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加勢川川尻地区の歴史・景観に配慮した河川改修について
石松健征
1.はじめに

緑川水系加勢川の流れる熊本市川尻地区は、江戸時代から大正時代にかけて、熊本城下の交通・商業の拠点として繁栄し、現在も土蔵づくりの商家や、昔ながらの町家が残っており、伝統工芸等も盛んな地区である(写真-1、2)。

川尻地区を流れる加勢川においても、船着場の石積み階段護岸や石積み堤防、対岸と行き来を行うための御船手渡し、水汲み場として利用されてきた汲水など、細川藩の河港として栄えた当時の構造物が現在でも多く残り、加勢川と調和し、歴史的な風景を形成している(写真-3)。
また、川下りや精霊流しなどのイベントも毎年開催されるなど河川が地域社会の生活に深く溶け込んでいる。

2.改修の必要性

緑川水系加勢川は氾濫区域に人口・資産が集中しているにも関わらず、現在の治水安全度は1/10程度であり、緑川水系において最も治水安全度が低い河川である。
更に加勢川右岸の川尻地区は、「堤防の高さ・幅の不足、老朽化」「陸閘門の安全性」「管理用通路の未整備」「低水護岸のはらみだし」等の治水上の問題点を多く抱えており、改修が必要な区間である。古くから残る船着き場や御船手渡しの階段護岸等についても老朽化・洗掘等が進み改修が必要な状況となっていた(写真-4)。

3.改修方法の検討
川尻地区では従来から住民主体の町づくり計画が定められており、現在まで残る江戸時代の町筋を生かした整備が進められている。加勢川の改修においても歴史的特性を生かした河川改修を望む声が多くあったことから、平成10年に「ふるさとの川整備事業」に認定され、加勢川川尻地区の河川改修方法を官民一体となって考えるため地区の代表者とで構成する「川尻地区河川改修検討会(以下「検討会」)」を設立、平成13年度より現地調査を実施し、意見や要望の調整を行い川尻らしい景観や歴史的構造物を保全した川づくりの検討をおこなった。

4.文化財保全に配慮した整備計画
石積み階段護岸部分については現位置にて補修、復元する方針が検討会及び地元との協議により決定していた。船着場及び御船手渡しを実際に施工するにあたり、国指定史跡として申請を行う予定であったため、詳細で専門的な検討が必要となったことから、学識経験者、地元代表、関係自治体からなる「川尻地区文化財調査護岸設計検討委員会(以下「委員会」)」及び作業部会を設立し、文化財調査と併せて検討会で決定した整備方針に基づく船着場の詳細改修方法の検討及び施工を実施している。

5.文化財調査の実施
船着場と御船手渡しにおいては詳細な階段の積み直しの施工計画検討、及び国指定史跡登録に向け現況の詳細把握が必要であった。そのため、写真測量図化、階段の石材の大きさ(高さ・幅・奥行き)、形状、矢穴の位置・大きさの確認作業を行い、考古学的手法に則りスケッチによる実測図面の作成を行った。また、階段部・河床部の基礎状況、建設時期の検証を行うため、7カ所においてトレンチ調査を行った。調査の結果17世紀前半加藤清正時代の木簡が発見され、当時より船着場の利用が行われていた事が判明し、新聞記事にも掲載されました。

6.石積階段の積み直し方法検討及び施工
石段の積み直しについては、現状の景観を壊すことのないように石材は現存するものを使用し、かつ石材は加工しない、極力現状維持とすることが検討会において決定され、熟練した石工の指導のもと施工をおこなった。

7.船着場階段護岸部分の補修、復元方法

文化財調査の結果をふまえ、検討会において以下の通り、補修、復元方法を決定した。
  1. (1)調査により確認された14段全てを現在の位置に積み直し復元する(写真-5)。
  2. (2)上流側の一部欠損している石材に関しては、河床に散乱している石のうち、以前石段として使用されていたと推測される物に関しては、その石を使用する(写真-6)。
  3. (3)さらに石材が不足する場合には、材質の近く、現在でも産出がおこなわれている島崎産の石を使用する。

8.御船手渡しの補修、復元方法

御船手渡しについては、石畳部について国指定史跡登録の予定があるため、現在の位置に現在の石材を使用し補修、復元することとした。
石積み堤防部については、過去の補修工事の際、石積みの前面をコンクリートで被覆しており、検討会において可能な限り自然石での施工することとした(写真-7)(図-1)。

9.石積み堤防の景観保全
石積堤防については、現在の景観を保持するため、同様の石積みによる施工をおこなうこととなっている。現地では、数種類の石積み工法が確認されていることから、文化財調査を実施し、その結果をふまえ、築造当初の積み方である「布目崩し」により全面の施工をおこなう事とした(写真-8)。

10.施工後の状況

船着場においては階段部分のすべりや陥没により、大きく変形していたが、既設の石段をそのまま積み直しているため、景観を崩さず補修する事が出来た(写真-9)。
御船手渡しは高水護岸のコンクリートをはつり、当時の石積みを再現する事が出来た(写真-10)。

11.まとめ

熊本市は湧水や河川、水にまつわる風習など有形、無形に関わらず水資源を登録・顕彰し、その魅力を広く発信する目的の水遺産登録制度を設けている。川尻地区の船着き場は平成19年3月に江津湖や水前寺成趣園などと並び「熊本水遺産」に第一次登録された。また平成22年8月5日には国指定文化財に指定されている。御船手渡しについても現在国指定文化財への登録に向け申請中である。このように歴史・文化的に価値のある土木構造物が多く残り、川下りや精霊流しなどのイベントが開催され地域の親しみも深い加勢川川尻地区においては、地域振興の拠点となり得る箇所である。
最近では貴重な歴史的財産を次世代に残すためのサミット「全国御蔵サミット」が平成22年5月15~16日にかけて川尻地区で開催され、史跡めぐりや、川下りが行われた。
これまで多くの検討会を開催し地元住民との意見交換を重ね、河川改修を行ってきたが、今後はこの川づくりを足がかりとして、歴史的財産を活かした「町づくり、町おこし」に繋がるための方策を、維持管理を含め官民一体となって考えなければならない。

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