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体験型土木構造物実習施設( 橋梁) について

国土交通省 九州地方整備局 
九州技術事務所 維持管理技術課長
田 畑 浩 規

キーワード:橋梁メンテナンス、老朽化対策、研修

1.はじめに
平成24 年12 月2 日、中央自動車道(上り線)でトンネル換気ダクト用に設置された天井板が、約138m にわたり落下し、9 名もの尊い命が失われた「笹子トンネル天井板落下事故」が発生した。
それを期に、社会資本整備審議会道路分科会より国土交通大臣に「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」がなされ、今後このような痛ましい事故が起きないよう、トンネル付属物等の緊急点検、道路ストックの集中点検を早急に実施。平成25 年6 月には道路法を改正し点検基準の法定化などが定められ、本格的なメンテナンスを行うための国の方針が示された。
しかし、全国には約73 万の橋梁があり、その内約48 万橋については市町村が管理しているが、国が定める統一的な基準「5 年に一度、近接目視による全数監視」を実施する予算もさることながら、橋梁管理に携わる土木技術者が存在しない。または少数であり、全数点検を実施する体制が取れないなど大きな課題が浮き彫りとなった。
課題解決の方策については、先ほど述べた「提言」の中での具体策の1 つに「仕組みの構築」が謳われており、予算や体制、技術等を補完する施策の一つとして「地方公共団体の職員・民間企業の社員も対象とした研修の充実」があげられている。
今回は、その研修の一助を担いメンテナンス技術習得を目的とした研修施設「通称:橋梁実モデル」が九州技術事務所内に完成したので、今後の活用等にも触れながら紹介する。

○橋梁諸元( H30.3 竣工)
 上部構造:2 径間RC 単純T 桁橋( 既設橋切断ブロック)、
        写真-左:4 主桁(L=5.39)、右:3 主桁(L=4.50)
 下部構造:壁式橋脚(側面にRC パネル設置)場所打ち杭基礎φ 1200

2.実情と課題
当地整が所管する橋梁は約4,500 橋(道路橋3,300、溝橋1,200)あり、道路橋定期点検要領に基づき、5 年に1 度近接目視による点検及び診断を行い、必要に応じて適切な補修を行っている。

しかし、当地方整備局内においても全国同様の課題が生じている。各職場においても少子高齢化の波が容赦なく押し寄せており、今後を担う数少ない若手、中堅職員においては、発注や打合せ、会議等々日々の業務に追われ「現場を見る機会がない」、「身近に知識を与える指導者が少ない」などの課題が顕著になっており、定期的な研修や所属事務所での勉強会などで知識を修得・補完しているものの、橋梁の損傷や劣化状況など「実物を見る機会」、「触る機会」が殆ど無く、橋梁の何を点検し、どのように診断して良いのか正確にはわからないと言った職員が少なからず存在する状況となっている。
そこで、先に述べた全国的課題や内部的課題を少しでも改善するため、平成27 年4 月に「研修用実物モデル施設検討WG」を設置し、どのようなタイプの施設で、どのような内容を修得させる必要があるかなどについて議論された。
その結果、福岡県内において架け替えにより撤去される橋梁(橋齢86 歳[H30 現在])があったこと、橋梁点検・診断を行う技術者育成のニーズがあることから、まずは橋梁タイプの施設を整備することとなり、主桁や床板・地覆部分の損傷を残したまま移送、研修用教材として当事務所敷地内に再度架設され、新たな役割を担うこととなった。

3.橋梁実モデルとは
これまでも実モデルを使った研修を行っており、施工不良を再現したBOX タイプのモデルやコンクリート配合を複数設定し長年暴露させたモデルの他、塩害やASR を発現するよう工夫し暴露させたモデル、コンクリート構造物の主筋や配力筋についての違いが学べる逆T型擁壁や杭頭モデル等々がある。
しかし、橋梁の点検や診断、補修に関する研修は、大型車輌の通行も多い供用中の国道に架かる橋梁で行っており、通過車輌の合間を縫いながら橋面の観察・点検を行うことが必要なため、安全面に課題が残っていた。
また、損傷が確認された橋梁は適切な補修を順次行うため、損傷状況を確認する研修の対象橋梁として使えないなど、研修実施橋梁の選定にも苦慮していた次第である。
本施設はそのような課題を解消し、安全・確実な研修を行うことが出来、橋梁の構造や保守・点検の基礎的な内容について学べ、橋梁点検や診断体験が出来る施設が橋梁実モデルである。

3-1.橋梁実モデルで学べること
橋梁の構造については一般的な下部構造・上部構造であることから、各部の名称や役割を間近で確認できる。また、通常見ることが出来ない橋台背面のパラペット(土留め)側からも間近に見ることが出来ることのほか、橋面の舗装が無い状態で床板や地覆等の状態を点検ハンマーや点検機器を使って状態確認を行うことが出来る。
※以下に部位ごとに確認できる項目を示す

○桁下側
・主桁のクラック及び遊離石灰
クラックから漏水と遊離石灰の発生状況確認
・主桁の補修状況
鋼板接着で主桁補強、炭素繊維による床板下面補強、横桁の断面修復等状況確認

・コンクリートの劣化再現(RC パネル)
塩害、ASR 発症の際の症状確認
※発現までの間は既存の実モデル使用
・コンクリート打設時の施工不良再現(RC パネル)
ジャンカ(豆板)、砂筋、コールドジョイントの観察と点検ハンマーによる打音確認
・透過モデルによる配筋状況確認(RC パネル)
鉄筋の配筋や結束線、型枠からのかぶり厚とPコン及びセパレーターの関係について観察
・鉄筋ピッチ、かぶりの確認(RC パネル)
鉄筋探査機を用いたピッチやかぶり厚の確認

・コンクリート内部の空洞確認
ハンマーによる打音やサーモグラフィ等の検査機器により内部の空洞を確認。
BOX タイプとの比較で、どの程度人の耳で判別できるか確認。
・コンクリート強度の違いの確認(RC パネル)
18,24,30,40N/㎜2のコンクリートパネルにシュミットハンマーを使って実際の強度を確認。

○桁上側
・高欄、地覆、検査路等構造の確認
・地覆のクラック確認
クラックスケールを使い、クラック幅や延長を確認
・床板の浮き状況確認
点検ハンマーや点検棒を使ってコンクリートの浮き状況を確認。

3-2.研修体系等これからの活用について
① 見学コース
一般、学生、自治体等全ての方を対象として、体験型土木構造物実習施設(橋梁実モデル等)内を自由に見学していただくコース。
橋梁維持管理の基礎知識や点検器具の使用方法について、当事務所の職員がパンフレットを使って説明。また、必要に応じて点検ハンマーや点検機器(鉄筋探査)を体験していただく約30 分のコース。

② 体験型基礎コース
自治体等のメンテナンス関係者(主に初心者)を対象に、体験型土木構造物実習施設(橋梁実モデル等)やテキストを用いて、橋梁維持管理の基礎知識や点検器具の使用方法等が学べるコース。点検ハンマーや鉄筋探査機の使用方法ついても実際に体験しながら学べるため、橋梁維持管理の知識を持たない方や実務経験の無い方でも受講可能な約60 分~ 120 分のコース。
※コースの内容は事前に調整

③ 利用者申請コース
自治体等のメンテナンス関係者全般を対象に、体験型土木構造物実習施設(橋梁実モデル等)とテキストとを用いて、利用者が技術者育成のために、独自で研修を実施するコース。
本コースは事前打合せを行うことが必要であるが、申請があれば下記の点検機器や器具の貸与が可能。
※点検ハンマー20 本、点検棒4 本、クラックスケール20 枚、コンベックス3 個、鉄筋探査機器2 台(2 種類)、サーモグラフィ1 台、シュミットハンマー2 台

4.おわりに
今回は橋梁実モデルに関する内容を主に紹介したが、当事務所には先にも述べたようにBOX タイプの実モデルや架け替え等で撤去された古い橋梁の桁の一部や損傷した支承部材など、多くの実モデルを所有していることから、今後実施される各種研修においては、それらを効果的に活用し、よりわかりやすく実務的な研修になるよう努力して行きたい。
また、今回は紹介出来なかったが、熊本地震により損傷を受けた部材も展示予定(おまけとして後述)であるので、それら部材の研修教材としての活用についても積極的に取り組んでいく所存であり、これらの取り組みにより自治体等、全メンテナンス関係者への支援の一助となれば幸いである。
最後に、橋梁実モデルの検討・設計・製作に携わられた多くの方々に対し感謝の意を表し、私からの紹介を終わりとしたい。

~ おまけ ~
H 28 熊本地震による大きな外力により損傷を受けた橋梁部材も、今後展示予定としているのでいくつか紹介する。
余談ではあるが、私も前勤務地の熊本で2 度の地震、震度6 強の揺れを体験しており、この写真を見ただけでも当時の地震の凄まじさが思い出される。

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