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リゾート開発と景観工学

工 博        
宮崎大学教授 工学部長
藤 本  廣

“リゾート法”正式には「総合保養地域整備法」が制定されて以来,全国津々浦々でリゾート開発が話題に上がっている中で,とりあえず,構想の熟度が高いと判断された宮崎県と三重県の63年度指定がほぼ確実となった。この裏には,かつて観光立県を県政の一つの柱としながら,その後,観光入込客数の低迷に苦悩していた宮崎県にとって,それはまさに起死回生の妙薬として迎えられたであろうことは想像に難くない。その陰には,また,宮崎県観光の開発創始者としての故・岩切章太郎氏の遺業をベースにした自負と焦躁感とが原動力として働いていたであろう,ということも容易に推察されるところである。
岩切章太郎氏が,郷里宮崎の観光開発に当って“岩切イズム”とも称された開発哲学,つまり,郷里の自然・風土に対する限りない愛情と理解に加えて,その優れた感性と色彩感覚とに基づいた開発理念によって“観光地宮崎”の基礎を築いた功績は斯界においては夙に有名である。その理念は,いわゆる“伐り出し・植え足し”による景観創出やストーリー性のある観光施設と周辺景観との総合的な演出効果として,具体的には「日南海岸」や「えびの高原」の観光開発に見られ,更にまた,その理念は,それらの観光地における徹底した看板・広告類の抑制措置として具現化されている。この,いわゆる“岩切イズム”は,現代の宮崎県における一種の文化的遺産として継承に値するものである,と言っても決して過言ではあるまい。
ところでもう一つ,宮崎県の観光立県としての評価に貢献したものに「沿道修景美化条例」がある。これは,宮崎県が1969年(昭和44年)に全国都道府県に先駆けて発案制定したもので,道路の景観工学的観点からもその先見性が高く評価されているものである。
今後,ほぼ全県的にリゾート開発の進展が予想される宮崎県にとって重要なことは,上述の“宮崎方式”とでも称し得る民間と行政との独特な景観創出理念に基づいた観光開発の伝統をいかにしてそのリゾート開発に活かしていくか,ということであろう。それと共に,更に,リゾート地としての魅力には単に身体的レクリエーションの場を伴った自然的・景観的魅力のみでなく高度な都市文化的魅力も不可欠である,との見地に立って中心となる宮崎市の都市的魅力についてこの際改めて見直す必要があろう。
そのためには,日本における中世的伝統文化,換言すれば,いわゆる“城下町”的伝統文化をもたない宮崎の街に,いかにして,そのような伝統文化に匹敵し得る個性的で洗練された都市文化を感じさせる魅力を創出するか,ということに意を注ぐべきであろう。
“都市景観”とは,このような都市的魅力の具象化されたものと,その都市が拠って立つ風土との総合である,と私は常日頃考えている。
(昭和63年4月30日)

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