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一般国道448号災害関連事業
小崎バイパス(恋ヶ浦トンネル)開通
~改良復旧事業により、地すべり地帯を迂回したトンネル主体の
安全・安心な道路を整備~
宮崎県 大浦浩一郎
1 .はじめに

当事務所では、平成18年6月に宮崎県串間市の国道448号において発生した道路災害を、地すべり地帯を避けて内陸部に迂回するトンネル主体の小崎バイパスとして改良復旧し、平成21年3月に供用開始した。
災害復旧(災害関連事業)の制度上、3箇年で事業完了させなければならないという制約の下、新設した迂回路を約2年4ヶ月にわたり供用・管理しながら、脆弱な地質として知られる日南層群に施工した恋ヶ浦トンネルの概要について紹介したい。

2.位置
一般国道448号は、鹿児島県指宿市を起点とし串間市等を経由して宮崎市に至る幹線道路である。地域の経済・産業の振興や日常生活に必要不可欠な道路であるとともに、沿線の日南海岸国定公園の眺望を楽しむことのできる観光道路として重要な路線である。
被災箇所は、本県の主要な観光地で国の天然記念物である野生馬の棲息地としても有名な都井岬から約8㎞北上、サーフポイントとして知られる恋ヶ浦海岸から約1㎞南下した、串間市大字大納の小崎鼻付近に位置している。

3.災害発生から工事着手までの経緯
・平成18年5月26日
道路下の斜面崩壊 全面通行止めに移行
・平成18年6月9日
梅雨の降雨により路面滑落
・平成18年7月26日
串間市が迂回路開設工事に着手
・平成18年10月30日 災害査定
・平成18年11月15日 迂回路の供用開始
・平成18年12月26日 災害関連事業の採択
・平成19年5月17日  トンネル1期工事に着手

4.災害関連事業による復旧
道路の上部斜面を含めて調査・観測したところ、斜面全体が潜在的な地すべりブロックであることが確認された。
現道より下方の地すべりブロック(親災ブロック)を復旧するだけでは、不安定土塊(関連ブロック)の崩落等で再度被災の恐れが高いため、災害関連事業により復旧することとした。
関連ブロックを抑制・抑止するため、アンカー工主体の復旧工法などを検討したが、地すべりブロックが大規模でコストがかかることから、原形復旧よりも経済性等に優れ、脆弱な地すべり地帯を避けたトンネル主体のバイパス新設により復旧することになった。

5.事業概要
・道路規格:第3種第4級 設計速度:50㎞/h
・延長:L=1,040m 幅員:W=5.5(7.0)m
トンネル部(2工区):L=587m W=5.5(8.0)m
明 か り 部   :L=453m W=5.5(7.0)m
・事業期間:平成18年度~平成20年度
・事 業 費:約18億円(トンネル約14.7億円)

6.迂回路
(1)孤立集落の発生
国道448 号は沿線に多くの地すべり地を抱える脆弱な道路である。(本年度も管内同路線で3箇所以上の地すべり観測・監視を行っている。)
被災箇所の北側は連続雨量170㎜で通行止めとなる予防規制区間であり、大雨時には孤立集落が発生(大納地区と名谷地区の約50世帯140人)するため、早急な迂回路の設置が課題となった。

(2)迂回路設置
地域住民及び串間市と連携し、地域住民が無償貸付で用地を提供、串間市が県費補助事業により作業道を開設、県が災害の応急工事で作業道のコンクリート舗装・法面保護工・ガードレール等を施工して迂回路を新設。国道として供用開始した。

(3)通行規制
迂回路(延長L=1,300m 幅員W=3m)は必要最小限の通行機能に限って整備されたため、急勾配で急カーブの多い、離合のできない一車線道路である。よって、以下の通行規制を行った。
・10 分間隔の片側交互通行
・2 t車以上の車両の通行止め
・大雨時の全面通行止め(連続雨量60㎜)
なお、迂回路の全面通行止めは、H19年度が5回(2回は22時間/2日の地区孤立)、H20年度が4回(1回は10時間の地区孤立)であった。

(4)迂回路の管理
迂回路延長が長く、信号待ち時間も10分間と長いため、起終点に交通誘導員を張付け(毎日7:00~19:00)、迂回路交通の安全性向上を図った。
また、大雨時に全面通行止めの規制を行うため、現地に雨量計を設置してリアルタイムの自動観測システムを構築し、インターネット経由での遠隔監視や携帯電話への雨量通報を可能とした。
土木事務所の異常気象待機班については、各班に串間市内在住者を1名以上配置した8班体制による365日自宅待機当番制を実施。職員の危機管理意識を高めるとともに、迅速な初動態勢がとれるように体制を強化した。
なお、通行止めを実施する際は、警察・消防・地元区長に電話連絡するとともに、予め登録いただいた住民には、通行止めの開始前・開始時・解除時に、電子メールを一斉送信して情報提供した。

7.恋ヶ浦トンネル
(1)地質
地質は四万十累層群上部層の最上位層にあたる日南層群である。砂岩・頁岩及び両者の互層等からなり、大規模な海底地すべり堆積物(オリストストローム)が成因とされることから、地質構造が複雑かつ破砕範囲が広域で、断層や褶曲構造が多い。成層した整然層と全体がもまれて破砕され乱雑な層理をもつ乱雑層に区分され、施工箇所は乱雑層に位置する。鏡肌も発達し、応力解放されて空気に触れると劣化が著しいという特徴をもつ。
被災箇所から約5㎞北西の同種地質に整備された宇戸トンネル(H15年度竣工)は、一部で内空変位・沈下が200㎜を超えており、恋ヶ浦トンネルにおいても掘削時の変位拡大が懸念された。

(2)設計概要
        

  1. 掘削方式:NATM 機械掘削    
  2. 掘削工法:上半先進ベンチカット工法    
  3. 支保工:DⅠ・坑口DⅢ(全線インバート付き)    
  4. 補助工法:切羽前方の先行緩み抑制と切羽自体の安定性向上を図る長尺式鏡補強工を基本パターンとし、起点側坑口とトンネル中央付近の破砕帯部には天端安定対策の長尺式先受工を併用。

(3)施工状況
工期短縮のため2 工区に分割発注。1期を起点側、2期を終点側として、両坑口から施工した。(1 期:187m 2 期:400m)
■早期断面閉合、吹付けインバート
掘削を進めたところ、懸念していたとおり内空変位や沈下が大きく、支保工の変状(吹付コンクリートのクラック、ロックボルトのプレートや鋼製支保工の変形等)がみられたため、類似地山での施工実績を参考に早期断面閉合工法を採用した。
具体的には、掘削工法をマイクロベンチカット工法に切替え、下半及びインバートの掘削面をできるだけ切羽に近づけ、インバートの一部を吹付けコンクリートで仮閉合しながら掘削を進めつつ、切羽後方の本インバートを速やかに打設して早期断面閉合を行った。
■ストラット
土圧の増加に伴い、吹付けインバートが下半支保工との接続部でせん断破壊を起こし、変位・沈下が収束傾向を示さない事態が発生したため、下半鋼製支保工をインバート部で連結するストラットを施工した。鋼製支保工がリング状になり、吹付けインバートと下半支保工が一体化されたことで、断面閉合効果がより高まったと考える。
■鋼製支保工・ストラットのサイズアップ
トンネル中央部の破砕帯に近づくにつれ、内空変位・沈下が収束せず、支保工の変状がこれまでにも増して顕著になり、吹付けコンクリートの側方からの押出しもみられたため、鋼製支保工及びストラットをH125からH200にサイズアップして、支保工全体の剛性を高めた。
以上のように、地山状態や計測結果等に応じて剛性の高い(重い)支保工に変更し、最大変位量を100㎜程度に抑制することができた。

8.おわりに
トンネル本体の完成に引き続き、照明設備・非常用設備(C等級)を設置するとともに明かり部を完成させ、全面通行止めから約2年10ヶ月の平成21年3月24日、無事に開通式・供用開始を迎えることができた。
安全・安心な道路として生まれ変わった小崎バイパスが、日常生活に不可欠な生活道路・地域を支える幹線道路として、観光・産業・経済の振興に寄与することを期待して止まない。

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