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ダム湖クリーンエネルギーの新たな活用技術
(水力コンプレッサー開発による)

沖縄総合事務局 北部ダム事務所
 所長
川 崎 秀 明

沖縄総合事務局 北部ダム事務所
 機械課長
喜 納 敏 男

1 はじめに
今,我が国では,CO2の排出削減による地球温暖化防止への貢献と公共事業費のコスト縮減が,社会の要請として緊急に取り組まなければならない課題である。そこで,北部ダム事務所ではインハウスエンジニアによる空気利用プロジェクトチームを組織し,ダム湖のクリーンエネルギーの新たな活用策を創意工夫し,CO2の排出削減とダム周辺管理施設の建設・管理コストの縮減を目的に空気利用の技術開発に取り組んでいる。
今回,開発プロジェクトの第1号として,日本初のダム放流水を活用した圧縮空気の製造「水力コンプレッサー」・利用「空気圧式噴水装置」技術の実用化に成功した。
本稿では,北部ダム統合管理事務所の協力を得て福地ダムに設置した空気利用システムの実証設備について報告するものである。

2 技術開発の経緯
(1)社会的背景
① 限りある化石燃料エネルギーから各種エネルギーヘの分散多様化。② 地球温暖化防止対策としてのCO2排出削減を図るため化石燃料からクリーンエネルギーヘの転換と省エネ化。③ 公共工事費のコスト縮減。
(2)ダム管理から見た場合
① ダム放流水の放流エネルギーは,一般的には水力発電として活用されている。しかし,経済投資妥当性がない小水力放流水エネルギーは,有効活用されることなく放流される。② 近年,ダム管理においては,貯水池の水質悪化による水質浄化対策として圧縮空気を用いた曝気装置が多くの既設ダムや新規ダムに設置されることから,圧縮空気の大量消費ニーズがある。③ 圧縮空気を利用した既存の技術がダム管理用設備に,多額の開発費用をかけることなく応用できる。
上記より,ダムにおいては,ダム湖の未利用クリーンエネルギーの有効利用策の模索と圧縮空気の大量消贅のニーズがあることに着目し,CO2の排出削減による地球温暖化防止への貢献と公共工事費のコストと縮減並びダム湖の水質浄化等を目的に,ダム放流水エネルギーの新たな活用策としてダム周辺管理施設への空気利用(圧縮空気の製造・貯蔵・利用)システムの技術開発に着手した。なお,検討の結果,実用化に向けて福地ダムにおいて河川維持用放流水(未利用放流エネルギー)を活用した実証設備を設置して各種試験を実施することにした。

3 福地ダム空気利用システムの概要
(1)基本方針
新システムの開発にあたっては,下記の項目を基本に検討した。
① 福地ダムの河川維持用放流水エネルギー(0.15m3/s×45m)を活用する。② 水車で直接コンプレッサーを駆動して放流水エネルギーを回収する。③ 放流水エネルギーによる圧縮空気製造の有効性を示す為,デモンストレーション装置として,経済的で演出効果の高い空気圧式噴水を新たに開発し噴水を打ち上げる。④ 製作贅・維持管理費を可能な限り安くする為,システムはシンプルにする。⑤ 開発に時間と費用を特にかけない為,市場に流通している機器をシステム化する。

(2)システムの構成
システムは,圧縮空気の製造部(水力コンプレッサーユニット)と利用部(空気圧式噴水装置)および,その間を結ぶ圧縮空気の送気管で構成されている。

(3)水力コンプレッサーユニット(圧縮空気製造装置)
①設計条件
 a 放流水量:9m3/3min(0.15m3/s)
 b 貯水池水位  設計洪水位:EL87.300m
         サーチャージ水位:EL86.500m
         常時満水位:EL83.500m
         最低水位:EL44.600m
         運転可能最低水位:EL72.000m
               (No.1取水口標高)
 c 放流口 放流口標高:EL15.600m
 d 概略損失水頭 hf=10m
 e 概略有効落差 He=45m
② 水車の選定
上記設計条件に基づき水車の選定を行う。
 a 水車形式の選定
(図ー3)水車形式選定図より,上記条件から回収動力は比較的小水力であることから,高効率の水車を新規設計しても回収動力の大幅な改善は見込めない。また,製作費・維持管理費を可能な限り低くする為,「ポンプ逆転水車」を採用した。
  概略有効落差:He=45m
  放流量:9m3/min(0.15m3/s)

(図ー4)動力回収用水車選定図に示すとおり,有効落差He=45m最も近い水車の流入可能水量はQ=8.5m3/minである。
(a) 水車形式:150IFW-2515Y形片 吸込渦巻ポンプ
(b) 水量:8.5m3/min
(c) 有効落差:45m
(d) 回転数:1,800rpm
(e) 回収動力:45kw
  (動力kw=0.163×水量×有効落差×水車効率)
   (45kw≒0.163×8.5m3/min×45m×0.74)

③ 増速機の選定
ポンプ逆転水車及びコンプレッサーの回転数および回転方向を調整する装置として動力伝達装置が必要である。装置には歯車とベルトの2方式が考えられるが,今回使用するポンプ逆転水車の軸受部はベルトの張力に耐えられない構造のため,歯車増速機方式を採用した。
水車の回転数1,800rpmに対して,コンプレッサーの入力軸回転数は概ね3,000~3,600rpmであることから増速機を設置する。メーカー標準品を選定した。
a 形式:3軸平行歯車増速機
b 定格入力:45kw×1,800rpm
c 増速比:1.50(コンプレッサー入り口回転数:2,700rpm)
d 澗滑湘ポンプ:機付ギャポンプ
e 冷却方式:水冷却方式(油冷却器)
④ コンプレッサーの選定
形式選定は,今後の圧縮空気の幅広い利用を考慮して圧縮空気圧力が7kgf/cm2となるスクリュ式コンプレッサーを選定した。また利用可能な動力は約45kw,入力軸回転数2,700rpmのメーカー標準品を選定した。
a 形  式:オイルフリースクリュ回転型1段圧縮機
b コンプレッサー:回転容積型
c 容量調整:吸気閉塞,吐出解放式,自動アンローダ
d 空気量 :4.2Nm3/min
e 吸込条件:大気圧40℃
f 吐出条件:0.69MPa(7kg/cm2G),冷却水温+13℃
g 回転数 :2,700rpm
h 軸動力 :全負荷 約45kw
i 冷却方式:水冷(ジャケット)方式
j 澗滑方式:機付潤滑油ポンプ
⑤ 水力コンプレッサーユニット
水車,増速機,コンプレッサー,保護機器を「ユニット」化した。本パッケージに配管,配線を接続することにより現場作業を簡略化できるとともに工程の短縮ができた。(写真一2参照)

(4) 噴水装置(圧縮空気利用装置)
水力コンプレッサーの運転・性能の確認と空気利用システムのデモンストレーションとして噴水装置を設置して噴水を上げる。
① 系統概要(図ー2参照)
噴水の動力源は,水力コンプレッサーで生産した圧縮空気をマニホールドタンクを経由して,湖水面に浮かせた中央噴水タンク(直噴水)エゼクタ(キャンドル噴水)の噴水ノズルから交互に噴出する方式とした。
② 圧力タンク
a マニホールドタンク:φ1,000×H2,000×7kgf/cm2(噴水タンクおよびエジェクタへの圧縮空気,送気の調圧用。)
b 中央噴水タンク:φ2,000×H2,000×7kgf/cm2
③ 噴水形状
a 中央噴水タンク用
  打ち上げノズル:直上型(約40m直噴)
  マルチノズル :直上型(約20m直噴)
         :拡散型(約10m拡散)
b エゼクタ用
  キャンドルノズル:キャンドル型(約2m)
④ 噴水打ち上げ方法
a 中央噴水タンク:噴水タンク内に水を充水させ,その中に圧縮空気を注入することにより空気圧で水を打ち上げる。噴水タンク内の充水は噴水タンクの自重により噴水タンク横に取り付けた逆止弁より行う。
空気エジクタ:空気エジクタはエアリフトポンプの原理を応用し,エジクタ配管下部より(水面より約4m下)圧縮空気を水面に向けて送気する事により噴水を打ち上げる。

4 試験運転結果
(1)圧縮空気製造能力
製造圧力,製造量とも設計値を満足する試験結果が出た。(図ー5 水力コンプレッサー特性曲線参照)

(2)ポンプ逆転水車とコンプレッサーの組合せ
通常,コンプレッサーは電動機により一定回転で運転するが,ポンプ逆転水車は回転数が不規則となる為,組合せ相性が懸念されたが相性はよくポンプ回転数の変動に対してコンプレッサーは支障なく順調に運転している。(写真ー2 水力コンプレッサー参照)

5 空気利用システムの技術開発の効果
(1)発想転換による小水力放流エネルギーの有効活用(電気⇒空気)
従来,ダム管理設備の動力源は管理費を軽減するため,ダムからの放流水を活用して管理用発電を行って電力を供給している。しかし,採算性のない小水力の放流水エネルギーは活用することなく放流され,商用電力を買電しているため動力費がダム管理費を圧迫していることが多い。そこで,水質浄化を目的とした曝気に多くのエネルギーが消費されることに着目して『電気⇒空気』への発想の転換を計ったところ機器の省略となり,従来の採算性のない小水力放流水エネルギーでも経済性をクリアして有効活用することができる。
(2)自然エネルギー活用による地球温暖化防止と経済効果
ダム湖の自然エネルギーである放流水を動力にクリーンで無尽蔵資源である空気を材料にして圧縮し,その圧縮空気そのもの(酸素供給)または圧縮空気から得られるエネルギーを動力として活用する為,二酸化炭素(CO2)を排出しないので地球温暖化防止に役立ちます。また,電気代,燃料代等の運転動力費が全くかからないので管理費のコスト縮減にもなる。
(3)機器の省略化・簡素化による経済性
電気機器の省略とポンプ逆転水車・増速機・コンプレッサーをユニット化した為,機器の簡素化が可能となり建設費のコスト縮減になる。

(4)圧縮空気が果たす噴水演出効果
【従来の噴水演出】
電気制御の電動バルブの開閉によって直噴⇒霧状等の切替演出する。
【新技術の噴水演出】
中央噴水タンクには電動バルブが装備されてないため電気制御が出来ない。噴水の噴き出し演出は,送気圧縮空気とタンク内の残留水の変動で自動的に直噴⇒霧状⇒霧笛等の音響効果を伴った画期的な噴水ショーを演出する。

6 空気利用技術の適用可能なダム周辺管理設備
(1)管理所用冷房装置
空気を冷媒とした環境調和型冷却システム「AIRS」。鹿島建設㈱が開発し特許保有。
(2)水質浄化装置
<深層曝気:深層部への圧縮空気注入によるDO改善>。
<浅層曝気:浅層部での圧縮空気エネルギーによる水の攪拌で水質改善>。
(3)ポンプ,噴水,魚道等
:圧縮空気による間欠式の揚排水ポンプ。

上記,空気利用ダム周辺管理施設の実用化に向けて,水力コンプレッサーによって製造した圧縮空気を利用して実験を実施し応用技術の開発を行う。

7 今後の課題
今回採用した,ポンプ逆転水車はコスト上最も適していると判断したが,福地ダム空気利用システムの実証運転結果を基により効率的な手法の検討および空気利用システム(製造,貯蔵,利用)の確立を図る必要がある。また,圧縮空気が製造される際に発生する熱量の回収方法および利用方法についても検討を行う必要がある。

8 おわりに
今回新たに開発した,ダム湖のクリーンエネルギーを活用した圧縮空気の製造(水力コンプレッサー)と利用(空気圧式噴水装置)技術は,福地ダムにおいて良好な運転結果が得られたことで,既設ダム,および今後計画される,小水力のダム放流水活用に有効な手段であることが実証された。
現在,空気利用システムの計画を推進中である羽地ダムにおいては,本試験結果を生かして,より効率の良い設備の設計,開発を進めていきたい。なお,「水力コンプレッサー」については,北部ダム事務所と㈱荏原製作所の共同出願による特許出願中である。

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