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令和3年7月の川内川流域における出水と今後の取り組みについて

国土交通省 九州地方整備局
川内川河川事務所
調査課長
伊 東 理 博

キーワード:事業効果、内水被害、流域治水

1.はじめに
川内川流域を襲った平成18年7月洪水は、梅雨前線の影響により流域各地で1,000㎜を越える記録的豪雨となり、流域5市町は浸水家屋約2,300 戸、浸水面積約2,800haという甚大な被害を受けた。
この洪水の対策として、平成18年10月には「川内川激甚災害対策特別緊急事業(以下、激特事業)」が採択され、事業箇所約37 箇所において、河道掘削、築堤、輪中堤、分水路(写真- 1)、家屋嵩上げなど、治水対策のデパートとも呼ばれるほど様々な対策を組み合わせて実施し、平成23年度に事業を完了させた。また、併せて、川内川中流部に位置する鶴田ダムについても洪水調節容量を約1.3 倍に増強する「鶴田ダム再開発事業」(図- 1)を平成19年度より実施し、平成30年度に完成させている。さらに近年では、「国土強靱化3か年緊急対策」により鶴田ダム上流部の菱刈地区や支川羽月川の河道掘削を推進したところである。
川内川流域では、令和3年7月においても、平成18年7月洪水に匹敵するほどの大雨となっており、本稿では、その出水概要とこれまでの河川改修により発揮された事業効果、今後の課題や取り組みについて紹介する。

写真1 激特事業で整備した推込(おしごめ)分水路(さつま町)

図1 鶴田ダム再開発事業のイメージ図

2.令和3年7月出水の概要
(1)気象
令和3年7月9日夜遅くから10日昼前にかけて梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ影響により鹿児島県北部に線状降水帯が発生し、川内川流域の市町には大雨特別警報が発令された。8日から10日の3日間の降水量はさつま町の柏原で553.5ミリ、紫尾山で553.0ミリを観測し、平年の7月の月降水量に匹敵する大雨となった。

図2 累積レーダー雨量図(令和3年7月出水)

(2)雨量
今回の出水は、総雨量では平成18年7月洪水の規模には至らなかったものの、12時間雨量・24時間雨量では、流域内の各雨量観測所において平成18年7月洪水に匹敵する雨量を観測している(図- 3)。

図3 川内川流域各雨量観測所における雨量の比較

(3)河川水位
前述のとおり、12時間雨量・24時間雨量でみると平成18年7月に匹敵する洪水であったが、一方、川内川の水位は、支川羽月川では計画高水位を超える水位を観測したものの(図- 4)、流域内の各水位観測所が記録したピーク水位は、平成18年7月洪水のピーク水位を下回るものであり、直轄管理区間においての氾濫は皆無であった(図- 5)。
これは、激特事業や鶴田ダム再開発事業、国土強靱化3 ヶ年緊急対策等のこれまでの河川改修により発揮された効果であると推察される。

図4 花北水位観測所(羽月川)の水位、大口雨量観測所の雨量

図5 川内川流域各水位観測所におけるピーク水位の比較

(4)被災状況
直轄管理区間では氾濫被害はなかったものの、流域内各地の支川において氾濫が発生し内水被害が生じた。令和3年8月12日時点の流域5市町からの報告によると死者数0名、浸水家屋約140戸、浸水面積約1,300haとなっている。
また、この出水により曽木の滝公園内の展望台や曽木第2発電所遺構が被災した。

写真2 さつま町の内水浸水状況

写真3 曽木の滝公園内展望台の被災状況

3.今回の出水における事業効果
(1)鶴田ダム下流における事業効果
鶴田ダムの下流に位置するさつま町虎居地区は、平成18年7月洪水により特に被害が大きかった地区であり、激特事業により築堤及び河道掘削、推込分水路の整備などを実施している。
今回の令和3年7月の出水では、鶴田ダム再開発事業による洪水調節容量の増強効果もあり、鶴田ダムは緊急放流に至ることなく洪水調節を実施できた。また、激特事業で整備した推込分水路の分流効果なども相まって、虎居地区の宮之城水位観測所地点で約1.8m の水位低減効果があったと推定している(図- 6)。

図6 さつま町虎居地先における事業効果

(2)鶴田ダム上流における事業効果
鶴田ダム上流においても、激特事業やその後の河川改修により築堤や河道掘削等を推進してきたところであり、特に近年の国土強靱化3ヶ年緊急対策では、流下能力が比較的小さい支川羽月川の河道掘削に取り組んだところである。
今回の令和3年7月の出水では、羽月川の3K200 地点に位置する花北水位観測所ではピーク水位が計画高水位を超過したものの、川内川との合流点付近の下殿地先(羽月川0K600 付近)では計画高水位を下回る水位となっている。当該地先では、激特事業に加え、国土強靱化3ヶ年緊急対策によりさらに河道掘削を推進しており、これらにより約3.1m の水位低減効果が発揮されたと推定している(図- 7)。

図7 伊佐市大口下殿地先における事業効果<

4.今後の課題と取り組み
(1)今回の出水における課題
前述したとおり、直轄管理区間での氾濫被害はなかったものの、川内川本川の水位が高くなったことで、支川の水が吐きにくくなり流域内各地で内水による浸水被害が発生している。
今後はこのような内水被害の解消に向けた対策への取り組みが課題であり、流域の関係機関と協力して検討していくことが必要である。

(2)今後の取り組み(流域治水協議会の活用)
内水被害解消に向けた取り組みとして、令和2年7月に設置した「川内川水系流域治水協議会」の下部組織として、「川内川水系の総合的な内水対策を考える連絡会(以下、内水対策連絡会)」を令和3年度中に設置する予定である。
この内水対策連絡会は、国・県・市町等が連携して総合的な内水対策の調査検討を実施することを目的としており、内水被害の実態把握及び情報共有、内水被害の解消・軽減のためのハード対策に関する調査検討、内水対策実施状況のフォローアップ等に取り組む会議である。
また、流域治水協議会において令和3年3月に策定した「川内川水系流域治水プロジェクト」について、内水被害の軽減に寄与する対策を追加し更新することを検討しており、前述した国・県・市町等が連携した総合的な内水対策の検討をはじめ、樋門・樋管の無動力化、排水ポンプの小容量・多台数化検討、排水ポンプ車の迅速な稼働に向けた施設整備などを同プロジェクトに位置付ける予定である。

写真4 第1回川内川水系流域治水協議会の様子

5.おわりに
川内川の河川改修事業に携わられた先人たちの尽力により、令和3年7月洪水において、平成18年7月洪水と比べて大幅に被害を軽減することができた。
しかしながら、昨今の気候変動を考慮するとより大きな外力に備えた河川整備が求められるところであり、川内川においても治水安全度のさらなる向上に努めてまいりたい。

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