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九州地方建設局における建設コスト縮減の取り組み

建設省 九州地方建設局
 企画部 技術管理課長補佐
平 松 信 幸

1 はじめに
公共工事については,その執行をめぐる最近の状況や国の厳しい財政事情等を背景として,実施方法や経済効果等について様々な指摘がなされている。
入札・契約手続きについては,透明性・客観性および競争性の高いものへの改革,また,事業の効率的・効果的執行を図るため,重点化等が鋭意進められているところである。
しかし,現在の厳しい財政状況の下,限られた財源を有効に活用し,効率的な公共事業の執行を通じて,社会資本整備を着実に進め,本格的な高齢化社会の到来を備えるには,早急に有効な諸施策を実施し,公共工事のコストの一層の縮減を推進していく必要がある。
このようなことから,平成9年4月に各省庁が一致協力して総合的にこの課題に取り組んでいくこととし,「コスト縮減対策に関する行動指針」が策定された。
建設省においては「行動計画」が同日策定され,九州地方建設局においては,平成9年7月8日に「地建版行動計画」を策定し取り組んでいるところである。
(1)行動指針の対象
本行動指針は,広く国・地方公共団体等が行う公共工事全体を念頭において作成されているが,直接には,国および関係公団等が実施する公共工事を対象としている。
(2)特  徴
① 全省庁をあげた取り組みである。
② 具体的数値目標を設定し,定期的にフォローアップする。
③ 計画・設計段階までさかのぼり,幅広い検討を行う。
これらを踏まえ,九州地建においても,平成9年度より,コスト縮減について取り組んできたので,その結果について今回紹介するものである。

2 コスト縮減の考え方
建設コスト縮減が実施されるまでのいきさつと考え方等について,次に述べる。
1)公共事業を巡る一連の不祥事から,公共事業に対する国民の厳しい目がある。
2)平成6年に実施された内外価格差調査によると,日本の建設コストは,米国に比べて1.1~1.4倍と高く,また,建設資材・労働力・建設機械等が1.2~1.5倍と高いなどの結果が出された。
3)コスト縮減にあたっては,「機能・品質の確保,不当なしわ寄せの防止,不正行為の防止」等,必要不可欠である。
4)コスト縮減の視点としては,次の事項に重点をおいて検討し,
 ① 計画・設計等の見直し
 ② 計画段階からの民間ノウハウの積極的活用
 ③ 技術水準の進展に対応した各種基準の見直し
 ④ 社会的規制等と調和のとれた工事施工の実現
 ⑤ 公共工事における情報化の推進
その結果,
 ① 計画・設計等の見直し
 ② 工事発注の効率化等
 ③ 工事構成要素のコスト縮減
 ④ 工事実施段階での合理化・規制緩和等
について取り組むこととなった。
5)コスト縮減の目標
国民に判りやすい指標を示すため,具体的数値目標を設定することとし,次の目標が設定されている。

これら全体の取り組みにより,平成9年度から平成11年度までの3ヶ年をかけて,コストを少なくとも10%以上縮減することを目指すこととなった。また,平成11年度末までにすべての施策を完了し,この期間中に概ねの縮減効果が得られるよう最大限の努力をすることとされている。
6)フォローアップ
定期的にフォローアップし,結果を公表する。
「フォローアップの結果を踏まえ,3年後を目途に行動指針の内容の見直しを行う。」となっている。

3 公共工事のコスト縮減実績
1)コスト縮減実績
九州地方建設局においては,政府の行動指針および建設省の行動計画を踏まえ,平成9年7月8日に「九州地方建設局行動計画」を策定し,平成9年度より11年度迄の3ヶ年をかけて目標値を掲げ取り組んでいるところである。
初年度である平成9年度においては,2.83%(うち直接的施策:2.23%,間接的施策:0.6%),約43億円の縮減となった。
2ヶ年目の平成10年度は,5.73%(うち直接的施策:4.83%,間接的施策:0.9%),約178億円の縮減となった。
平成10年度のコスト縮滅実績および施策別取り組み状況は,次のとおりである。

このように,行動計画2年目のコスト縮減実績は,直接的施策で4,83%,約150億円の縮減となった。目標数値の約8割を達成したことになる。
取り組みの多い順に述べると,①技術開発の推進,②建設副産物対策,③技術基準等の見直し,④設計手法の見直し…等となる。
間接的施策の効果は,政府の関係閣僚会議作業部会で算定された0.9%となったが、今後徐々にその効果が発現することを期待している。
この縮減値は,全国8地建の中で,第4位に相当する縮減率であり,今後も目標値(10%)に向けて着実に取り組んでいく方針である。

九州地方建設局では,3ヶ年間に実施可能な具体の内容として,4分野13項目133具体策を計画したが,平成10年度までに113具体策を試験施工等で実施している。今後も引き続き検討を行い,効果を上げるよう取り組んでいくものである。
2)九州地方建設局の取り組みへの工夫
① 九州地方建設局では,発注工事(500万円以上)の全てにおいて,コスト縮減検討資料を設計書に添付している。これにより,コスト縮減の検討が全てにおいて実施されるよう工夫している。
② 毎年6月に当年度のコスト縮減の取り組みについての通知を各事務所宛に行っている。また,コスト縮減の目標率を掲げ,会議等を通じて取り組みを依頼している。
ちなみに,平成10年度は,直接的施策の目標率を平成9年度の約2倍強である4.5%以上として取り組んだ結果,「4.83%」を達成することができた。

4 取り組み事例
九州地建における平成10年度の主な取り組み事例について次に紹介する。
実施事例ー1(技術基準等の見直し)
施策名:情報ボックス上の舗装復旧方法の見直し
〇概要
従来の情報ボックス上の舗装復旧は,電線類,水道等の占用物の舗装復旧に準拠し,舗装全断面で路面復旧を行っていたが,仮復旧に係わる施工手順を見直すことでコスト縮減を図るものである。
〇特徴,メリット
路面の仮復旧を表層のみの施工に変更したことで,コスト縮減が図られる。
〇効果
従来工法と比較し,舗装復旧に係わる工事費で約30%の縮減が図られた。

実施事例ー2(技術基準等の見直し)
施策名:仮設構造設計の見直し
〇概要
鋼矢板による土留め工法において,従来分割されていた火打ち部材を一体化することで,設置手間の低減を図るものである。
〇特徴,メリット
・現場での火打ちの組立を省略できるため,工期短縮が図られる。
・部材を一体化することで,火打ちの部材間隔が広がり,作業スペースが広くなる(施工性,安全性に寄与する)。
〇効果
従来工法と比較し,仮設に係わる工事費で約24%の縮減が図られた。

実施事例ー3(設計手法の見直し)
施策名:建築計画の合理化(フラットデッキ型枠の採用)
〇概要
本工法は,鉄筋コンクリート造建築物における床型枠工事の施工合理化工法として開発されたものであり,従来の型枠用合板に換え,鋼製フラットデッキ型枠を採用することでコスト縮減を図る。
〇特徴,メリット
・仮設工事の省力化が可能である(支保工工事や解体工事が少なくなる)。
・現場施工の作業性が向上される(作業床の兼用,安全性の向上,現場加工の省略)。
・熱帯雨林材等の木材の使用削減,建設副産物の発生が抑制される。
〇効果
仮設工事の省力化等で,型枠工に係わる工事費で約7%の縮減が図られた。

実施事例ー4(技術開発の推進)
施策名:橋面舗装の防水工にマスチック工法を採用
〇概要
従来からコンクリート床版の橋面舗装における防水処理は,シート系防水や塗膜系防水が一般的な工法として行われてきたが,防水機能を有する砕石マスチック混合物を防水処理および基層の代替混合物として採用することにより,コスト縮減,工期短縮を図るものである。
〇特徴,メリット
・従来の舗装と同じ施工性,舗装機械で施工できる。
・防水処理が不要となり,工期短縮,施工費の縮減が図られる。
・砕石マスチック混合物は,不透水層としての性質も有するため,従来の防水処理が省略できる。
〇効果
従来工法(シート系防水)と比較し,橋面舗装に係わる工事費で約36%の縮減が図られた。
〇イメージ図

実施事例ー5(建設副産物対策)
施策名:公共事業間での建設副産物の利用促進
〇概要
九州新幹線建設事業(他機関)のトンネル工事から発生する膨大なズリを、河川の築堤盛土および根固め工、水制工(河川改修事業)として流用できるよう協議し、建設副産物の有効活用を図る。
〇特徴・メリット
他機関と綿密な事業調整を図り、建設副産物の再利用を促進することで、河川事業で使用する盛土材料の購入費の縮減が図られる。
〇効果
土工に係わる工事費で約40%が縮減された。
〇イメージ図

実施事例ー6(資材調達のための諸環境の整備)
施策名:海外資材活用工事の実施
〇概要
公園施設の整備において,中国産の石材(花崗岩)を利用することによりコスト縮減を図るものである。
〇特徴,メリット
安定的に供給される低廉で良質な材料の入手により,材料費の縮減が可能。
〇効果
従来材料(国産石材)を採用した場合と比較すると,石張工に係わる工事費で約80%の縮減が図られた。
〇イメージ図

5 今後の取り組み方針
コスト縮滅の取り組みは,建設省においては,平成6年度より実施されてきている。
政府をあげての取り組みは,平成9年度から始まり,平成11年度までの3ヶ年をかけて取り組むものであるが,今後,その目標値の達成に向けて積極的な取り組みを行う。
1)目標値の達成に向けて
平成10年度までは,目標値に向けて,順調に取り組みがなされてきている。
これは,発注工事全てにおいてコスト縮減が行われたものではなく,コスト縮減の検討は行われたが,縮減が得られなかったものも多数存在している。このため,今年度は,発注工事において,今まで以上にコスト縮減項目を見い出せるよう取り組んでいく方針である。
2)関係機関との連携
現在,関係省庁との連携を図り,コスト縮減ヘの取り組みを高める目的で,「九州地方建設コスト縮減連絡調整会議」を設置すると共に,各県・政令市とは「九州地方建設コスト連絡会議」を設置し,年数回の調整会議を開催している。
今後とも,各関連省庁や各県・政令市等と連携を保ちながら,建設コスト縮減対策に取り組んでいく方針である。

6 おわりに
このように,建設コスト縮減の取り組みは,平成5年頃の建設工事の内外価格差問題ならびに公共事業を巡る一連の不祥事等による国民の公共事業に対する巌しい目等に端を発し,建設省においては,平成6年度より取り組んできたが,その後,政府をあげた取り組みが必要であるとの方針の下,平成9年度からは,関係省庁および地方自治体も含めた公共工事全体の取り組みへと発展してきたところである。
コスト縮減は,単なる歩切り等不当な利用によるコストの縮減ではなく,「品質を確保した上で,単価を下げるもの」であり,これには,新技術・新工法の開発が必要不可欠なことは言うまでもない。
我々,建設業界で働く建設技術者は,技術力向上と併せ,常に新しい技術・工法を切磋琢磨し追求していくことが重要である。
また,建設コスト縮減の取り組みは,技術力向上に大いに役立ち,また,公共事業費縮減による,さらなる社会資本整備の推進に役立つものである。
平成11年度末が一つの目標年になっているが,今後取り組みの見直しも予定されているようであり,未来永劫,技術者は「いかに品質の良いものを安く,タイムリーに住民に提供していけるか」…。を我々の使命として心に刻み取り組むことが必要である。
建設技術者の力を遺憾なく発揮し,国民に公共事業の重要性・正当性等をアピールしようではありませんか。

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