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北薩トンネルにおける大量湧水を減水するRPG工法について

鹿児島県 土木部 道路建設課
土木技師
坂 元 圭 一

キーワード:山岳トンネル、ポストグラウチング、減水対策

1.はじめに
北薩トンネルは、鹿児島県北薩地域と鹿児島空港を結ぶ北薩横断道路の経路上にある、紫尾山を貫く延長4,850m の山岳トンネルである。トンネル掘削中、トンネル中央付近の低速度帯100m区間から、高濃度のヒ素を含む地下水が最大約300t/h 湧出し、環境への影響が懸念された。減水対策工(以下、対策工)を実施した結果、40t/h 以下に減水することができた。
RPG(RING-POST-GROUTING) 工法は、北薩トンネルの対策工で得た、設計から施工管理までの手法を体系的に整理したものである。

2.北薩トンネルの概要
(1)トンネル工事の概要
本工事(トンネル本体工)は、鹿児島県薩摩郡さつま町泊野から同県出水市高尾野町紫引間を結ぶトンネル工事である。トンネルは両坑口より掘削を実施し、平成21 年3 月に出水工区、平成21 年12 月にさつま工区が着工し、平成25 年3月に貫通した。トンネルの計画位置を図- 1 に、本工事の施工概要について、表- 1 に示す。

(2)地質概要
出水工区の地質状況は、図- 2 に示すとおり、出水側坑口から1,600m 付近までは四万十層群の砂岩・頁岩互層である。この四万十層群のうち、坑口から1,000m まではやせ尾根の斜面部に位置し、土被りが50m 程度の状況が続いており、降雨時に坑内湧水量が顕著に増加する状況であった。

(3)掘削時の湧水問題
北薩トンネルの地質的特徴として、四万十層群が形成された後の時代に花崗岩が貫入してきたことにより、両者の接触部付近で非常に亀裂が発達した変成岩が多く見られるほか、出水側坑口から1,800 ~ 1,900m 付近は低速度帯となっており、掘削時には多量の湧水が確認されたほか、出水側坑口から1,807m 地点において300t/h に達する突発湧水に見舞われた(写真- 1)。

本工事における設計時の想定湧水量は約90t/hであったが、トンネル掘削の進捗に伴い湧水量が徐々に増加し、最終的には約1,200t/h まで増加した。また、四万十層と花崗岩の境界付近において、土壌溶出量基準(0.01mg/L)を超過するヒ素を含有する掘削ずりが確認されたことから、自然由来のヒ素を含む湧水量を減水するための検討(一次、二次減水、等)を行った。

(4)薬液注入による第1次減水対策工(一次減水)
北薩トンネルの第1 次減水対策工として、下記2 案の検討を行い、施工した。
 ①案:瞬結性の薬液注入により減水させる案
 ②案:路盤面から湧き上がる湧水対策としてインバート未施工区間に底盤コンクリートを施工する案
②案で使用する薬液は、湧水箇所での使用実績や強度・耐久性等からドイツで開発されたウレタン系薬液(Minova 社 CarboPurWF)とした。
注入工の概念図を図- 3 に、注入工の底盤部状況を写真- 2 に示す。この第1 次減水対策工を実施したことで、約580t/h の湧水を減少することができた。

(5)コンソリデーショングラウチングによる第2次減水対策工(二次減水)
出水側坑口から1,800 ~ 1,900m 区間の湧水量は、上述(4) の第1 次減水対策工により、約300t/h から約70t/h まで減少したが、その後の周辺地下水の水位回復に伴い、トンネル周囲の未対策の岩盤亀裂に地下水が回り込み、今までと異なる小さな亀裂等から新たに湧水が発出し、想定どおり湧水量が減少しない事象が生じた(写真- 3)。

しかし、対策工着手前に比較すれば湧水量はおよそ半減しているが、更なる減水対策が必要であることから、約620t/h の湧水処理を検討するため、新たに「北薩トンネル技術検討委員会」を設置(平成25 年12 月)し、青函トンネル以後、多くの成果があるセメント系全周グラウト注入の技術提案をいただいた。
本論文では、この対策工(二次減水)の実施内容について説明する。

3.RPG工法の概要と特長
(1)RPG工法の概要
山岳トンネルにおける一般的な湧水対策は、ウォータータイト構造にするか、トンネル掘削前に切羽前方をプレグラウチングにより地盤を改良する対策が採られている。RPG 工法は、トンネル掘削後の想定外の大量湧水や、従来のウォータータイト構造では対応できない高水圧に対応するポストグラウチングによる工法であり、トンネル構造としては排水型となる。
対策工の概要は、大土被りおよび高水圧下におけるトンネル構造の安定性を確保するため、北薩トンネルではトンネル壁面より3.6m の離隔を取り、その外側に厚さ3.0m のリング状の改良ゾーンを構築する構造とした(図- 4、図- 5 参照)。
また、施工管理および施工過程における改良効果の確認は「3D トンネルグラウチング管理システム」1)を用いて行う。

(2)RPG工法の特長
RPG 工法の主な特長は、以下のとおりである。
①ポストグラウチングによる工法である。
②トンネル湧水の減水対策として、連成解析によるトンネル構造の設計、ダムのグラウチング技術に基づいた設計・計画・施工管理・改良効果の確認等を体系化した、日本初の施工方法である。
③改良目標値が1.0 × 10-6cm/sec オーダーでも、極超微粒子セメントを使用することで対応することができる。なお、北薩トンネルでは、日本で初めて亀裂性岩盤を対象に極超微粒子セメントを使用した。
④ RPG 工法におけるグラウチングは、ダムの基礎処理技術の指針である「グラウチング技術指針・同解説 平成15 年7 月」2)に基づき、設計・計画・施工を行うので、信頼性・確実性および経済性に優れた工法となっている。
⑤ RPG 工法における施工管理、改良効果の確認では、3D 地盤モデル作成システムを使用した、CIM との連動が可能な「3D トンネルグラウチング管理システム」1)を使用するので、施工管理・改良効果の確認が容易になり、維持管理やトレーサビリティーにも対応することができる。

4.北薩トンネルにおける施工
北薩トンネルにおける対策工では、事前に試験施工3)4)5)等を実施し、その結果を基に対策工の設計・施工を行った。以下に対策工の施工範囲、規定孔の孔配置、改良目標値、注入材料および施工結果について説明する。

(1)施工範囲
本対策工は図- 6 に示すように、まず試験施工として①区間( 花崗岩層:12m)、③区間( 四万十層:12m) を施工し、一部施工方法を見直して0 区間( 地層混在:21m) の施工を行った。0 区間の施工で見直した施工方法の有効性を確認したため、同工法にて②区間( 地層混在:56m) の本施工を実施した。

(2)孔配置
グラウチングの施工深度は、トンネル壁面から深さ3.6m をカバーロック、3.6m から6.6m の3.0m 区間を改良ゾーンとしてグラウチングを実施した(図- 7 参照)。グラウチングの孔配置は、坑壁を平面に展開して6.0m 格子に一次孔を配置する、中央内挿法を考慮した孔配置(図- 8 参照)とした。注入仕様および改良効果の確認等は、ダムにおけるグラウチング技術1)に準じた。北薩トンネルでは規定孔を4 次孔までとし、4 次孔の改良範囲3.0m × 3.0m を、改良効果を確認する最小単位(エレメント)とした。

(3)改良目標値と注入材料
改良目標値が4.0 × 10-6cm/sec(ルジオン値に換算すると約0.4Lu)と、ダムグラウチングの改良目標値2.0Lu ~ 10.0Lu と比較すると、1 オーダー小さな値となるため、ダムで使用している高炉セメント(平均粒径10μm)や超微粒子セメント(同4μm)では対応が難しいと判断し、注入材料は新しく開発された、極超微粒子セメント(同1.5μm)を使用した(図- 9 参照)。

目標とする湧水の低減量から、浸透流と応力の連成解析により改良目標値と遮水ゾーンの構造を決定した。浸透流解析は質量保存則とダルシー運動則による浸透基礎方程式を用いた有限要素法により実施し、解析モデルは図- 10 に示す範囲とした。

(4)施工結果
対象区間(トンネル延長方向100m)の湧水量は、対策工施工前は150t/h であったが、対策工終了後には約40t/h に大幅に低減し、地下水位はトンネル天端付近にあったものが160m 上方まで回復した(図- 11、図- 12 参照)。対策工施工前後の状況写真を写真- 4、5 に示す。写真からも湧水量が大幅に減水したことが分かる。また、ルジオン値は全エレメントの平均で、施工前は約30.0Lu であったが、施工後には約0.4Lu となった(図- 13 参照)。

5.北薩トンネルにおける今後の課題
北薩横断道路「泊野道路」(さつま泊野IC ~きららIC 間)については、平成31 年3 月24 日( 日)に開通したところである。北薩トンネル区間(きららIC ~中屋敷IC 間、平成30 年3 月25 日( 日)供用)と併せて、北薩横断道路(約70㎞)のうち約25㎞が供用済となり、走行性や定時性の向上が期待されている。
しかし、本トンネルの供用後の課題として、主に下記の課題があることから、供用後も引き続き調査・検討しているところである。

課題(1)維持管理費用について
北薩トンネルからヒ素を含む湧水が約340t/h発生しており、排水処理施設には多額の維持管理費がかかっている。今後の維持管理費費用の削減や排水処理施設におけるヒ素濃度の継続モニタリングが必要である。

課題(2)トンネル坑内等の応力計測等について
減水工の実施により対策区間の湧水量は減少したが、地山間隙水圧は増加している。現時点では支保体の変形は見られていないが、地山間隙水圧が上昇し、トンネル断面に覆工の許容を超える応力が発生した場合、覆工にひび割れや変形が生じる可能性が懸念されていることから、「北薩トンネル技術検討委員会」での意見を踏まえ、地山間隙水圧の変化に伴う覆工変形・応力を測定し、トンネル構造の安定化を確認する目的で、地山水圧や覆工応力測定等を実施しており、トンネルの安全性や減水対策工の効果の確認を実施している。

6.終わりに
国内初の施工方法となるダムのグラウチング技術に基づいた設計・計画・施工管理・改良効果の確認等を体系化し、亀裂性岩盤を対象に極微粒子セメントを使用した「RPG 工法」は、2017 年度土木学会技術賞(I グループ)を受賞(写真- 6)したほか、下記の受賞・表彰を受けている。
北薩トンネルの施工においては、施工者の熊谷組をはじめとするJV 各社やコンサルタントと一体となり、整備を進めることが出来た。また、「RPG工法」の確立に際し、北薩トンネル技術検討委員会、日特建設株式会社直轄グラウト部、日鉄住金セメント株式会営業部等の多くの方々の御指導御協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

主な受賞内容
(1)平成27 年度 鹿児島県土木部優良工事
(2)平成29 年度 土木学会技術賞(I グループ)
(3)令和元年度 エンジニアリング功労者賞(エンジニアリング振興)

参考文献
1) 古田島信義、片山政弘、石濱茂崇、崔伶準:3 次元地盤モデル作成システムを用いたトンネルグラウチング管理システムの開発、土木学会第72 回年次学術講演会、Ⅲ-081、2017。
2) 国土開発技術研究センター:グラウチング技術指針・同解説、大成出版社、2003。
3) 鈴木雅文、辰巳勇司:自然由来のヒ素を含むトンネル内大量湧水の減水対策工について、日本トンネル技術協会、第72 回施工体験発表(山岳)、No.201302、pp.63-69、2013。
4) 宮本裕二、木佐貫浄治、栫 秀作、北村良介、中川浩二、鈴木雅文、大山洋一:自然由来重金属を含むトンネル湧水の減水対策について、第11 回環境地盤工学シンポジウム発表論文集、pp.385-390、2015。
5) ダムのグラウチング技術を適用した山岳トンネルの減水対策工:ダム工学、Vol27、No.3、2017。

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