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ポアソン分布

鹿児島県土木部長
奥 田  朗

「助けてくれ,水をくれ…」戦争映画の中で,断末魔の兵士が吐くせりふではない。先月,小生が風邪をひき,夜中に目をさましたときの独りごとというか,叫び声である。大げさすぎる。大人げない。男らしくない。一人身の気易さ,最近人目をはばからないから,家の中で好きなことを好きなだけ大声でわめくようになった。確かに人がきくと精神異常者としか思えないようなこともときどき,口走るようにもなったようだ。単身2年近くなった。同先輩の連中の中では,短い方であろう。
単身で誰でも恐れるのは病気である。昔からからだは強い方ではないから神経質なほど注意はしているつもりだ。それなのに,これまで風邪など余りひかなかったのだが,昨年暖かい鹿児島に来てからだけで,きつい風邪を2回,軽いのを1,2回ひいてしまった。
風邪というのはおもしろい。僕の場合はひきはじめると殆どの場合,フルコース,つまりのどが腫れ,熱が出て,鼻がつまり,咳が出て,ときには手足の関節が,ときには全身の筋肉が痛み,食欲が落ち,もう死んでしまうのではないかと思うほど元気がなくなるという一過程が,ひとわたりすまないと,どうしても治ってくれない。かと思うと,治り始めるとその逆で,多少ムリをしていてもどうしていても治ってしまう。
「助けてくれ…」とわめいても,心の中では,いずれはケロッと治るわいと夕カをくくっているから,半分ヤケくそのような,芝居をしているような気分でもある。しかし,苦しい。「水をくれ」といっても,誰もいないから腹が立つ。「ちくしょう,死んでやる」なんて心にもないことを言って涙を流してやがる。
何だかんだといっても,結局はいやが応でも治ることがわかっているから安心して運命の女神に甘えている。
時間の経過速度をビデオのようにお好みしだいに,調節できればよいが,風邪をひきはじめて治るまでの一定の期間は,僕の力では殆どどうもこうも制御できないからくやしい。
大学時代,新しく開設された「土木計画学」の時間でS先生が,当時頻発していた航空機事故について,「事故の起こり方というのは,統計的にはポアソン分布に従うんだ」といわれたことを思い出す。マージャンのつき,パチンコの出方なども同じことだということも聞いたような気もする。
ポアソン分布なんてことばをよく憶えていたと思うが,その内容となるともうすっかり忘れてしまっている。
この講義の最中はずっと不快だった。人間の営みが冷たい統計的分布によって説明されるということが,講義そのものが理解できない不快感と相侯って,無暗に「いやだ,不条理だ」と思った記憶がある。孫悟空が観音菩薩の手のひらの中を抜け出せないことを知ったとき,孫悟空は不快だと思ったに違いないのに,何故その後おとなしくなってしまったのだろう。不快だとはいえ,これが世の理なのだと悟ったのか……。否,心の中では,こんちくしょう,今にスキがあったら,手のひらの外に出てやるぞと,その後ずっとスキをねらっておとなしくしていたに違いない,などと馬鹿なことも考えてしまう。
しかし,こんなことを考えているようでは,風邪は治っても孫空悟の頭にかかっていたという緊箍児(きんこじ)という金の輪がぐいぐいしまって,一向に頭痛だけは治らないのであろう。それにしても,早く風邪をひいてもジタバタせずに時のたつのを待つことがでるようになりたいものである。

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