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主要地方道平戸生月いきつき線斜面崩壊に伴う対応について

長崎県 県北振興局  
田平土木維持管理事務所
主任技師
岩 永 篤 樹

キーワード:令和2年7月豪雨、平戸生月線、災害対応

1.はじめに
主要地方道平戸生月線(以下、県道という)は、長崎県の北西部に位置する平戸市の主師しゅうし町から生月町を結ぶ主要幹線道路で、平戸島と生月島を結ぶ生月大橋を有し、生月島民約5,000人の生活の基盤となる重要な道路である。
令和2年7月24日6時頃、県道と隣接している斜面の大規模崩壊が発生した。当箇所は過年度に実施した防災点検の結果、対策が必要な箇所となっていたことから、平成20年度に落石防護柵を整備していたため、道路に覆いかぶさった倒木以外に道路への大きな被害は生じなかった。しかし、斜面上部に巨大な岩塊(以下、不安定岩塊という)が残り、崩落の危険性があった。
本稿では、県道の通行の安全を確保するために実施した対応について報告する。

図1 位置図

2.県道隣接斜面崩壊の概要
当時の気象状況は令和2年7月23日から前線による豪雨(日最大雨量84㎜(23日10時~ 24日10時)、時間最大雨量47㎜(24日1時~ 2時))であった。24日6時頃に斜面崩壊が発生した。

写真1 県道隣接斜面崩壊状況

斜面崩壊による土砂や岩塊は、平成20年度に設置した落石防護柵の整備効果により、受け止めることができたため、道路への被害は発生しなかったが、倒木の影響で一時全面通行止めとなった。

写真2 既設落石防護柵による捕捉状況

なお、崩壊した斜面上部には不安定岩塊が、斜面中腹にも不安定な巨石が多数残存しており、更なる崩壊による道路への影響が危惧される状況であった。
そのため、県道の通行の安全を確保するための対応を行うこととなった。なお、斜面崩壊対策については、道路での災害採択が困難であったため、長崎県農林部による災害関連事業で実施することとなった。

3.県道通行の安全確保の対策
(1)初期対応(R2. 7. 24~R2. 8. 12)
斜面崩壊に伴う倒木が道路まで到達していたため、まずは倒木の処理を行い、道路面の被災状況の確認を行った。

写真3 倒木発生状況

結果、異状は確認されなかったが、不安定岩塊が残っていることから通行車両の安全を確保するために道路部門の職員2名体制で直接目視による監視を実施しながら、崩壊斜面と反対側の車線のみ片側交互通行で解放した(24日11時半~)。ただし、目視できない夜間は全面通行止めとした。当時は真夏で気温が高い非常に過酷な状況の中、熱中症に注意しながら、テントの下で監視を行った。
斜面からゴロゴロと落石による音が聞こえる中、更なる崩壊に備え、仮設防護柵(H= 4 ~6m、L= 116m)を設置した。
また、降雨の影響で不安定岩塊の崩落や斜面崩壊が発生する可能性があることから、長崎県内において事前通行規制を行っている国道251号(長崎県雲仙市南串山町赤間~南島原市加津佐町権田間)の当初の規制基準値を採用し、雨量が時間30㎜、24時間60㎜、連続120㎜を超過した場合は通行止めとし、規制解除は3時間無降雨後、目視で斜面の安全を確認した上で行うこととした。

写真4 仮設防護柵設置状況

7月27日には、24時間雨量が基準を超過したため、15時半から全面通行止めを実施した。日中での通行止めであったことから、平戸市が民間の瀬渡し船をチャーターし、海上からの輸送を行った。県職員も平戸市と一緒にチャーター船利用者の案内等を行った。平戸島と生月島を合計5回移動し、のべ64 名が利用した。
8月4日には、不安定岩塊等に対する対策検討にあたり、技術的助言を頂くため、学識経験者及び専門家による現地調査も行われた。不安定岩塊に対して、引き続き雨量による規制基準を設けること、夜間の通行止め解除を行うためには、斜面変状を把握でき、すぐに通行止めできる監視体制の検討が必要であるとの助言を頂いたため、斜面の監視体制の検討を行うこととした。

写真5 学識経験者及び専門家による現地調査

(2)中期対応(R2. 8. 13~R3. 2. 14)
夜間のみであっても、長期にわたる全面通行止めは生月島民への影響が大きいことから、通行止め解除のための夜間の監視方法について検討した。結果、照明灯による直接監視としたが照明灯の設置には時間を要するため、国土交通省から道路照明車を借用し、2名3交代制による24時間監視、終日片側交互規制へと変更した。固定照明灯の設置が完了するまでは、職員が毎日道路照明車を操作し、照明のセット、格納を行った。

写真6 道路照明車(左)及び固定照明灯(右)

2名3交代制による24時間監視への対応を道路部門の職員のみでは対応が困難であったので、県北振興局建設部全体での対応へと変更した。ただし、緊急時に全面通行止めの判断を行うことが可能な道路監理員である道路部門の職員1名と他部門職員1名で監視とした。なお、監視が長期間に渡ったことから、道路部門の県職員OBや長崎県道路維持課からも応援して頂いた。
目視による監視は負担が大きいことから、機械による無人監視へと移行するための対応も同時並行にて進めた。無人監視への移行に際しては、まず不安定岩塊の正確な動態観測が必要であったが、崩壊地内への立入が困難であったことから、拡散レーザー変位計による観測を試みた。

図2 拡散レーザー変位計の特徴

しかし、霧や風等の気象の影響で異常値が観測されるなど、観測精度に課題があった。その後、現地調査の進捗により崩壊地内への立入が可能となったことから、不安定岩塊と地山との間に地盤伸縮計を設置し、拡散レーザー変位計の信頼性を検証した。検証ではトータルステーションによる定点観測等を行い、不安定岩塊の変動も確認した。結果、不安定岩塊の大きな変動は確認されなかったこと、観測機器について、拡散レーザー変位計の機器設置箇所は強風が吹きこむ場所であり、風による影響で異常値が観測され、信頼性が乏しかったため、風の影響を受けない地盤伸縮計の方が高い信頼性を得られたことから、無人監視における観測機器として、地盤伸縮計を採用した。
次に無人監視に移行するために、降雨の通行基準に加えて、不安定岩塊の変動による基準値を設け、地盤伸縮計の変位量が時間5㎜、24時間10㎜を超過した場合に、通行止めを行うこととした。規制解除は地盤伸縮計で不安定岩塊の変動停止を確認後、目視等で斜面の安全を確認した上で解除することとした。
無人監視では職員が現地にいないため、地盤伸縮計が基準値を超過した場合は、連動して作動するエアー遮断器や電光掲示板、サイレンによって通行止めを知らせる無人監視システムを構築した。

写真7 エアー遮断機及び電光掲示板

機械の計測により自動で通行規制を実施できる無人監視システムの構築ができたため、約7ヶ月におよぶ職員による目視監視を終了した。

(3)終期対応(R3. 2. 14~R3. 3. 30)
無人監視システムの構築により、職員の負担は軽減されたが、崩壊時から終日片側交通規制を実施しているため、これの解消を行うこととした。
交通規制解除に向けた対応については、前記の中期対応時より行っており、崩壊斜面とは反対側の車道を拡幅し、2車線を確保することとした。
2車線確保のため、県道隣接地権者の協力を得て、工事は令和3年3月30日に完了し、約8ヶ月におよぶ交通規制の解除を行うことができた。

4.現在の状況
令和2年7月24日に発生した斜面崩壊対策に伴う対応については、無人監視システムの構築や2車線確保による交通規制の解除を行うことができたが、不安定岩塊が撤去されるまでは、不安定岩塊の変動や雨量が超過した際は、通行止めを行う必要がある。令和2年度においては通行止めの実施はなかったが、令和3年度においては、雨量超過により、6回通行止めを行った。また、道路までは到達していないが、中腹の巨石の崩壊も発生した。

写真8 中腹の巨石の崩落状況

不安定岩塊の撤去については、長崎県県北振興局森林土木課が工事を実施し、令和3年11月に概ね撤去が完了した。引き続き、法面対策工事を実施している。
なお、降雨による通行止め基準値について、不安定岩塊が概ね撤去され道路への危険性が低下したことに加え、崩落後に経験した降雨状況を踏まえ、学識経験者と協議を行い、時間雨量60㎜、24時間雨量120㎜、連続雨量150㎜を超過した場合に通行止めとする規制緩和を令和3年12月より行った。今後も引き続き、基準雨量が超過した場合は通行止めを実施する。

5.おわりに
今回、これだけの規模の崩落が発生したにも関わらず、道路への影響が倒木のみだったのは、落石防護柵を設置するという防災事業の事業効果が最大限に発揮されたためである。今後も防災事業を推進し、道路利用者の通行の安全を図りたいと思う。
また、無人監視システムの構築について、長崎県内での前例がなく、手探りでの構築であったことや不安定岩塊の正確な動態観測機器の検討、遮断器の設置までに約7ヶ月もの時間を要し、当初予定していた期間よりも目視による監視期間が長期化したため、のべ人数で1,138人(OB:117人、県庁:66人、振興局955人)監視に携わっている。通常業務で忙しい中、協力して頂いた方々にこの場をかりてお礼申し上げます。
このような大規模災害が発生し、初動の大切さや大変さ、スピード感をもって、いかにすばやく対応するかについて学ぶことができた。令和3年度においても、長崎県内では、豪雨により道路が被災し、通行規制を実施している箇所が数多くある。道路は生活の基盤であり、住民の生活に直結していることから、今回対応で学んだことを生かし、早期復旧に努めたい。

写真9 現在の状況(令和4年5月)

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