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九州技報 第9号 巻頭言

琉球大学教授
大 城  武

今後10年間に総額430兆円に及ぶ公共投資を実施するという構想が,日米構造協議で決められている。この投資は大まかに云って本四架橋,青函トンネル,筑波研究学園都市等の近年完成した巨大プロジェクトが200近くも出来る位の巨大な額だと云われ,また,日本以外の世界中で昨今行われている公共事業の総額にも近づく程の膨大なものである。これまでの日本は近代的な社会資本の整備が遅れており,世界屈指の経済大国となった現在でも,社会資本の蓄積はいまだに乏しいものがある。従って,今回の巨大事業に対して全国民がエネルギーを集中することは非常に大きな意義を持っている。これらの事業に直接タッチすることの出来る建設系の技術者にとっては,夢と期待がふくらむものである。
この様な巨大プロジェクトの目標とするものは,従来の社会資本の量的な拡大はもちろん必要であるが,同時に,後世においても賞賛される質の高いものを残すことも必要である。さらに,この時期に数多くの新たな技術開発がなされ,新しい構造形式,施工技術,理論等が発展することを期待している。
折しもこの様な時期に不幸な事故が発生している。平成3年3月14日,広島市安佐南区の高架式軌道「新交通システム」の工事現場で,長さ63m,重さ60tのメタルの橋げたが据え付け作業中に県道に落下,14名が死亡,9人が重軽傷を負っている。報道によると,ジャッキの操作にミスがあったのか,それがうまく機能していなかったことが直接の原因と云われている。
もともと建設工事は機械化,自動化の難しい分野が多く,人間の作業に依存していることが多い。そのために作業員のミスによる事故が生じている。しかも,最近の建設工事は環境の悪い場所が多く,同時に対象の構造物も超大型クレーンを必要としているほど巨大化している。この様な作業形態の大きな変化に対する安全対策のあり方に十分な注意が欠けていることがある。今回の現場においても,万一に備えて,ワイヤーやストッパーによる橋げたの落下防止策をとっていなかったこと,つまりフェイル・セーフ(多重安全)の措置をとっていなかったことが重大であると思われる。
今回の事故は,作業マニュアルの検討,操作ミス対策,バックアップ対策,落下防止策など,あらゆる角度から問題点を検討し,建設工事全般の安全性向上に役立つ様な教訓を引き出して欲しいと思う。社会資本の拡大期に際して,社会的責任を担う立場から今回の事故を十分反省すべきであると思っている。

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