一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
九州から日本を動かす
麻生泰

キーワード:インバウンド観光、農林水産業、外国語表示、Wi-Fi 環境、交通インフラ

○はじめに
九州経済連合会(以下「九経連」)は、1961年(昭和36年)に設立され、現在、九州・山口・沖縄の約1,000の企業・大学等が加盟する経済団体です。
産業経済に関する諸問題を調査研究し、九州地方における経済界の意見をまとめ、その実現を図り、地域経済の総合的な振興を通じて、我が国経済の発展に寄与することを目的としています。
設立当初は全国総合開発計画(1962年策定)、新全国総合開発計画(1969年策定)がスタートする時期であったことから、真っ先に取組んだことの一つが、インフラ整備の要望活動でした。その結果、九州縦貫自動車道は1995年に、九州横断自動車道長崎大分線も2004年に全線で供用開始しました。また、九州新幹線鹿児島ルート建設も2011年全線開通となりました。

1.日本経済の現状と伸びゆくアジア
日本経済は全体としては明るい兆しが見えており、政府は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定し、地方創生を力強く推進しています。しかし、地方で多くの人が経済の回復を実感するレベルまで達してはいないのが現状です。本格的な成長軌道に乗せるにはこれからが正念場といえます。
また、煮詰まる(行き詰まる)日本市場という状況はこれからも変わりません。人口が漸減し、高齢化が進み、市場の購買力は落ちていく。今までと同じ市場を対象とする企業の売り上げは落ち、少子化により学校も減っていき、地方はその厳しさが一段と強くなります。
これからはその地域、その組織ごとの特徴を尖がらせた対応策が必要となります。例えば、製造業では新しい生産設備は海外がほとんどになり、M&Aを実行し、消費者が増え続ける海外への足場づくりに力が入っています。
他方、九州の近くにある「アジア」は多少のアップダウンはあっても、少なくともこれから15年程度は、日本の昭和30年代のように経済成長が続くと予想されます。しかも、これから伸びる中堅所得者数は、5億から10億人という規模で、その市場が新たな需要を生み、サービスや販売の対象として取り込むことができます。

こうした勢いあるアジア諸国の流れと、国家や地域の方向性、そして自社・組織の強み・弱みを知った上で、少々背伸び気味の目標を立て、将来ビジョンや方針、戦略を決定することが重要です。「過去からの延長で考えるのではなく、有るべき未来からの反射で判断する」という考え方で、3年後にはあのレベルまでいく、そのために今年は何を仕掛け、どう仕込み、如何に仕組んでいくかを具体的に描くことです。残された時間はあまりありません。危機感とスピード感の不足は、チャンスを失い、ピンチを大きくします。さらに、今の時代は、何もしないことからくるリスクも伴います。
幸いにも、私たちの先輩方の努力によって、各国からの日本ブランドへの高い信頼、日本製品への高い期待や安心感、そして日本旅行への憧れや希望等があり、私たちは実に有り難い財産を頂いています。そのような恵まれたチャンスを大事にしながら我々は動き出し、積極的にこの時代を生き抜いていきましょう。
2.九経連の使命-九州から日本を動かす-
九経連の使命は『九州から日本を動かす』です。2015年3月に中長期計画『Let’s move Japan forward from 九州!』を発表しましたが、九州から幾つもの良い結果を出し、事例を発信し、「九州ができたのだから私たちにもできる」と各地への発展へ繋げていきたいと思っています。

(1) 第一次産業(農林水産業)への期待と若手が地元へ戻る魅力づくり
ここ数年、九州の第一次産業は転換期を迎えています。2014年に九州7県のJAのリーダーが同行した香港における農水産物商談会では、1億円以上の契約ができました。アジアの人々は、日本の野菜、果物、水産物、肉類を求めています。日本市場だけではなく、メイド・イン・ジャパンを期待して待っている、収入面でも一段と豊かになったアジアを新しい市場としていきたいと考えます。
2015年8月には九経連も協力し、JA宮崎経済連と九州の6社が出資して農水産物の輸出を行う「九州農水産物直販」が設立されました。今後、環太平洋経済連携協定(TPP)で門戸が広がることから、この時期に九州産品を輸出することは国からも非常に期待されています。まず、香港の流通グループとの取引で実績をあげ、徐々に規模を広げていく予定です。
家業が儲かるようになれば、次世代も家業に戻ることを考えてくれるでしょう。私たち現役世代は、明るい将来の可能性が軌道に乗るまで頑張ることが大事です。若手が地元、家業に戻ってくると、私たち世代の老後は、ぐっと面白くなっていくと思います。子供たちを支援しながらも教わることがあり、お互いの強みや良さを認めるようになると、新しい学びのテーマも生まれ、さらに充実した日々になると予想されます。

水産業でも日本の養殖事業(生産額)の4割は九州です。エサの管理、魚の健康管理といった養殖の管理技術は、「さすが日本の技術水準!」と言われる高いレベルにあり、信頼性も高く、これからの伸びが大いに期待されています。
林業も動き出しています。大分県、鹿児島県では木材の輸出が伸び始めました。ジェトロのご支援の下、2015年の輸出商談会では、約3億円の成約見込みをあげることができました。九州の林業は、全国から大いに期待されています。休耕田が有るなら、そこに植林をしてはどうかという話もあります。確かに、平地で行えればリスクもコストも下がり、環境にも良いと思います。また、九州の林業従事者の平均年齢は下がってきており、若返り傾向にあるという報告もあります。
地方創生も、同じように、関東、関西から次世代が戻るようになると、一段と良い形で地方都市が活性化するでしょう。
自宅を建てる、子供も増えるという流れは、年配者の仕事を自ずと生むことになります。仕事が有るので毎日が休みではなく、健康的で病気にもなりにくいという好循環が生まれます。当然、医療費もかからなくなるので財政面での貢献も期待できます。健康寿命を伸ばす、そのためには生涯やれる仕事、楽しみで好きなテーマに関しての学びが必要で、そうなれば日々が充実していきます。
「生涯学習、生涯現役、生涯収入」という三つの生涯テーマの循環が可能なモデルを作っていきたいものです。ここに、日本の一つのテーマである高齢化社会への対応策ができ、地方創生の好事例を作ることになるのかもしれません。

(2)観光産業への期待とやるべきこと
観光事業の動きも大きなものがあります。2014年~ 2023年の九州の観光施策を策定した第二期九州観光戦略において、「観光産業を九州の基幹産業にする」との方針を発表しました。古くは石炭や鉄鋼業、近年では自動車や半導体などが基幹産業として九州を支えてきましたが、これからは観光産業が新たに基幹産業の一つになっていくということです。
2019年ラグビーワールドカップでは九州の会場が3か所選ばれており、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されることから、この好機を活かしていきたいと思っています。
インバウンド(訪日外国人)観光の伸びは桁違いで、チャンスが急拡大しています。2014年は約170万人の外国人が九州を訪れており、2015年に入ってからは、前年比160%以上の実績を示しています。第二期九州観光戦略では2023年の訪日外国人数を440万人にする目標を掲げており、目標水準まで行けば、2014 年は約1,700億円(推計)の訪日外国人による旅行消費額を、6,400億円にまで押し上げることができると考えています。

これを実現するには、まず、英語、中国語、韓国語といった外国語表示を街中や店内でもっと普及させていくことが必要でしょう。例えば飲食店では、料理の写真付き外国語表記のメニューがあると外国人観光客にとっては分かりやすく、効果的です。そして、その料理が美味しくて、お店のサービスが親切だと一度でも感じれば、彼らはスマートフォンなどを使ったSNSで、どんどんその店のPRをしてくれます。
実際に、東京のタクシーの運転手さんから、「多くの中国人が新宿の小さなお土産物屋さんを行き先に指定する」と聞きました。この店は親切で良いと中国人の間で評判になっているのですが、日本人にはあまり知られていない店とのことです。中国からの観光客が日本に興味を持つ仲間にSNSを通じてPRし、新しいお客さんを呼び込んでいるのだと思います。

(3)海外からのお客様に気付かされたこと
先日、上海の経済団体一行(約20人)が来日し、福岡市、北九州市、熊本市を見学しました。会談や見学後の夕食の場で、九州各地の良さ、投資対象の具体案、そして私たちがもっと九州の良さをPRすべきことを薦められました。
これまで旅行や投資先として、東京、大阪、京都ばかりを考えていた人達が、九州の良さ、便利さ、レベルの高さに非常に関心を持たれており、私たちのサービスや努力次第で、これからの観光客や投資案件が増えることを感じました。
大事なことは、おもてなしであり、まごころサービスです。高いブランド力が訪日観光客を魅了していますが、私たちはそれを活用して、如何に多くのリピーターを作るか、良い印象を与えて帰国して貰うかがこれからの課題です。

(4)社会資本整備について
これまで述べたような第一次産業や観光産業の振興に限らず、九州地域の一体的な発展を促進し、地方創生を実現するためには、社会資本の整備は必要不可欠です。
国は財政が非常に厳しい中、従来通りの社会資本整備ではなく、長寿命化・老朽化対策を中心とした強靭化を進めようとしていますが、九州は全国に比べて整備が遅れている分野も残されており、真に必要なものを客観的に把握し、民間も協力して、利便性の高い社会資本を整備していかなければならないと思います。
訪日観光客が滞在中に不満に思うランキングでは、「Wi-Fi環境の未整備」が第1位に挙げられているようですが、旅行客により楽しく快適に過ごして頂くよう、九経連は、九州観光推進機構、NTTグループと共に九州内の無料Wi-Fi環境の整備を進めています。また、多言語対応についてもスマートフォン用の専用アプリを導入し本格的に整備していく方針です。九州広域のこうした取り組みは全国でも例がなく、官民がまとまっている九州独自の成果ともいえます。
交通インフラは道路、鉄道、港湾、空港などそれぞれの役割がありますが、例えば、高規格道路整備は物流コスト・時間の大幅短縮やドライブ観光の増加、鉄道網の整備は観光列車の増加、九州新幹線長崎ルート建設は新たな需要開拓、港湾整備は利便性向上による大型クルーズ客船の寄港増加などが期待できます。
また、高速道路は産業活動のためだけでなく、大規模災害時の避難経路の確保、円滑な救援・復旧活動、救急医療活動等に必要な交通基盤であり、東日本大震災の教訓として、災害に強い広域ネットワークの構築の重要性が再認識されているところです。
国において推進されるべきと考える主な社会基盤として、下記のものがあげられます。
① 循環型高速交通体系の整備拡充
・東九州自動車道、九州中央自動車道、西九州自動車道などの高規格幹線道路や、有明海沿岸道路、中津日田道路、中九州横断道路、下関北九州道路などの地域高規格道路の整備。

② 高速鉄道ネットワークの整備
・九州新幹線西九州(長崎)ルートは、2022年(平成34)年度の全線開業を目指して、すでに諫早~長崎間が着工、武雄温泉~長崎間が一体で整備中。確実な財源確保による一日も早い全線開業へ向けた整備が望まれる。
③ 福岡空港・那覇空港の整備促進及び域内空港間の連携推進
・アジアのゲートウェイとしての役割を担うべく、国際化へ向けた拠点空港整備が必要。
・福岡空港については、民間委託の検討と併せて、滑走路増設及び平行誘導路二重化の国の責任における推進。
・那覇空港については、中国・アセアン・日本各地からの中心に位置する地理的優位性や24時間運用の高機能空港という利点を
活かし、アジアへの輸出促進を図るため、国際物流ハブとして利用促進。
・新規航空路線(LCC等)誘致やアクセス強化等域内空港の利便性向上と連携方策検討。

この他にも各地における必要不可欠な社会基盤整備は、確実に進めていただきたいと考えます。

(5)これからやっていきたいこと
私は九州の可能性、アジアの著しい成長と日本のブランド力の高さといった現実の流れを多くの方々にもっと知って貰いたい、伝えたいと強く思っています。皆さんそれぞれが何をしていくか、この大きな流れにどう対応するのか、活用していくかを考え、次世代に繋ぐ策を見つけ、動いていきましょう。

おわりに
恵まれたチャンスを生かし、実績重視の姿勢で九経連を運営することによって、霞ヶ関が体感できる成長の風を西から吹かせ、国内に勢いがつくように努めて参ります。2016年の現役世代が、見守ってくれている親世代に納得され、満足される強い心構えを持って活動し、次の世代が将来喜んでくれる社会を残せるよう実績を出していきましょう。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧