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全国初の船団方式事業の船出
—大分県での試み—

大分県土木建築部
都市計画課長
佐 藤 辰 生

日本下水道事業団
計画部計画課長
山 根  昭

1 はじめに
去る平成4年1月17日に,大分県と国東半島の東部の6市町村(杵築市,国見町,姫島村,国東町,武蔵町,安岐町),日本下水道事業団によって,全国の下水道関係者の注目の集まる中,全国で初めての船団方式事業の連絡会(正式名称:「大分県下水道船団方式事業連絡会」)が発足した。この船団方式事業は,中小都市の下水道整備の切り札的な手法であり,今後の事業展開が期待されている。

さて,わが国の下水道普及状況に立ち返ってみると,平成2年度末普及率は,未だ44%にとどまっており,約30年前のフランスとほぼ同じ水準(40%,1963年)と言われている。さらに,この普及状況を人口規模別に見ると,指定市に代表される大都市で90%に対して,中小都市(5万人未満)では9%と極めて大きな開きがある。特に,約2,000にのぼる下水道未着手都市の大半が5万人未満の都市に集中している。

一方,過去6年間の新規の下水道事業着手市町村の内,およそ9割が5万人未満の都市であり,新規の事業実施箇所も平成元年度からは公共,特環合わせて100箇所を超えるようになり,中小都市は下水道事業進展の力強い担い手になっている。
しかも,これら中小都市の下水道事業への気運の高まりは,日本下水道事業団(以下「事業団」)の受託都市(公共下水道)の数や規模の構成比率にも顕著に表れている。事業団は,全国の地方公共団体の下水道整備を支援するために,国,地方公共団体の出資等によって設立された機関である。この事業団における受託都市の内5万人未満の都市でみると昭和59年度の53都市から,平成3年度の180都市へと約3.4倍にも増加している。受託都市の構成比率では,平成3年度からは,全体のおよそ2/3にも達しており,中小都市の処理場等の建設箇所が急増していることがうかがえる。
しかしながら,中小都市の下水処理場等の根幹的施設は規模が小さいため,建設工事費は大規模と比べると単位能力当たり割高になることがある。つまり,スケールデメリットが現れる訳である,また,中小都市では,処理場の建設・維持管理には機械,電気の専門技術者も必要である。さらには,事業実施のためのさまざまな技術,行政情報の収集も単独の市町村では簡単にはできないことも多くある。

2 船団方式事業の導入
このように,中小都市の下水道を実施するためには,大規模下水道とは異なったいろいろなハードルがある。そのため,中小都市の下水道整備を効率的に,円滑にかつ早期に実施できる方法が求められていた。そこで,事業団では,中小都市の下水道整備の切り札である船団方式事業を導入した。
船団方式事業は,別名「下水道集団整備事業」とも呼ばれ,中小都市の下水道整備の支援方策のひとつとして,近接する地域の市町村の根幹的施設の計画,設計・施工等をほぼ同一時期に事業団に委託し,共通化や共同化を図ることで経済性の向上,一体的整備促進,事業の円滑化が図れる事業方式である。
この「船団方式」という名称は,中小都市を船に見立てて,事業団がパイロット(水先案内人)となって,地域全体が船団を組むような形で下水道事業を実施し,船団全体の下水道の一体的整備が促進でき,事業の効率性,着実さ,安全性などがイメージできるよう名前を付けている。

3 事業の詳細
船団方式事業は,船団という名前のごとく見掛けの上では,近接地域において,ほぼ同一時期の事業団への委託となっている。しかし,船団方式事業にとって,重要な技術的な骨格は,共通化と共同化にある。この共同化と共通化によって,中小都市の下水道整備の隘路であったスケールデメリットを克服し,経済性が向上することができる。この共同化,共通化を検討する場として,県,市町村,事業団が構成員である連絡会を設け,円滑な事業執行を期している。
共通化とは,処理施設等の一部または全部の方式,サイズ,仕様などを船団内でできる限り統一(共通化)することである。実際には,水処理施設構造・寸法,曝気方式,ポンプ,運転操作計装,管理庫,場内整備などを共通化する。これによって,標準図面や共通図面が利用でき,計画設計や実施設計の費用が節減できる。さらに,維持管理段階では,共通設備による維持管理の容易性や予備機器の共有もできる。
しかし,その共通化の範囲や程度は,船団内の町村の合意によって決まる。つまり,地域の条件,市町村の意向などによってさまざまなケースがあるといえる。

また,共同化とは処理場の汚泥処理,水質試験,運転監視の一部または全部を,船団内でできる限り共同にすることである。
汚泥処理では移動脱水車による巡回型あるいはタンクローリーによる集中型の共同処理をメニューとして考えている。運転監視では,中核処理場にNTT回線などで警告情報などを送り,そこから要員派遣を行う方式などを予定している。水質試験も同様に中核処理場において一括して水質試験を行い,データはファックスなどで送付する方式などを考えている。
共同化についても,共通化と同様に市町村の合意によってさまざまなケースが考えられる。つまり,共通化,共同化のいろいろなメニューの中から市町村間の合意や意向によって自分に都合の良いメニューを選ぶ訳である。ちょうど,新幹線のビュフェで自分のための食事を選ぶようなもので,自分のための共通化とか共同化のメニューを自身の都合に応じてお盆にのせるようなものである。ここで,共通化とか共同化のメニューの内一つでもお盆にのれば船団に加わったということになる。
このように,共通化,共同化は,船団内のすべての船が同じように完全に行うものではなく,その船の都合に合わせていろいろな形の船団の形態がある。

4 事業のメリット
船団方式事業のメリットを整理すれば,次のようになる。
(1)経済性の向上(事業費の節減)
(2)船団地域の下水道の一体的整備促進
(3)事業の円滑化
事業費の節減について,具体的に1,250m3/日の処理場の例で試算比較すると,共通化すれば実施設計の費用で約10~15%ほど節減できる。建設工事の場合では,巡回汚泥処理方式のベストシャトル(新しい汚泥濃縮方式のベストシステム搭載の移動脱水車)を採用すると約10%ほど建設工事費が節減できると試算されている。さらに,水質試験を共同化すると水質の担当者が船団内で1名に節減でき,維持管理費の低減が図れるなどのメリットがある。

この他,船団方式事業を実施することで近接した地域の下水動事業が一体的にかつ飛躍的に整備できる。また,連絡会等の設置により,都道府県,市町村,事業団の連絡調整が密になり,その結果,都道府県の指導監督が一括して行え,事業の円滑化が図れる。その上,市町村相互の連絡や啓発が図れたりする利点もある。
事業団委託および船団方式事業のメリットを整理すると次頁のとおりとなる。
(4)大分県での初めての進水
かつて,豊の国と呼ばれた大分県は,別府湾を懐に抱き,瀬戸内海の温暖な気候と豊かな緑に恵まれている。近年では,一村一品運動の成功とも相まって地方の時代の主役として,脚光を浴びている。
大分県においても,下水道が基盤的な生活施設という認識のもと,都市,農山漁村を問わず県下全域において下水道整備を望む強い声が上がっている。
しかし,その整備水準は,平成2年度末普及率20%と全国平均を大きく下回っている。特に,中小都市である町村における普及率は約1%と極めて低い状態にある。
大分県土木建築部都市計画課では,中小都市の下水道整備における船団方式の優位性に早くから着目し,国東半島の東部の6市町村(杵築市,国見町,姫島村,国東町,武蔵町,安岐町)がその最適地だと考えていた。平成3年5月に事業団に対して初めて船団方式の照会があった。その後,順調に現地において説明会,準備会を重ねて,平成4年1月17日に大分県下水道船団方式事業連絡会が発足する運びとなった。
現在は,この連絡会を船団方式事業の推進母体として共通化や共同化を図るための具体的なメニユーを幹事会において検討を行っている。

5 最後に
船団方式事業は,今後の強力な下水道事業の担い手であり,中心的役割を果たす中小都市の根幹的施設の建設を支援する経済的な事業手法である。
さらに,事業団にとっても地方公共団体の急激に高まる要請に応え,優れた施設を建設するためには重要な事業手法といえる。
平成3年度から始まった第7次下水道整備五箇年計画においては,中小都市の下水道整備の切り札として,大分県における船団を先頭に強力に全国において展開することが重要といえる。

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