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i-Construction モデル事務所である
立野ダム建設事業でのBIM/CIM活用
~生産性向上を図る取り組みについて~

国土交通省 九州地方整備局
立野ダム工事事務所
建設監督官
弓 削 琢 郎

キーワード:i-Construction、CIMモデル、施工の効率化

1.はじめに
国土交通省では、平成28年から3次元データ及びICT 技術の活用等による建設現場の生産性向上を目指すi-Construction を推進しており、直轄事業の中で3次元データ等を活用した取り組みをリードする事務所を「i-Construction モデル事務所」と定めて、測量・調査から、設計、施工、維持管理に至る建設生産・管理システム全体で先導的に新技術の活用を推進しているところである。
立野ダム本体建設事業は、九州地方整備局管内におけるモデル事業として選定されており、ダムの調査・測量・設計、施工、維持管理において一元的にCIM モデルを共有・活用、発展させ、各業務・工事の効率化・高度化を図るためにCIM活用の試行・検証を行っている。

2.立野ダム事業概要
立野ダムは、図- 1 に示す阿蘇カルデラの唯一の切れ目である立野火口瀬付近に、白川沿川の洪水被害を防ぐことを目的とした直轄ダムとして初の洪水調節専用ダム(流水型ダム)である。立野ダムの目的は、戦後最大規模である昭和28年6月洪水と同程度の洪水を安全に流すことを目指して、基準地点である代継橋地点における基本高水のピーク流量3,400m3 /s を立野ダムにより400m3 /s の洪水調節を行い、計画高水流量3,000m3 /s に低減し、洪水の被害の防止又は軽減を図ることである。
立野ダムの諸元は、表- 1 に示すとおりであり、立野ダム下流面図を図- 2、立野ダム標準断面図を図- 3 に示す。

図1 白川流域概要図

表- 1 立野ダム諸元

図 2 立野ダム下流面図

図3 立野ダム標準断面図

3.CIMの取り組み概要
立野ダムのCIM の取り組みとしては、①阿蘇にふさわしい風景の追求(総括CIM)、②地元企業にも着目した施工管理の合理化(施工CIM)、③維持管理段階を見据えた管理CIM の実施に向けた体制づくり(管理CIM)の3 つの柱を取組目標として、検討を行っている。

(1)総括CIM
「阿蘇にふさわしい風景の追求」を目的に、ダム本体設計当初(平成21年)から周辺地形や構造物等の関連情報を含めた統合CIM モデルにより景観検討や施設設計を行っており、成果の一部は、景観委員会、インフラツアーやダム事業の理解促進のための現地説明等に活用している。また、事務所職員内の合意形成促進のために従来の打ち合わせの中にCIM モデルを活用している。

(2)施工CIM
本体建設事業は、大手建設会社JV が施工を担当している。一方で、周辺の関連工事においては地元建設会社が受注、施工を行っている。そのため、地元建設会社にも着目した施工管理の合理化を目的に、CIM モデルとAR 技術やウェアラブルデバイス等のICT/IoT 技術を活用し、監督検査の合理化の試行を進めている。段階確認等における移動(待ち)時間の削減や日程調整の解消等の効率化、3次元データの契約図書化、データ検査の一部廃止等の積算・検査の省力化等、これらの工夫と合わせて情報共有システムによる判断の迅速化を行い、地場企業が日常的に実施可能なCIMの活用を目指している。

(3)管理CIM
管理CIM は、3 次元化、見える化をすることで、正確な観測・監視が行えること、管理の効率化に寄与すること、3 次元化することで迅速に分析・評価できること、職員が入れ替わっても容易にデータが取り出せることにより、管理の高度化、効率化を図ることを目的とし、CIM の普段使いからの管理CIM の構築推進を目指している。
管理段階に向けたCIM の取り組みは令和元年から実施しており、令和5年までの取組のロードマップを策定し、検討を進めている。

4.取り組み事例・効果
本章では、CIM の取り組みに関する3 つの目標のうち、今後の地元建設会社等への展開を見据え、施工CIM に関する主な取り組みについて述べる。

(1)基礎掘削
堤体基礎掘削工において、丁張設置の省力化を目指し、MG(マシンガイダンス)及びMC(マシンコントロール)を搭載したバックホウと、MG を搭載したブレーカを用いたICT 土工を実施している。
本工事の堤体基礎掘削工は約70 万m3の掘削規模で、左岸法面頂部から河床部までの高低差は約170m となり、小段の段数は約50 段である。従来工法であれば、丁張を1,000 本近く設置して施工すべきところが、ICT 土工により0 本に省力化されている。
また、CIM モデルとICT 建機に入力する3次元データを共通に管理することで、掘削形状が変更となった際に、CIM モデルで掘削形状を照査・確認し、その後直ちにICT 建機に3次元データを入力するといった、合理化と効率化が図られている。
更に、掘削期間中の出来高・工程管理において、横断測量等の現場測量作業が不要となることによる省力化を目指し、3 次元モデルを用いた出来高管理を実施している。具体的には、毎月ドローン地形測量を実施し、得られた点群データから3次元地形モデル(TIN サーフェスモデル)を作成し、各月の地形モデルの差分から掘削量の算出を行うことにより出来高管理を行っている。

(2)コンクリート数量算出への活用
堤体コンクリートの岩着部においては、弱部となり得る土砂や岩石を取り除く必要があるため、掘削完了後は凹凸の大きい掘削形状となる。そのため、掘削土量は基礎岩盤の土質によって大きく増減することから、施工数量について協議する必要がある。そこで、コンクリート岩着部の掘削施工数量の算出においても、横断測量の省力化を目指し、ドローン地形測量から3 次元地形モデルを作成することで、体積を持つソリッド形状のCIMモデルに地形の凹凸を反映させ、CIM モデル (ソリッドモデル) から施工数量の算出を行った。
コンクリート岩着部の施工数量算出においては、凹凸の大きい地形から数量を求めるため、従来は2 ~ 5m 程度の小間隔で横断測量を実施し、平均断面法にて数量を算出していたが、3 次元地形モデルの活用により、横断測量が不要となり、試験的に実施した箇所では約60% の省力化となっている。また、数量算出の精度も向上し、コンクリート材料手配においてロスの少ない適切な管理が可能となった。

図4 岩着部の数量算出イメージ

(3)遠隔臨場立会
法枠工の出来形管理において、ドローン地形測量から得られる高密度な点群データを用いたPC上での出来形計測を行っている。色情報を含んだ点群データをモデル化し、法枠工の「法長」、「延長」、「吹付枠中心間隔」の出来形管理項目においてPC 上で距離を計測し、現地測量作業の省力化を図るとともに、監督員検査においても、図- 5に示すように、現地立会を行わず、机上確認での検査を実施している。
また、ドローンによる地形測量では計測が困難な垂直面の計測に関する出来形管理については、ウェアラブルカメラを用いた遠隔立会を実施した。
点群データを用いた出来形管理により、現地でのロープを使用する高所計測作業の必要が無いため、労力削減の効果及び安全性の向上が得られた。
監督員検査においては、現地立会の移動や待機時間、対応人数の削減が可能となり、効率化が図られた。
また、地元建設会社受注工事における遠隔立会としては、直前に現場で実施した検測等の動画を情報共有システムに登録することで、任意の時間に監督職員が確認を行うという手法の試行も行っており、高価な設備投資を行うことなく、効率化が図れる取組を進めている。

図5 遠隔立会イメージ

5.今後の展開
立野ダム本体工事のような大手建設会社JV の施工においては、前述のように、3次元データ及びCIM モデルを活用することにより、工事、数量算出、異工種間の調整、遠隔立会について、効率化・高度化が図られている。
これらの取組を一般化し、地元建設会社でも当たり前に実施できる環境を構築することが、CIMを普及、定着させるうえで重要な観点である。今後、当事務所が発注する工事等において、地元企業が日常的に、効率化・高度化を図っていくための仕組みづくりが必要であるため、具体的な取り組みについて述べる。

(1)3次元データによる契約図書化の取組
本事業においては、ICT 活用工事により取得された点群データを活用するために、工事施工中及び完成後の仮設工事用道路について、3次元データを作成し、本体工事と周辺工事(地元建設会社)との施工調整及び工事契約図書の変更を行う取り組みを実施中である。昨年度から今年度にかけて発注する工事において、従来の発注図面に加え、施工対象箇所および周辺の地形を3 次元化し、発注データの一部として提供することとした。現在、受注した地元建設業者と情報共有システムを活用し、受注時、施工途中、竣工時の各場面において、3次元データの活用方法や効果、地元企業による修正方法やデータの更新方法についてワークフローを整理するとともに、技術的課題を抽出し、改善策の検討を行う予定である。

図6 施工調整イメージ<

(2)施工管理の効率化、監督検査の合理化
施工管理の効率化、監督検査の合理化を目指し、河床掘削工事と斜面安定対策工事において、情報共有システムである「KOLC+」および「CIMPHONY Plus」を試行導入する。
これらの情報共有システムの活用により、電子小黒板や3次元データ等の工事中に流通するデータを“ 時間軸” と“ 位置情報” で管理・運用が可能となる。想定している活用のメリットは、受発注者間で、特別なソフトウェアをインストールすることなく、①施工履歴ログを入力することで、掘削形状等の「見える化」が可能となる、②掘削実績による断面確認、土量算出、出来高管理、出来形管理の作成が可能となる、③施工状況をVRへ出力し、複数個所から仮想現場にアクセスすることで、遠隔立会が可能となる、④受発注者間で3 次元モデルを共有し、そのモデルを活用し、設計変更等の協議が可能となる。今後、2 工事に対して、活用状況や効果についてヒアリングを実施し、メリット・デメリットの抽出を行い、今後の活用について検討を行う予定である。

(3)情報共有による協議の省力化・省人化
前節でも述べたように情報共有システムの活用により、3 次元モデルや点群データ等のデータをクラウド上で共有している。現場で取得する点群データ、3 次元モデルを受発注者間で共有することにより、協議時の見える化と行政LAN に接続されたPCで気軽に3 次元モデルを確認できる環境を構築し、協議の省力化、省人化を図っていく(図- 7)。
また、立野ダム工事事務所では、既に情報共有システムとして「サイボウズ」を利用しており、地元建設業者の負担とならないよう、今回の新たな情報共有システムを併用することで、どの様な効果があるのか、また、それぞれの活用場面を整理することで、今後、発注を予定している工事において、遠隔臨場機能や3D モデル閲覧機能などの積極的な活用を推進していくことが可能なると考えている。

図7 3次元モデルの共有イメージ(KOLC +)

6.おわりに
本年度の取り組み成果による課題等を整理し、次年度以降の工事において、更に地元建設会社にCIM が浸透していくように様々な取り組みを行い、CIM 活用を進める方針である。
また、立野ダム工事事務所における取り組みについては、i-Construction モデル事務所における成果として、ダム事業のみではなく、様々な工事において効率化・高度化を図るための基礎資料となるよう、取りまとめを行いたいと考えている。

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