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不飽和土をみつめて
鹿児島大学名誉教授
北村良介

タイトル「不飽和土をみつめて」の主語は筆者あるいは読者の皆様であり、筆者が30 年余り、不飽和土をみつめてきたことに対する所感と読者の皆様が不飽和土に注目してくださいという意味が含まれている。
不飽和土は土粒子(固相)、間隙空気(気相)、間隙水(液相)からなる三相混合体である。飽和土は土粒子(固相)、間隙水(液相)、乾燥土は土粒子(固相)、間隙空気(気相)からなる二相混合体である。飽和土、乾燥土は不飽和土の両極端(飽和度100%と0%)に位置する二相混合体であり、三相混合体である不飽和土より解析が容易であることから、従来の土質力学は主に飽和土、乾燥土を対象とした力学になっている。
一方、実際の地盤に目を向けると、降雨によって地表面に水たまりができたとき、水たまりの下にあ
る土は飽和状態にある。雨がやみ、晴天が続くと水たまりの水は蒸発して消滅し、地表面付近の土は不飽和状態になり、さらに晴天が続くと不飽和状態の土に含まれる間隙水が少なくなっていく。このように地表面付近の土は日々の天気に依存して飽和状態と不飽和状態を繰り返しており、また、不飽和状態の土の含水量は変化している。陸上の地下水以浅の地盤を構成する土は不飽和土であり、地下水位付近の土は地下水位の変動に依存して飽和状態と不飽和状態を繰り返している。干潟の土は干満の差に依存
して飽和状態と不飽和状態を繰り返している。水深の浅い沿岸域の海底地盤の土も生物遺骸に基因するガス等が含まれ、ガスは間隙水圧に依存して間隙水に溶存された状態(飽和状態)とガスの状態(不飽和状態)で存在する。すなわち、間隙水圧(水深)に依存して飽和状態と不飽和状態を繰り返している。
河床の土は河川水位の変動に依存して飽和状態と不飽和状態を繰り返している。
不飽和土の間隙水圧は常に間隙空気圧より小さく、このことが不飽和土の力学挙動を特徴づけている。間隙空気圧と間隙水圧の差の絶対値をサクションと称している。陸上の土の間隙空気圧は大気圧と等しい場合がほとんどであり、大気圧を基準(ゼロ)とすると間隙水圧は負(大気圧より小さい)になる。従って、サクションが大きいということは、間隙水圧が小さいということを意味する。
上述のように地盤工学が対象とする土は、基本的に不飽和土であり、地盤工学における諸問題(浸透・
締固め・土圧・支持力・斜面安定・侵食問題等)を解決するためには、不飽和土の力学特性(保水・透気・透水・変形・強度特性等)を解析するための力学(ツール)が必要である。すなわち、従来の土質力学の延長線上で不飽和土を考えるのではなく、土は土粒子(固相)、間隙空気(気相)、間隙水(液相)からなる三相混合体であることを素直に認め、土に固有な不飽和土質力学を確立しなければならない。このような認識に立ち、筆者らは「確率・統計を援用した不飽和土質力学」を提案している。土木技術者の皆様が本稿を読み、現場での体験等を通して不飽和土の力学特性に興味をもっていただければ幸甚である。

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