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コスト縮減に取り組むダムづくり(藤波ダム)

福岡県土木部 河川開発課
 主任技師
田 中 快 彰

福岡県土木部 河川開発課
 主任技師
山 下 晋一朗

1 藤波ダムの概要
藤波ダムは、一級河川筑後川水系巨瀬川の福岡県うきは市浮羽町藤波地先に建設する、洪水調節、既得用水の安定化、河川環境の保全等を目的とした治水ダムで、堤高52m、堤体積1,056千m3の中央コア型ロックフィルダムである。(図-1、図-2、図-3)
ダム堤体は、巨瀬川と支川持木川との合流点直下に位置し、原石山は、ダムサイト上流約500mの持木川右岸に位置する。(図-4)
本体工事は、平成16年3月に掘削工事に着手し、堤体の盛立は、平成17年7月から開始し、平成19年9月現在でEL.108.3mまで盛り立てが完了しており、平成20年度に盛立完成を予定している。(写真-1)

図-1 ダム位置図

図-2 ダム諸元

図-3 ダム横断図(当初設計)

図-4 事業計画図

写真-1 施工状況(堤体左岸上より望む)

2 コスト縮減検討の概要
堤体の盛立に先立ち、原石山の掘削作業に着手したところ、当初想定していた材料よりも低品質の材料が多く分布していることが明らかになった。
そこで、今回、原石山から採取される当初設計より低品質の材料を有効活用するため、堤体におけるロック材の品質区分によるゾーニングの検討を行い、コストの縮減を図った。その検討フローを図-5に示す。

図-5 検討フロー

3 堤体材料の当初設計
ロック材料は所要のせん断強さと排水性を有する必要があり、一般に堅硬かつ耐久的であるものが望ましいことから、藤波ダムにおけるロック材は、灰~暗黒色を呈し、概ね堅硬である、火山岩類の輝石安山岩(Ap2)を使用する計画とした。
輝石安山岩の材料試験の結果、CL級岩盤は耐久性に劣ることが判明したことから、ロック材料は耐久性に優れたCH~CM級を対象とし(図-6)、設計値を、内部摩擦角φ=40°、湿潤重量2.02t/m3、飽和重量2.16t/m3、水中重量1.16t/m3と設定した。
堤体の安定計算はロックゾーンを均一として行い、その結果、堤体の法面勾配は、上流面1 : 2.9、下流面は1 : 2.1とした。(図-3参照)

4 ロック材に関する課題
原石山の掘削をEL.230mまで実施したところ、当初想定していなかった高角度節理が発達し、それに沿ってCL級岩盤が広く分布していた。CM級岩盤についても、断層や割れ目沿いの酸化による軟質化が進んでおり、材質的にやや劣る材料が含まれることが明らかになった。(図-6、図-7、写真-2)

図-6 原石山断面図(調査設計時)

図-7 原石山掘削面の岩盤状況(EL.240m)

写真-2 CM級岩盤の状況

ロック材はCH~CM級を使用する計画としており、この当初計画より品質の劣るCM級材料を廃棄した場合、堤体に必要なロック材が不足することが懸念された。
これに対する対応策として下記の3案が考えられたが、事業費、工期、検討期間および環境への影響の面で最も有利だと考えられる①案を検討することとした。
① 低品質材料の有効利用
② 原石山位置の再検討
③ 原石山の追加掘削

5 堤体材料特性の把握
原石山から採取した材料の物理特性を把握するため室内材料試験、現場盛立試験を実施した。
5-1 室内材料試験
試験結果はそれぞれ以下の図に示すとおりである。
・図-8:吸水率と内部摩擦角の関係
・図-9:吸水率と安定性損失重量の関係(ボーリングコア試料)
図-8より、吸水率Q=5%以下の材料であれば、ロック材の当初設計値である内部摩擦角φ=40°が得られることが分かった。また、図-9より、吸水率Q=5%以下であれば、安定性損失重量12%以下で耐久性が得られる。

図-8 吸水率と内部摩擦角の関係

図-9 吸水率と安定性損失量の関係

以上の室内試験の結果から、低品質材料を堤体ゾーニングにより内部ロック材に利用することを想定して、吸水率を基準に、当初ロック材相当品質(内部摩擦角φ=40°)の材料(吸水率5%以下)とそれより低品質の材料(吸水率5~9%)に分類した。
5-2 現場盛立試験
室内材料試験で分類した材料(吸水率5%以下の材料と5~9%材料)について、所要の材料特性(密度・透水性)が得られるか把握するために盛立試験を実施した。盛立試験の転圧仕様は、転圧機種10t振動ローラ、仕上厚100cm、転圧回数4,6,8回とした。
図-10に現場盛立試験の転圧回数と湿潤密度の関係を示す。吸水率Q=5~9%の材料はバラツキが大きいものの、当初計画の転圧回数6回で湿潤密度は設計値1.96t/m3以上が得られた。吸水率がQ=5%以下の材料も、転圧回数6回で湿潤密度は設計値2.02t/m3以上が得られた。
図-11の透水試験の結果では、吸水率Q=5~9%の材料、Q=3~5%の材料共に、透水係数は管理値1.0×10-3cm/s以上が得られた。

図-10 転圧回数と湿潤密度の関係

図-11 転圧回数と現場透水係数の関係

6 材料の有効利用の検討
6-1 堤体ゾーニング検討
現地で新たに発生した低品質材料の特性が把握できたため、これらの低品質材料の有効活用の可能性を検討するため、現計画のロックゾーンを外部ロック材と内部ロック材とに区分するゾーニングを試みた。なお、外部ロック材と内部ロック材の材料区分は、室内材料試験、現場盛立試験結果から、外部ロック材を吸水率5%以下の材料、内部ロック材を5~9%の材料とした。ロック材の設計値は以下のとおり設定した。(表-1、写真-3)

表-1 ロック材設計値

写真-3 外部ロック材(左)、内部ロック材(右)

図-12 ダム横断図(外部ロック材を最小にした場合)
・外部ロック材 372,300m3
・内部ロック材 487,000m3

検討にあたっては、次に示す3点を考慮して安定計算を行った。
① 事業の進捗状況を考慮してダム堤体法面勾配は変えないものとする。
② 外部ロック材の数量が最小限となるゾーニングとする。
③ 上流仮締切についても内部ロック材の配置検討を行う。
検討の結果 、上流側の外部ロック材の必要厚さは7.0m、下流側の外部ロック材の必要厚さは5.0mとなった。(図-12)必要ロック材料数量は、外部ロック材(吸水率5%以下)が約37万m3、内部ロック材(吸水率5~9%)が約49万m3となった。
6-2 原石山材料賦存量の検討
堤体のゾーニングの検討と同時に、原石山について、次の点について見直しを行った。
① ボーリング調査による賦存量の見直し
② 材料区分基準の見直し
③ 原石山掘削形状の見直し
原石山の材料区分は、当初、岩級区分で区分していたが、吸水率区分で強度、耐久性、排水性の評価ができたことから、吸水率で区分した。掘削勾配は、材料をより多く確保するため、当初計画の1 : 1.0から1 : 0.8に変更した。
検討の結果、外部ロック材は580,000m3、内部ロック材は約448,000m3得られることが分かった。
6-3 堤体断面の決定
堤体ゾーニング並びに原石山賦存量の検討の結果、外部ロック材の最低必要量と比べると外部ロック材の賦存量に約21万m3程度の余裕があると判明したため、再度、上流側の内部ロック材を極力減らし、外部ロック材を厚くするように計画を見直した。検討にあたっては、盛立工程に伴う必要材料と原石山掘削による発生材料の関係を考慮し、極力仮置き材が発生しない形状とした。また、貯水池内の水位変動を考慮して上流側の内部ロック材は最低水位以下になるように配置した。
検討の結果、堤体ゾーニングは図-13に示すとおりとなり、外部ロック材を最小にした場合の設計と比べると、上流側の外部ロックの厚さが7.0mから19.0mに、必要な外部ロック材が約37万m3から約51万m3に変更となった。(表-2)

図-13 ダム横断図(最終形)
・外部ロック材 517,100m3
・内部ロック材 342,200m3

表-2 ロック材料数量

6-4 コスト縮減
今回の検討において、原石山から採取される低品質の材料を内部ロック材に有効利用することができ、コスト縮減を図ることができた。コスト縮減額は、下記条件で算出した結果、約1.6億円(直接工事費)となった。
(コスト縮減額算出条件)
・経済比較案は、以下の2案とした。
○堤体ゾーニング案
○内部ロック材料を廃棄し、その替わりに外部ロック材料を追加掘削する案
・コスト縮減額は、内部ロック材料の土捨場の敷均し費と追加の外部ロック材料の掘削積込・運搬費の合計額とした。

6 まとめ
掘削し始めた原石山において、調査設計時と比べると、低品質材料が多く分布することが判明し、ロック材の不足が懸念された。
そこで、低品質材料を有効利用するため、堤体ロック部のゾーニングを行い、低品質材料を内部ロックに有効利用することとした。堤体の最終形状の決定にあたっては、原石山から採取される材料の賦存量および材料の仮置きを最小限に抑える設計とした。
検討の結果、廃棄岩発生を低減し事業費の増大を回避することができ、直接工事費で約1.6億円のコスト縮減を図ることができた。また、原石山の追加掘削を抑え、地形改変に伴う環境への影響も軽減することもできた。

7 おわりに
福岡県では、県民生活や社会経済活動に多大な影響を与える渇水や洪水に対応するため、ダム建設を重要な事業と位置づけ取り組んでいる。これまでに14ダムを完成させており、現在、藤波ダムと五ヶ山ダム、伊良原ダムの3ダムを建設中である。
これらのダム事業では、構造物としての所要の品質の確保はもちろん、コストや環境への配慮などの様々な課題に対して、バランスのとれた事業の実施が求められている。引き続き様々な技術的検討を重ねながら、水に不安のない安全安心な県土作りのため、事業に取り組んでいきたいと考えている。

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