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ユニットプライス型積算方式の試行について

国土交通省 九州地方整備局 企画部
 技術管理課 課長補佐
山 口 英 彦

1 はじめに
公共工事は,直営時代には,資機材,労務等を調達し,自ら施工を行っていました。その後,役所の職員が自ら施工を行うのではなく,当該工事を施工するために必要な予算を予定価格として積算し,その予定価格に基づき入札を行う「請負方式」に変更されました。
それ以降,公共工事の予定価格は,実際に工事を施工する立場にない発注者が資機材,労務等の調達から施工までのプロセスを想定しながら,必要な費用を積み上げることによって積算することとしています。この積み上げ方式による積算は,施工実態や市場取引価格を反映させるため,膨大な作業を必要とする実態調査を行い,積算に用いる歩掛,単価を決定しています。近年は,積算の体系化,電算化,構成要素ごとの改善等を加えつつ現在に至っており,現在まで請負契約の根拠となる予定価格算出に重要な役割を担っているところです。
一方,昨今,国民の社会資本整備に対するニーズは多様化しており,良質な社会資本を適正な価格で整備する必要性が高まっています。その中で,「公共工事に対するコストが不透明,または高いのではないか」という疑念をもたれていることも事実であり,直接工事費に諸経費(共通仮設費,現場管理費,一般管理費)を加算する現在の積み上げ方式では,施設そのものの価格が見えにくいことは否めません。
また,我が国の財政状況の悪化に伴い,公共事業の予算が厳しく制限されていく中で,限られた予算を有効に充当する必要があり,そのためには,優れた受注者が技術力を駆使し,適正な価格で効率的な施設整備を行う仕組みへ転換する必要があります。
平成17年4月1日から「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が施行され,総合評価落札方式の拡大等,「入札契約方式」の大改革がなされていますが,ユニットプライス型積算方式への移行は,「積算」,「入札契約」,「監督・検査」という公共調達の一連のシステムの中で,「積算」の改革であり,公共事業の全てのプロセスをコストの観点から見直す『コスト構造改革』の取り組みにも位置づけられています。

2 ユニットプライス型積算方式導入の目的
公共調達の改革のうち「積算」について,価格決定プロセス等の説明性を向上させるために,これまでのように発注者が技術・品質・価格等を細かく規定し,受注者がその規定どおりに施工してきた現状から,発注者は技術の評価,監督・検査を重視し,受注者は技術,品質,価格等のノウハウを活用することに重点を置く必要があります。
そのため,材料や労務費などの単価を基に施工プロセスを想定して予定価格を算出する現行の積算方式から,市場の取引実績を基に施工単価を設定するユニットプライス型積算方式への移行を行う必要があります。

3 ユニットプライス型積算方式の概要
現行積算方式では,資材費,労務費及び機械損料を最小の単価単位とし,その単価を用いて工種毎の施工単価を算出するのに対し,ユニットプライス型積算方式では,発注者と元請けの市場の取引実績を基に,工種毎の施工単位を単価単位として,直接施工単価を算出する方式です。
ユニットプライス型積算方式導入の効果としては,次の5項目が期待できます。

① 価格の透明性,説明性の向上
発注者と受注者(元請企業)の取引価格をベースに,発注者が直接施工単価(ユニットプライス)を調査します。
② 民間活力(創意工夫)の導入促進
想定した施工のプロセスを示さないため,受注者の技術力の活用や新工法の採用といった創意工夫の意欲が向上すると想定されます。
③ 契約上の協議が円滑化
「総価契約単価合意」を行うため,施工量が増減した場合に,自ずと契約変更額が決定されるなど,契約変更手続きが円滑化すると想定されます。また,あらかじめ定められているユニットの条件を明示しているため,条件が変わった場合に変更協議が円滑化されると想定されます。
④ 工事目的物と価格の明確化
工事毎に直接工事費と間接工事費が一緒になっているため,工事目的物と価格との関係が明確になります。
⑤ 積算の効率化
積み上げ積算方式では,工事目的物を構成する各作業毎に単価表を作成し,積み上げることにより予定価格を算出しています。単価表を構成する歩掛,機械損料,資材単価,労務単価は,それぞれ膨大な調査を行って,標準的な値として平均値や最頻値を求めているものです。(例えば,通常の舗装工事では,1件の工事で150個程度の単価表を積み上げる必要があります。)
発注者としては,通常の積算に係る労力のみならず,これらの諸調査に要している多大な労力を効率化することができます。
受注者としても,時間を要している精緻な積算を効率化することができます。
この時,施工単価の実績を得るために,従来の「総価契約方式」ではなく,総価契約を行った後に単価合意を行う「総価契約単価合意方式」を採用し,発注者と受注者が合意した単価を以降の工事に活用することになります。

4 ユニットプライス型積算方式の試行について
ユニットプライス型積算方式については,効果の観点から,国土交通省で発注件数が多い道路改良,築埴・護岸,舗装の上位3工種(全体の約半数)を当面の対象としています。
このうち,先行して準備が整った舗装について,平成16年度より試行を開始しました。試行件数は,九州地方整備局において,平成16年度2件(全国8件),平成17年度4件(全国41件),平成18年度より新設舗装については,全工事を試行対象としています。また,平成18年度より新たに道路改良(1件),築堤・護岸(1件)の試行を開始したところです。
平成17年12月末を一つの区切りとして,試行工事について,全国的に発注者および受注者にアンケートが行われました。
平成17年12月末時点における試行状況は,37件の契約が完了していました。そのうち35件で単価合意の手続きが完了し,さらに,そのうち10件の工事が竣工していたため,単価合意を行うまでのプロセスのフォローアップ調査(35件対象)と単価合意から設計変更までのプロセスのフォローアップ調査(10件対象)に分けて,本省において,以下のとおり,アンケート結果がとりまとめられています。
(1)フォローアップ結果概要
① 積算作業について
発注者が予定価格の設定のために行う積算作業については,ユニットプライスによる単価設定がなされている場合,1次単価表の作成が不要で,入力条件数も減少し,照査する項目も減少することから,ユニットプライス型積算方式に慣れた後には,積算の効率化が図られていることが分かりました。
② 受注者の入札価格の決定[当初積算(見積もり)]について
当該工事の概略の把握について,約60%が把握しやすくなった,あるいは変わらないとの意見でした。
入札時に工事費内訳書の提出もあるため,ユニットプライス型積算基準を参考にユニット区分に合わせて見積もり(元積もり)を実施するようになってきており,ユニットプライス型積算方式が浸透してきています。一方,諸経費部分の取り扱いが変わり,不慣れなために,見積もり(元積もり)に手間がかかるとの意見もありました。
③ 当初の単価協議・合意について
単価協議・合意の負担については,約50%が負担に感じていたが,全業者の80%において,単価協議・合意については大きな問題はないと考えており,単価合意に対しても満足しているとの意見が多く,今後,本制度に習熟すれば問題はないと考えられる結果でした。
④ 設計変更について
施工量が増減した場合は,合意単価を用いて契約変更額が決定されるため,積算(見積もり)や変更協議がスムーズになったとの意見が多数でした。
⑤ 民間活力(創意工夫)の導入促進について
企業努力(施工の合理化,新技術・新工法の導入等)の意欲は,現行に比べ,やや増すと思われるとの意見がありました。
以上の調査結果から,ユニットプライス型積算方式の試行については,特段の問題は発生しておらず,制度的な課題も抽出されるには至りませんでした。
(2)分析結果概要
平成16年度試行工事のうち,条件を満足する7工事について,官積算との比較等を実施した結果,次のような状況が類推されています。
① 官積算と合意単価の比較について
官積算に対して合意単価の合計である落札金額は97.4%であり,積算方式の変更に伴う落札率への影響は見られませんでした。
② 単価合意が官積算単価と20%乖離した工種の理由について
請負者により,得意・不得意(安くできる,又は高くなる)工種があり,官積算に対して合意単価が20%以上乖離した主な理由としては,「施工方法を工夫する」,「安い材料を使用する」,「下請業者に特別な理由があった」等でした。
③ 各ユニットの合意単価と発注者のユニットプライスとの乖離について
合意単価の分布は,発注者が積算に用いた前後5%に集中した結果となっていました。また,一般的に下請に出される専門分野のユニットについては,請負者が自ら施工するユニットよりも単価の差額が大きい(安いもの,高いもの両方に)結果となっており,このことは,今後も注意深く監視する必要があると考えています。

5 今後の進め方について
平成16年度からユニットプライス型積算方式の試行を始めた舗装工事は,現在では全ての工事を対象に試行を実施しています。
平成18年度からは,道路改良工事,築堤・護岸工事においても試行に着手したところです。当面,舗装工事の全面試行と,道路改良工事,築堤・護岸工事の試行拡大を図りながら,これら3工種の試行を通じて課題・問題点の抽出に努めていく予定です。
その他の工種については,これらの試行状況を踏まえながら,慎重にユニットプライス型積算方式への移行を検討していく予定です。
尚,試行による確認事項としては
 ① 条件明示内容及び方法の検証
 ② 補正方法の検証
 ③ プライスの更新手法の確認
 ④ 妥当性検証方法の確認
 ⑤ 単価合意及び契約変更方法の確認
 ⑥ 積算手順の確認
等としており,机上検討では想定できないケースや問題が発生する場合も考えられるため,これらの確認を行いながら,抽出された課題・問題点を修正しながらユニットプライス型積算方式をより良い方式となるように進めていく方針です。

6 おわりに
ユニットプライス型積算方式の試行を始める以前は,ユニットプライスが低下,又は高騰するような懸念がなされていました。従って,今後も,現場において技術的な観点から調査を実施し,ユニットプライスの妥当性を監視することが必要となります。
さらに,社会環境の変化や施工形態の著しい変動の中で,積算の基礎となるユニットは,様々な変動に対応した適正なものでなければならず,現場の施工形態の動向が顕著に表れる新工法・新機種の採用状況や,機械・労務・材料の構成等について,継続的にモニタリングし,常時,ユニット設定の整合性あるいは妥当性を検証すると共に,現場の施工形態の動向を適切にユニット設定へ反映していく予定です。
また,現在試行しているユニットプライス型積算方式は,積算の計算方法を変える取り組みであり,「性能規定」を念頭に置くものではないため,監督・検査の方法までを変えるものではありません。
今後も,ユニットプライス型積算方式の試行を通じて,発注者のみならず,公共事業に携わる関係者の方々のご意見を頂きながら,より良い制度に移行できるように,良質で適正な価格により,国民に信頼される公共事業が推進されることを期待しているところです。

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