの検討
日にちをおいて分割して床版コンクリ-トを打設する場合、後から打設した生コンの重量により、先に打設した強度未発現のブロックに主桁のたわみによるひびわれが生じる事がある。本橋では、主桁のたわみ量を考慮して支間中央部を先に打設し、両端へ順次打設するよう打設ブロックと順序を計画した(図-3)。さらに、打設中に可動支承側に生じる水平変位量を吸収するために軸方向幅2mの後打ちデッドスペースを確保し、打設がほぼ完了した後にデッドスペース部を打設した。
なお、鋼ニールセンローゼ桁は打設した床版コンクリートの鉛直荷重により、アーチ部材が変形し、斜材を介して下弦材に負の軸力として作用することがあるので、その影響についても検討した。

3.2 円滑な生コン運搬計画
生コン打設が途中で途切れると、コールドジョイント(打設したコンクリートが既に固まってきて、その上から新たにコンクリートを打設すれば、新旧打ち継ぎ目にクラックや強度不足が生じる現象で、打設時間差として冬季60 分、夏季40 分以内を目安として打設することが重要)が生じる。これを無くすためには連続打設が必要であり、このため安全かつ効率的に生コンクリートを運搬するための経路を選定した。渋滞等による遅配を避けるため、片道20 分の2経路を選定し、通学路や見通しが悪い箇所をチェックして交通誘導員を配置した。

3.3 ポンプ車の配置と配管計画
縦断勾配の高い阿蘇側にポンプ車を配置し、熊本側から打設した。スムーズな連続打設が最も重要であると考え、ポンプ車と生コン車、及び後続の生コン車2~3台の待機場所を当初から計画した。さらに現場では、ポンプ車へ生コン車を接続するためのバック誘導は、相互に意思の通じた生コン会社の社員が生コン車を誘導した。

3.4 打設工程計画(天候予測)
打設予定日は、気象予報の降雨確率が30%以下となる日を予定し、前日の予報で施工を最終決定した。
型枠設置の所要日数、鉄筋組立作業等の工程計画を行い、あらかじめ打設日を予定するが、後述の風雨対策と合わせて、当日の打設日を雨で延期するには、現場代理人の判断(とくに、打設体制の中でも作業員、バイブレータ-、生コン車手配などの段取りを中止し、延期する勇気)が必要である。1ヶ月位前から打設日までの気象の状況について、例えば(イ)最近は夕方くらいから急に雨が降る、(ロ)昼ごろカミナリを伴った雨が降る、等の打設予定日直近の気象状況を肌で感じることが重要である。

3.5 風雨対策
打設中の降雨は絶対に避けなくてはならず、コンクリート打設にとって降雨の限界は『自分が新調した背広で気にならない雨』ぐらいを意識し、打設日を1ヶ月前から想定し、降雨の状態を気象データでチェックして打設予定日に備えた。
本橋では、当初予定していた2月13 日(木)の打設予定日は大雨、大雪で、打設中止の判断が品質確保の面で大きなポイントとなった。結果的に3日後の16 日の日曜日に天候が回復し、晴れて無風の状態でスムーズに打設が完了した。もし、予定日に打設していたら、大雨・大雪により品質の保証できない床版になっていた。

3.6 底型枠、足場・支保工の点検
サポートのぐらつき・浮上り等、型枠、梁型支保工、支柱支保工、鉄筋、打設、養生の作業項目毎にチェックシートを作成して確認した。打設前に点検してみると、型枠と受梁が点接触となっていた箇所があり、木製キャンバーを合計で2,000個打ち込んで、安全な面接触に改善した。また、打設中においても支保工のゆるみが生じていないか点検した。

3.7 水平圧送配管の養生
水平圧送配管下への古タイヤ(写真-4)を敷く事により、生コン「圧送時の振動ズレによる鉄筋の結束線の破断を防止できる」とともに、古タイヤが振動を吸収して、所定の鉄筋かぶりを保持する事ができた。

3.8 鉄筋かぶりの確保
所定の鉄筋かぶりを確保するため、主桁の上フランジに定規鉄筋(写真-5)を設置した。
また、地覆鉄筋にテープで印を付け、張出し床版部の打設高さ(鉄筋かぶり)を確保した。

3.9 寒中コンクリート対策
冬季に打設を行い、生コンが硬化する前に凍り付いた場合は、所定の強度が確保できず、著しく耐久性の劣るコンクリートになる。
本工事では、打設直後から内部温度を計測(写真-6a)するとともに、事前にジェットヒーター(写真-6b)を準備し、打設したコンクリートの温度を5~ 20℃に保つように配慮した。
今回は、打設時の外気温15℃に対して生コン内部は17℃、打設3~4日後に1.5℃まで気温が降下したが、ジェットヒ-タ-を焚いて5℃以上を保ったので生コンの凍結は生じていない。

3.10 打設前の掃除
コンクリートに混入した木片等の異物は、必要断面を欠損させ、構造上の欠陥となる。また、鉄筋に付着した汚れや錆はコンクリートとの付着力を低下させ、耐荷力不足や、コンクリート片の剥落による事故を引き起こす。本工事においては、打設直前に鉄筋の汚れや浮錆を念入りに取り除いてコンクリートの付着を良くし、型枠に付着した油やゴミを取除き、コンクリート内部への異物混入を防止した。

3.11 地覆部目地の止水板
標準では10 m間隔の収縮目地を5m間隔に変更し、さらに膨張材を添加して生コンクリートの温度変化による外部拘束クラックを防止した。
また、地覆部の目地に止水版を埋設し、完成後の漏水を予防した。止水版は錆びて錆汁が垂れ落ちないようにステンレス板を用いた。
写真-7に目地部への止水版の設置状況をしめす。

3.12 打設前の最終確認・点検
事務所検討会の内容を踏まえて練り直した施工計画書に従い、打設当日に人員と機材の配置、生コンの配合と出荷予定時刻、交通誘導員の配置等について最終確認を行い、打設作業中のトラブルを防止した。

3.13 添接部の長孔ボルト
鋼ニールセンローゼ桁について、床版コンクリート打設により主桁に作用する引張力を解放するため、最後に打設する箇所の添接板についてはボルトを仮締めとした(図-5)。この箇所のボルト孔は長孔とし、最終打設の直前に本締めを行った。

3.14 生コンクリートの誤配防止
生コン車の誤配(床版コンクリート用の生コンではない、強度の異なる生コンの投入)は、構造物本体に大きく影響し、仮に1台の誤配でも所定の強度が確保できなくなり、供用に問題が生じる。
このため、本工事の専属生コン車を固定し、フロントガラスに工事名と会社名を明示して、現場で車番と伝票を確認した。

3.15 コンクリートの打設方法
コンクリートが流れないように縦横断勾配の低い方から打設し、バイブレ-タ-を垂直にかけて鉄筋に触らないよう注意した。

3.16 コンクリート打継目の処理方法
打ち継目はせき板とさん木で仕切り、せき板に凹凸形成シート(KKシート)を設置して、新旧コンクリートの付着を良くした。
打設時においては、ブリ-ディングが生じたころにバイブレータ-で再振動をかけてエアー抜き(5%位)を行い、コンクリート強度の増加をはかった(図-6)。実際、再振動すればコンクリート面が下がるので、あらかじめ余盛した状態で再振動した。

図-6  打継目の再振動

3.17 打設による桁・支承の変形
打設によって過度のたわみが生じていない事を確認するため、打設前後で支承の変位量を確認した。今回の工事では、計算上26.5㎜を想定していたが、実際は18㎜に抑えることができた。

3.18 コンクリートの表面仕上げ
コンクリートの表面は、木ゴテによる打設直後の荒仕上げと、ブリージング水が浮いて来た後の金ゴテ仕上げの2段階を行い、さらに、ほうき目にて仕上げた。ブリージング水が固まったものがレイタンスであり、この弱強度材の上に舗装をかける事が舗装すべりの原因である。ほうき目仕上げを行ってもシート防水には何ら問題はないとのヒヤリングも受け、さらに従来のコンクリート打ち継ぎ目の処理と同じ考えで、ほうき目仕上げが床版と舗装の一体化につながるとした。

3.19 養生
コンクリートのひびわれ対策として、生コン打設後の養生が最も重要である。養生マットを布設するまでの、コンクリート表面が硬化して足跡のつかなくなる4~5時間は通常何も行わないのが一般的である。しかし、この間に風によるクラックが亀の子状に発生しやすい。
今回の現場では、橋軸方向および直角方向の4面に、高さ2mのブルーシートを設置して風を遮断した(写真-8)。この対策によって表面に亀の子状のクラックは全く生じていなかった。また、養生マットの上からブルーシートを布設したので養生マットの渇きを抑え、湿潤状態を5日間保持できた。その結果として、乾燥収縮によるひび割れのない、これまでにない良好な床版が完成した。

4.まとめ
今回は事務所から現場まで全6回の検討会を行い、参加者全員の団結によって無地に床版コンクリート打設を終える事ができた(写真-9:工事完了後の全景)。
竣工前に第6回検討会(H26.5.30)を行い、最後に仕上り確認を行った。コンクリ-ト表面にアセトンを塗布すると多見される毛細クラックも、今回の現場では見られなかった。
今回の床版コンクリ-トの仕様と、試験結果を表- 1に示す。
施工を終えて現場代理人は、「最近は、新技術・新工法として紹介されているような技術に頼りがちであるが、まず、現場条件に合った施工方法を立案し、打継部の再振動や、打設したコンクリ-ト表面の急乾燥を防止する風よけの設置など、コンクリ-ト工学の基本を疎かにしない施工を行うことが、品質確保において、とくに重要であることを再認識した」と語っている。
コンクリ-ト構造物の延命や、予防保全のための維持管理は重要な施策課題となっている。とくに床版は、損傷や劣化要因などとも関連し、その技術的対処には幅広さ、奥深さについてマッチした対処が求められている。今回の報告は、何も床版だけに限らず、スラブ、柱、桁など様々な部材、部位に適用できる。ほんの少しの工夫で、ひびわれのない耐久性の高い構造物ができると確信している。

  

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