一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
九州圏広域地方計画の総点検について
森田昭廣

キーワード:広域地方計画、総点検

1.はじめに
平成23 年3 月11 日の「東日本大震災」により、我が国の社会経済は地震や津波の直接的な被害を受けた被災地域の東北・関東地方のみならず、全国的に多大な打撃を被った。
「東日本大震災」の発生を受け、国土審議会政策部会防災国土づくり委員会「災害に強い国土づくりの提言」(平成23 年7 月)、中央防災会議・専門調査会の報告(平成23 年9 月)がなされたことから現行の九州圏広域地方計画(平成21 年8月策定)の「総点検」を行うこととなった。
「総点検」は、上記提言及び報告の趣旨を踏まえ、計画策定後に九州で起きた火山噴火や離島での風水害、歴史的な円高の進行、家畜の伝染病など九州独自の課題を加え、九州圏広域地方計画の現状と課題や新たな施策等について検討を行った。
本稿では、九州圏広域地方計画の総点検の結果について紹介する。

2.九州圏広域地方計画の特徴
九州圏広域地方計画は、九州圏を取り巻く環境が、近接する東アジアの経済発展、本格的な人口減少・少子高齢化の進行、地球温暖化に対する意識の高まりなど時代の要請に適切に応えていくため長期的かつ総合的な観点から、九州圏における国土形成に関して重点的に取り組むべき基本的な対応方針等を示している。
当計画では、新たな九州像の実現に向けた7つの戦略目標及び22 の広域的な連携プロジェクトを設定し、広域的な影響・効果を与えるもの、広域的な連携を図るもの、先導性、発展性を有するものについて重点的に施策を実施していくこととしている。

3.総点検の推進体制とスケジュールとフロー
3-1 総点検の推進体制
九州圏広域地方計画策定以降に九州圏において発生した主な事象に対して各関係機関が対応した様々な取組をアンケート調査により把握した。それらの取組を国土審議会政策部会防災国土づくり委員会「災害に強い国土づくりの提言」(平成23 年7 月)からの提言、中央防災会議・専門調査会(平成23 年9 月)の報告を踏まえ、新たな施策・取組に分類し、九州圏広域地方計画の「総点検」を行う上での論点や課題を整理した。
総点検の検討体制としては、九州圏広域地方計画協議会の下に「九州圏広域地方計画総点検ワーキンググループ(国の地方支分局、県・政令市、オブザーバー等で構成)」を設置し検討を行った。

3-2 総点検の検討フロー
総点検では、広域地方計画策定後に九州圏に影響を及ぼした「社会的な事象」を抽出し、各々の課題に対し、構成機関の対応事例を新たな施策・取組として各戦略目標ごとに分類・整理し、広域地方計画への反映方法について検討を行った。

4.広域地方計画へ影響を及ぼした社会的な事象
平成21 年8 月以降、九州圏及び関係する圏域において発生した様々な出来事のうち、特に社会的影響が大きなものについて以下に示す。
4-1 東日本大震災
東日本大震災は、平成23 年3 月11 日に発生し、地震とそれに伴って発生した津波、原発事故等により様々な被害をもたらした。九州圏における影響は、主に国内外からの観光客入込客数、自動車生産台数、農業産出額、農水産品生産等に影響を及ぼした。

    

4-2 霧島山(新燃岳)の噴火
霧島山(新燃岳)の噴火は、平成23 年1 月27 日に発生し、鹿児島県や宮崎県を中心に、新燃岳の噴火とそれに伴う降灰による広範囲の被害をもたらした。九州圏における影響は、宮崎県・鹿児島県における観光客入込客数や農産物の収量・品質の低下に影響を及ぼした。

  

4-3 口蹄疫及び高病原性鳥インフルエンザの発生
口蹄疫(平成22 年4 月~ 8 月)及び高病原性鳥インフルエンザ(平成23 年1 月~ 3 月)は、家畜、家きんの直接被害と風評被害を含めて住民生活、経済活動等に甚大な影響が発生した。九州圏における影響は、宮崎県・鹿児島県における畜産産出額や観光客入込客数に影響を及ぼした。

4-4 歴史的な円高
歴史的な円高は平成23 年10 月頃から始まり、国内企業の生産拠点の海外移転や国内景気の冷え込み等による経済被害をもたらした。九州圏における主な影響は、輸出額、輸入額や外国人入国者数に影響を及ぼした。

4-5 タイの大洪水
タイの大洪水は、平成23 年7 月~ 10 月までに台風に伴う豪雨被害を発端にしたタイ北部・東北部における洪水・土砂災害を引き起こし、タイに進出している日系企業の経済活動へ甚大な被害が発生した。九州圏における影響として、サプライチェーンの停止により海外からの部品供給依存度の高い工業製品の生産や、原料の供給が停止した。

4-6 奄美豪雨災害
奄美豪雨災害は、平成22 年10 月に記録的な豪雨により、河川氾濫、土砂災害が発生した。生活、情報、交通インフラが寸断され孤立集落の発生等災害時における離島や中山間地域の課題が浮き彫りとなった。九州圏における影響として、情報通信網の寸断や避難路の寸断による集落の孤立化が問題となった。

5.課題の整理と対応事例の分類
国土審議会「防災国土づくり委員会」や中央防災会議の提言、九州圏において独自に認識された点検項目に対し、各関係機関の対応事例などを踏まえ九州圏における課題(16 項目)を整理した。
各関係機関の対応事例のうち、現行計画に記載のない新たな事例について関係する広域連携プロジェクト毎に新たな施策・取組みとして分類・整理した。

6.九州圏広域地方計画への反映
6-1.戦略目標Ⅰ「東アジアへのフロントランナーとして発展する九州圏の形成」における新たな課題
(1)九州圏の持続的な成長を実現する成長型・牽引型産業群の形成
成長型・牽引型産業等が災害等により、部品生産拠点への影響が及ぶ可能性がある場合、国内外に限らず、災害支援に加え、いち早い生産再開のための支援活動を展開する「アジアの部品生産拠点に対する災害支援(サプライチェーンの早期復旧)」を推進する。
また、アジア各地へのビジネスマッチング等による国内産品の販路拡大や次世代に向けた成長期待産業の育成に向け、官民連携によるアジアへの環境技術等の支援や医療機器産業の海外展開を推進する。

(2)東アジアへの近接性等を活用したフード・観光アイランドの形成
食の安定供給を支える競争力の高い農林水産業構造を確立するため、農林水産業の生産基盤の整備等による経営・生産基盤の強化、農業経営の法人化、意欲のある農林水産業の担い手の育成・確保、企業の農業への新規参入等や九州農業の成長産業化に向けて、複数の組織体による連携協議会の設立などを総合的に推進する。
また、現行計画においても示される、安全・安心で環境にも配慮した食糧供給基地の形成や、環境との調和に配慮した農水産物、食品の生産地づくりを目指す九州圏では、家畜伝染病に対する防疫体制の強化等を連携して推進する。

6-2.戦略目標Ⅲ「災害・環境ハザード最前線における安全・安心で美しい九州圏の形成」における新たな課題
(1)減災の視点も重視した災害に強い地域づくり
大規模な地震等による被害を最小限に留め、全国に波及させない国土のあり方は、国土政策上重要な検討課題であり、国土全体に影響を及ぼす大規模災害のリスク軽減のため、九州圏においても大都市圏の大規模災害発生時におけるバックアップ機能の強化を図るため、九州圏として果たすことが出来る機能や地理的適合性等の調査研究を進め、情報発信に努めていく必要がある。
また、災害等緊急時における道の駅、高速道路のSA・PAの防災拠点化、既存港湾・空港の広域防災拠点の整備、緊急輸送ネットワークの整備を推進し、災害・緊急時における広域防災拠点整備と代替性・多重性を確保した広域ネットワークの構築を推進するとともに、今後予想される最大クラスの津波に対しても「人命第一」の基本に基づき各地域の特性を踏まえ、適切な対応を図っていく必要がある。
河川・海岸堤防や道路・港湾等各管理者の協力・連携のもと、ハード・ソフトの施策を組み合わせた多重防御機能の整備を推進し、津波防災地域づくりに取り組んでいく。

(2)安全で安心な暮らしを支える広域セーフティネットワークの形成
広域的な連携強化を図り、被災情報の伝達や人材・資機材等の派遣体制の充実、相互補完・連携等を推進する。また、大規模災害時の対応における情報共有・連携の強化を図るため、九州圏における防災関係機関等が相互に連携し、防災情報通信ネットワークの構築を進めるとともに、防災情報の共有や情報発信等の機能強化を図る。
また、東日本大震災のように、大規模かつ広域的な災害の発生時には、各圏域を越えた広域的な支援体制を構築し、発災直後の応急復旧、避難誘導にかかわる緊急的な対応や中長期にわたる被災地の支援、長期間にわたる避難者等の受け入れ支援を九州圏全体で連携し実施する。

6-3.戦略目標Ⅵ「離島・半島、中山間地域等の地理的制約を克服する豊かな定住環境の形成」における新たな課題
(1)地理的制約を克服する生活イノベーションの展開
地震、台風や集中豪雨等の災害発生に伴う生活道路の途絶による集落の孤立化を防ぐため、危機管理道路網の整備、災害時における避難路や緊急輸送路、情報連絡手段の確保等、ハード・ソフト対策の一体的な推進を図り、地域の防災力を向上する。

7.おわりに
今回の「総点検」では結果的に、現行計画を見直すべき新たな広域連携プロジェクトに該当する項目は見当たらなかった。総点検結果により新たに顕在化した施策・取組については、現行計画の戦略目標を実現するための広域連携プロジェクトの一環として推進することを確認した。これら施策の進捗状況については、モニタリングの一環として今後とも継続的にフォローアップをしていく予定である。
なお、総点検の内容については九州地方整備局HPで公表しているので参照されたい。
<九州圏広域地方計画(推進状況、総点検)は、以下のURLよりご覧下さい>
http://www.qsr.mlit.go.jp/suishin/02torikumi/index2.htm

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧