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熊本県新広域道路交通計画について
~10分・20分構想の実現に向けた取組み~

熊本県 土木部 道路都市局
道路整備課 参事
宮 部 暁 彦

キーワード:150 分構想、90 分構想、10 分・20 分構想

1.はじめに
熊本県では、中長期的な観点から広域的な道路交通の今後の方向性を定める「新広域道路交通ビジョン」及び「新広域道路交通計画」を策定した。
この新たな計画は、平成5年に策定した「熊本県広域道路整備基本計画」を平成10年に見直して以来、20 数年ぶりに策定するものであり、対象期間を概ね20 ~ 30年間とし、令和3年6月に熊本市と連携して策定した。
本稿では、ビジョン及び計画の概要と熊本都市圏において新たに掲げた「10 分・20 分構想」について紹介する。

2.計画のコンセプト
計画の策定にあたっては、本県が九州の中心に位置する地理的優位性を最大限に発揮するために、 “ すべての道は、くまもとに通じる” をコンセプトとした。また、本県がこれまで取り組んできた「150 分構想」「90 分構想」に加えて、今回新たに「10 分・20 分構想」「ダブルネットワーク構想」を掲げることとした(図- 1)。

図1 計画における4つの構想

3.新広域道路交通ビジョン(基本方針)
(1)広域道路の現状
これまで、熊本県広域道路整備基本計画に基づいて県内の広域道路が整備され、九州中央自動車道の「嘉島JCT ~山都中島西IC 間」や南九州西回り自動車道の「八代JCT ~水俣IC 間」、熊本天草幹線道路の「松島道路」「松島有明道路」「三角大矢野道路」が開通している。
また、広域道路の現状として、「150 分構想」「90分構想」の実現には至っていない(図- 2)が、熊本市と延岡市を結ぶ九州中央自動車道や、大分市を結ぶ中九州横断道路、天草市を結ぶ熊本天草幹線道路の整備が本格化してきている。

図2 「150分構想」「90分構想」の達成状況

(2)広域的な交通の課題
人流・物流の観点から整理した、県内における広域的な交通の主な課題について以下に示す。
①九州各都市とのミッシングリンクの解消
熊本市と福岡市を結ぶ九州縦貫自動車道は整備が完了しており、都市間の連絡速度は60 ~ 80㎞/hと比較的高いが、整備途上の九州中央自動車道や中九州横断道路、熊本天草幹線道路にはミッシングリンクが存在し、都市間の連絡速度は40 ~ 60㎞/hと低い。
また、ミッシングリンクが存在する都市間は、都市部の混雑による速度低下もあり、速度サービス性がさらに低下している(図- 3)。

図3 主要都市間の連絡速度と分布

②熊本都市圏の交通渋滞の解消
熊本市中心部の平均旅行速度は16.1㎞/hと非常に低く、交通渋滞が恒常化しており、3大都市圏を除く全国政令市の中でワースト1 位となっている(図- 4)。

図- 4 全国政令指定都市の平均速度

③高速道路ICへのアクセス性向上
高速道路IC までのアクセス性について、熊本市北部方面では熊本西環状道路等の整備により一部改善する見込みであるが、熊本IC や南部方面からのアクセス性には課題が残る(図- 5)。

図5 熊本市役所~高速道路ICのアクセス性

(3)広域的な道路交通の基本方針
広域的な道路交通の基本方針の策定にあたり、学識経験者や経済団体、物流、観光、交通管理者、防災関係機関の21団体(27名)にヒアリングを実施した。
また、詳細は後述するが、令和元年6月に「熊本都市道路ネットワーク検討会」が設立され、「熊本市を中心とした新たに必要な道路ネットワーク機能イメージ」が取りまとめられており、これらの意見を参考としながら、熊本県及び熊本市の将来像の実現に向け、前述した広域的な交通の課題等から、「広域道路ネットワーク」「交通・防災拠点」「ICT 交通マネジメント」の3つの観点により、広域的な道路交通の基本方針を定めた(図- 6)。

図 6 広域的な道路交通の基本方針

4.新広域道路交通計画
広域的な道路交通の基本方針を踏まえて策定した計画の中から、広域道路ネットワーク計画(図- 7)について紹介する。

図7 広域道路ネットワーク計画図

既に全線開通している九州縦貫自動車道を除く、5路線すべての高規格道路(九州中央自動車道、南九州西回り自動車道、中九州横断道路、有明海沿岸道路、熊本天草幹線道路)で整備が本格化してきている。
その一方で、それらの受け皿となる熊本都市圏の道路整備がさらに重要になってくるものと考えている。
こういった状況を踏まえ、「10 分・20 分構想」を新たに掲げており、構想の概要や実現に向けた取組みの状況について紹介する。

5.10分・20分構想
(1)構想の概要
令和元年6月、熊本市にとって真に必要な将来の新たな道路ネットワークの構想・計画等について、都市内交通の円滑化を踏まえつつ、あらゆる角度からの幅広い検討を行うため、経済界や学識者等からなる「熊本都市道路ネットワーク検討会」を国・県・熊本市で設立した。
その後、3度の検討会やシンポジウムを踏まえて、「新たに必要な道路ネットワーク機能イメージ」が取りまとめられた(図- 8)。

図8 新たに必要な道路ネットワーク機能イメージ

この機能イメージを踏まえ、本計画において、熊本市中心部から高速道路IC までを約10 分、熊本空港までを約20 分で結ぶ「10 分・20 分構想」を掲げ、熊本都市圏北連絡道路、熊本都市圏南連絡道路、熊本空港連絡道路の3 路線を新たな高規格道路として位置づけた(図- 9)。

図9 広域道路ネットワーク計画図(熊本都市圏拡大版)

(2)構想の実現に向けた取組み
①熊本県・熊本市調整会議
令和3年11月24日、地方自治法に基づき県と政令市で協議を行う「熊本県・熊本市調整会議」において、知事・市長・県議会議長・市議会議長により、新たな高規格道路3路線について協議がなされ、『有料道路制度の活用を含めた検討を進め、スピード感をもって対応すること』『県内自治体や経済界と連携し、建設促進活動に取り組むこと』に合意がなされた(写真- 1)。

写真1 熊本県・熊本市調整会議

②熊本都市圏連絡道路経済効果等検討会
10 分・20 分構想の早期実現に向け、構想の実現が本県のみならず九州全体へ与える様々な経済効果について調査するとともに、市民や道路利用者の理解を深め、地域の機運醸成に繋がる効果的な取組みを行うため、令和3年11月、経済界や学識者等からなる「熊本都市圏連絡道路経済効果等検討会」を県・熊本市で設立した。
本検討会では、熊本都市圏の慢性的な渋滞に伴う市民・県民の損失や災害時における損失などについて共有を図るとともに、構想が実現した将来の熊本への期待等について議論を行った。
また、構想の実現により期待される生活の変化等について市民・県民向けのアンケート調査を行い、15,000件を上回る回答を整理し、定性的効果を取りまとめた(図- 10、11)。
さらに、定量的効果として、アンケートにおける消費増加や出荷額増加に関する回答を踏まえ、産業連関分析を行い、経済波及効果額を算出した(図- 12)。

図10 定性的効果(くらし・教育)

図11 定性的効果(産業・観光)

図12 定量的効果(平常時の経済波及効果)

6.おわりに
このように、10 分・20 分構想には非常に高い経済効果が期待されていることから、構想実現のため、路線の具体化に向けた実務的検討はもとより、継続的な周知広報活動等により県民の理解を深め、機運醸成を加速化させていきたい。

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