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DXを用いた災害対応の新たな取り組み

国土交通省 九州地方整備局
インフラDX推進室 建設専門官
房 前 和 朋

キーワード:DX、災害、点群、クラウド、ドローン

1.はじめに
近年九州では、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、令和2年7月豪雨等の大災害が発生しています。頻発する大災害に対して、防災能力の向上、被災後の速やかな日常の回復は非常に大きな国民のニーズがあります。
このため、九州地方整備局では災害対応のDXに取り組み、デジタル技術を用いた災害調査手法を開発、社会実装しました。また、災害復旧を行う際、非常に重要となる災害査定についても本技術を活用した手法を開発、九州財務局、九州農政局、地方自治体と連携し実証実験を行いました。
DX は簡単に言えば「働き方の改革」です。危険と隣り合わせ合わせの被災地において作業を行い、非常に多くの労力を必要とする災害対応は、最も「働き方の改革」のニーズが高く、重要です。
また「働き方の改革」を広く社会に普及させるためには、導入のハードルを下げる必要があります。このため、簡単に使用でき、低コスト、入手しやすい機材を用いるなど、できる限り導入しやすくする配慮を行っています。

2.災害調査のデジタル化
災害が発生した場合、最初に求められるのが被害状況の把握です。被災調査現地の計測には、様々な計測機器が必要で、また多くの人数を要します。大量の計測機器を所持し被災直後の現地を移動・調査することは、体力の消耗だけではなく、安全面でも問題が生じます。そこでデジタル技術を用いて災害調査を変革することで、簡単かつ少ない労力・機材で、安全かつ迅速に調査を行う技術を開発し実際の災害調査に用いました。
R4年1月22日(土)、日向灘を震源とする震度5 強の地震が発生、 DX を用いた手法による調査を実施しました。被災自治体からの依頼を受け、TEC-FORCE が11時20分に福岡を出動。15時00分現地到着、地元調整後調査を開始し、17時00分に現地作業を終了しました。
調査対象の面積は約2万m2と比較的規模が大きかったのですが、約90分で各種現地調査を完了、データ解析、資料とりまとめ、クラウドを用いたインターネットによる共有を含めた全作業を災害発生から24時間以内に完了しました。
従来技術で実施した場合、2週間程度の工期が必要と想定されますが、DX を用いることで1日で調査を終了できたため、十倍以上の生産性向上が確認できました。
またドローン、レーザー測量を用いることで、調査を行う隊員の安全性が大きく向上しました。本調査に用いたデジタル技術を以下に示します。
・スカイバーチャルツアー
・空中からの360°映像作成
・ドローン撮影写真による点群データ作成
・高精細オルソモザイク写真作成
・空からの写真・動画撮影
・iPhone による点群データ取得
・クラウドによる点群データ処理・共有

(1)災害調査用スカイバーチャルツアー
空中からの360°映像を用いたバーチャルツアーを九州地方整備局ではスカイバーチャルツアーと定義。河川、道路、公園、防災、研修等様々な分野で活用しています。
例えば吉野ヶ里歴史公園では公園の見学、発掘体験、施設管理等に用いています(図- 1)。

図1 吉野ヶ里歴史公園スカイバーチャルツアー

上空の自由な位置から任意の方向の映像を見ることができるため、規模の大きな災害において全体像の把握に有効です。また動画、静止画像、3D モデル等を束ね、インターネットで公開することができます。
具体的には画像上のアイコンをクリックするだけで、その地点の様々なデジタルデータを利用できます。さらにPC だけではなく、タブレットやスマートフォンのブラウザで使用可能で、ソフトウエアのインストールや更新、データのダウンロードを必要としません。今回の災害では、取得した大量のデジタルデータを本技術を用いて、整理、保存、共有しました。
図- 2 に実際の災害で作成したスカイバーチャルツアーを示します。赤丸の破線箇所のアイコンをクリックするとその位置の写真・動画等の各種データを利用できます。直感的に使用できる上、目的のデータを速やかに探すことができます。

図2 災害調査用スカイバーチャルツアー

(2)空中からの360°映像作成
スカイバーチャルツアーに用いた空中からの360°映像はドローンを用い作成しました。ドローンは市販の入手しやすい機体を用い、空中の1点から撮影方向をずらしながら25 枚の写真を撮影、1 枚の写真に合成しました。この機種では、撮影・合成の一連の作業が自動化されているため1 枚あたりの作成時間は1分程度と効率良く作成できます。また専用の360°カメラを必要としないため、その分の購入コストや充電・運搬等の作業が不要です。

写真1 空中からの360°映像作成例

(3)ドローン撮影写真による点群データ作成
複数の作業に同じ機材を使用することで、コストや作業の軽減が可能となります。このため点群データの作成には、360°映像作成に用いたドローンを使用し、レーザー測量機器等を用いず、写真から点群を計算して作成する手法(SfM)を用いました。
タブレットで計測したい範囲を入力すると、自動的に飛行計画案が作成され、案を承諾(もしくは修正)するとドローンが自動的に飛行、撮影を行います。図- 3 にドローンが作成した飛行プランを示します。三角形の頂点が撮影位置となります。飛行計画作成に要した時間は数秒。撮影した630 枚の写真から点群データ作成に要した時間は約40分でした。計算に用いたPC のスペックはCorei7-10870H、Geforce3070、メモリ32G、使用したソフトウエアはPix4D です。

図3 自動作成された飛行プラン

(4)高精細オルソモザイク写真作成
大災害時には基地局の被災等が生じるため、特に山間地等でGPS が使用不能又は精度が極端に低下する場合も生じ、写真に記録される位置情報が使用できない場合も多くあります。また万単位の写真が集約されるため、整理や検索、共有に多大な時間を要します。
そこで、点群データ作成に使用した630 枚の写真を合成し、1 枚の写真を作成することで、上記問題を解決しました。
写真は原理的に端の方ほど「ひずみ」が大きく生じます。特に航空写真は高いところから広い範囲を写すためひずみも大きくなります。このひずみを修正(オルソ)し、多数の写真を組み合わせる(モザイク)ことで高精細写真(約1.2 憶画素)を作成しました。この写真はハイビジョンの約120 倍に相当します。
1 枚の写真で広域の被災状況が確認でき、写真整理(位置等)の必要がありません。また、ひずみが小さいため地図の代用として利用可能で、位置情報との重ね合わせの際のずれが小さいのも特徴です。作成は点群の計算と同時に自動的に行われるため、技術・費用・機材・時間のコスト0で作成できます。
また、自動車などの移動物を半透明化できるため、道路等の被災状況確認が容易です(写真- 2)。

写真2 作成したオルソモザイクの切り出し例

(5)iPhoneによる点群データ取得
各種測量手法は得手不得手があり、ドローンによる写真測量(SfM)はクラックの計測に適しません。これはクラックの深い部分まで写真撮影を行うことができないためです。
クラックの測量は、従来の手法では多くの測量機器が必要となります(写真- 3)。状況写真の撮影撮影、ロードメジャー等によるで延長の計測、アルミスタッフやポールの深さの計測、傾斜度計によるクラックの傾きの計測、メジャーによる幅の計測等です。
本調査ではiPhone を用いることで、簡単で高速に測量を行うことができました。iPhone13pro等の一部の機種には、高精度なレーザー測量装置(LiDAR センサー)搭載が搭載されています。延長約20 mのクラック計測に要した時間は30 秒程度。計測したデータを3D データにする処理はiPhone で行い、要する時間は1分30 秒でした。アプリを起動後、動画を撮影するイメージで対象物を撮影すると計測ができます。
従来の調査は4 人1 組で行っていましたが、1人でも作業が可能で、自撮り棒などを利用すると被災箇所に近接する必要もないため安全性にも優れています。
生産性は数十倍以上、かつ高精度の計測が可能です。

写真3 現在使用している測量機材とiPhone

図4 iPhoneによるクラックの点群測量結果

(6)クラウドによる点群データの解析・共有
点群を取り扱うには高性能のPC やソフトウエアが必要で、またデータが大きいため共有が困難でした。また取り扱うには専門知識を要しました。
本調査ではクラウドを用い上記の問題を解消しました。クラウドにはSCANX(令和3年度i-Construction 大賞 国土交通大臣賞)を用いています。
インターネットのブラウザで動作するため、どこからでもアクセスでき、ソフトのインストールやデータのダウンロードが不要です。またクラウドのため低スペックのPC やタブレット・スマホからでも快適に使用できます。さらに、マウスだけで延長や直高、幅や面積の計測、断面図の作成等が可能です。また、段彩図(高さ毎に色をつけたもの)も簡単に作成できます(図- 5)。

図5 iPhoneの測量結果(段彩図)の出力例

3.災害調査のデジタル化
こうしたDX を用いた調査で得られたデジタルデータは、調査の後に続く、災害査定、設計、施工、管理に使うことでさらなる効率化が期待できます。
このため、災害復旧を行う際に非常に重要となる「災害査定」でのデジタルデータの活用を想定、九州財務局、九州農政局、地方自治体と連携し実証実験を行いました。
実証実験では、従来技術で実際の災害査定を行い、その後災害査定終了後に同じ箇所を同じメンバーでデジタルを用いた模擬査定を実施、比較検討を行いました(写真- 4)。

写真4 災害査定の実証実験

実証実験には、定性的な評価に適している「地上で撮影した360°映像を用いたバーチャルツアー」(図- 6)、定量的な評価に適している「点群データとクラウド」(図- 7)の2 つの技術を用いました。定性的な被災状況や周辺施設の配置などはバーチャルツアー、定量的な延長や高さなど正確な数値が必要なものは点群データとクラウドを用いることで災害査定に必要となる様々な事象を確認できます。

図6 実証実験に用いたバーチャルツアー

従来の現場写真は、固定された位置から固定された方向を撮影した映像しか見ることができませんでした。しかし360°映像でバーチャルツアーを作成することで、任意の位置から任意方向の映像を見ることができます。またGoogle map とリンクすることで、ボタン一つで同じ位置からの「被災前」の360°度映像を見ることができます。被災前後を自由な位置から見比べることで、被災原因の特定など、簡単・正確に判断できます。

図7 実装実験に用いた3D点群モデル

災害査定のデジタル化実証実験は2 回実施しました。
令和3年12月3日には鹿児島県さつま町所管事業にて実証実験を実施。実際には現地で行った査定を、実証実験では室内で実施しました。九州財務局、自治体職員、コンサルタント等40 名が参加しました。
【主な意見】
・危険で立ち入れなかった視点からの映像が確認できた。
・デジタルを用いることで、視覚的に地形の高低差を見ることができ、水の集中する箇所が明確に分かった。
・災害査定の簡素化につながる。

令和3年12月17日には、熊本県所管事業にて実証実験を実施。書類による査定を、実験では写真や図面の代わりにデジタルデータを用い書類を作成しました。バーチャルツアーと点群クラウドを説明に用いました。
国土交通本省、九州農政局、九州財務局、自治体職員、コンサルタント等60 名が参加しました。

【主な意見】
・スムーズかつ安全に資料作成・査定が可能。
・見たい個所を見ることができ、理解しやすい。
・画面上で正確な計測が即座にできるため効率的。

4.まとめ
九州地方整備局では、DX を用いた災害対応に積極的に取り組み、デジタル技術を用いて効率的で安全な調査手法を開発。実際に災害調査に用いてその効果を検証しました。また災害の調査結果がデジタル化されることで、その後行われる災害査定、設計、施工に活用が可能となり復旧までの全工程において効率化が期待できます。
また災害査定おいてデジタル技術の活用を試み、他省庁や自治体と連携し実証実験を行いました。今後は技術を精査し、デジタル技術を用いた災害査定を実現し、地域の1日も早い日常の回復に役立てたいと考えます。

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