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主要地方道大田杵築線 
ケーブルクレーン工法によるニールセンローゼ桁橋の架設について
稲積聡

キーワード:下路式ニールセンローゼ桁、ケーブルクレーン架設、斜吊工法

1.はじめに
主要地方道大田杵築線は、杵築市大田の主要地方道山香国見線を起点とし、途中、大分空港道路杵築IC に接続して、杵築市杵築の国道213 号に至る幹線道路であり、大分北部中核工業団地と杵築市内企業間の物流円滑化を支援するなど、産業の活性化や地域間交流の促進に寄与し、災害時には緊急輸道路となる重要な路線である。
杵築市中部に位置する2 期工区の現道は、急峻な地形から線形不良で幅員狭小区間が連続しており、大型車両等の通行に支障となっている。
このため、安全で円滑な交通確保と地域の活性化を図ることを目的として、平成5 年度から道路改良事業に着手し、平成11 年8 月には1 期工区6.9㎞が開通している。
現在は、平成10 年度から着手した2 期工区2.5㎞にて、平成30 年度の開通を目指して事業を推進している(図- 1・写真- 1)。本橋梁は、農業用水を貯水する石山ダムを跨ぐため、長支間に対応可能なニールセンローゼ桁橋を採用している。

2.工事概要
工事名: 平成25 年度交付地改別第1 号 道路改良工事
発注者: 大分県
施工者: 三井・川田特定建設工事共同企業体
施工場所: 大分県杵築市溝井
工 期 : 平成25 年12 月12 日~平成29 年 3 月15 日
工事内容: 鋼単純ニールセンローゼ桁橋
        延長172.5m 幅員6.0(9.5)m
        鋼橋上部工1266.9t
        道路縦断勾配6%
架設工法: ケーブルクレーン斜吊り工法
架設鉄塔: P1 側 H=77m A2 側 H=61m

3.架設工法について
3.1 橋梁構造
ニールセンローゼ桁橋のうち、今回はアーチリブがバスケットハンドル形の形式を採用している。本橋梁は、上弦材のアーチ部材が頂点に向かうにつれて左右のアーチ桁同士の間隔が狭くなる形状で、補剛桁の閉合完了までは不安定な構造となっており、全国でも事例が少ない形式である(図- 2・3・4)

3.2 架設手順
ケーブルクレーン斜吊り工法とは、鉄塔、ケーブルクレーン設備、吊り下げ設備により構成され、アーチリブ架設時に桁ブロック連結後、鉄塔頂上部から斜めに張った斜吊り索で橋体ブロックを吊り下げながら架設する工法である(写真- 2)。アーチリブ架設後は斜吊り索を撤去し、橋梁本体の斜材ケーブルをアーチリブに取付け、補剛桁架設時に斜材ケーブルと連結しながら架設を行っていく手順である。
まず、アーチリブ架設のため、200t 吊りオールテレーンクレーンを使用し、鉄塔を設置しケーブルクレーンの組立、およびアーチ部架設用のベントの組立てを行った。

P1 側の鉄塔設置にあたっては、架設周辺が急峻な地形状況で架設ヤードが確保できないため、現県道を昼間に全面通行止めをして行う必要があり、地元住民の方に協力をいただいた。
アーチ部の架設は、アーチリブを全17 ブロックに分けて起点側隅角部より行い、閉合ブロックを除く8 ブロックを架設、その後、終点側隅角部より8 ブロックの架設を行う(図- 5・6)。A2 橋台と上部工の間にコンパクトロックジャッキをセットして閉合ブロックの架設を行い、連結時はジャッキ操作により橋軸方向に調整しながら閉合を行う。

斜ケーブルをアーチ部にセット後、引き続き補剛桁を17 ブロックに分けて起点側から交互に架設を行う。補剛桁についてはP1 側から架設を初め、次にA2 側の架設へと移行し、互い違いに架設を進めながら、最後に閉合ブロックの架設を行い、閉合時にはジャッキで微調整をしながら閉合を行う(写真- 3)。
桁をクレ-ンで架設する前にはA2 橋台前面に設置した作業構台(写真- 4)で足場の設置、縦断勾配、桁の傾き等の調整を行い、吊り天秤にて左右の桁ブロックの送り出しを行う。

3.3 架設時の安全対策
架設においては、作業構台から桁ブロックを吊り出す際、箱桁が桁内側に79 度傾いた構造になっており、吊り下げ重心位置が毎回変化し、吊り揚げ時には、桁が不安定となるため作業員が挟まれないように作業完了時の合図を送りあい安全確保に注意した。
また、ブロック連結時には、高所作業のうえ、吊り下げた桁が風の影響を受け事故が発生する恐れがある。事故防止のため、午前、午後の作業開始前に作業手順の確認や危険予知活動を行い安全確保に努めた。

3.4 斜材ケーブルの張力管理
本橋梁構造には上弦材と補剛桁を斜材ケーブルで吊る構造があり、その張力測定方法は、ケーブルの固有振動数から理論算定式により導入張力を算定する振動法を採用した。振動法は現在用いられている測定方法の中で最も経済的かつ工程的に優れた測定方法である。
振動法を用いる際、理論算定式から求めた張力と実際の導入張力には差異が生じることがあるためキャリブレーションを行い補正係数の確定を行い、架設後の張力調整に使用した。
張力調整は架設完了時(第1 回目)、床版・地覆施工完了時(第2 回目)、高欄設置完了時(第3 回目)の合計3 回調整を行った。第1 回目の張力調整では、床版打設後の張力調整に伴う床版クラック抑制を目的に、設計張力の20% に収まるように設定した。それにより、2 回目、3 回目については、ほぼ張力調整することなく、床版クラックも無く施工を完了することができた。
また、張力調整は斜材ケーブル温度により測定値に誤差を生ずる恐れがあるため、桁温度と斜材ケーブルの温度が一定となる夜間に調整を行った(写真- 5)。

3.5 床版工における工夫
ニールセンローゼ桁橋において床版コンクリートの横桁部は、クラックが入りやすい構造になっており、通常、縦断の高い方から打設を行うと、打設中にその重量で既打設コンクリートに変異が生じ、クラックが発生する恐れが高い。このため、クラック防止対策として床版面に補強鉄筋を追加し、コンクリートの配合においては、床版コンクリート24N/㎜ 2-8-20 から30N/㎜ 2-15-20 に変更し、高性能AE 減水剤を加え、水セメント比をコンクリ-ト示方書に記載されている65% 以下から50% 以下に変更にした。
床版コンクリート打設において橋長が172.5m、上り勾配6% をコンクリ-トポンプ車により圧送するため、スランプ低下による圧送時の閉塞を防止するため圧送負荷検討を行い設計スランプは15㎝とした。
また、試験練り後、実際の機械で練り、運搬、圧送、打設までの時間を考慮し、スランプ低減についても確認を行った。その結果、設計スランプ15㎝だったものを、スランプ低減を考慮し出荷時のスランプを17㎝に変更した。
打設割は、クラックの最も入りにくい打設パターンについて床版打設順序検討プログラム(COMPO)を用いて検討を行った。施工中は、水分量を常時観測できる単位水量観測器(COARA)を設置し(写真- 6)、品質のバラツキが無いよう全台数計測を行った。養生には保湿、温度変化を一定に保つ養生マット(写真- 7)を使用することにより、打設時期が11 月から12 月と寒い時期であったが、平均10°~ 15°で良好な養生環境を保てた。

3.6 環境対策について
本架設位置が農業用ダムの湖上に架設するため、ダム湖の水質並びに水量については、工事による影響調査を実施し、ダム管理者に報告、協議を行いながら施工を行った。また、桁架設時に締め付け機械の油、現場塗装用の塗料等がダム湖へ落下し水質への影響がでないように、落下防止用シート(写真- 8)、現場塗装中の飛散防止対策、及びコンクリート打設後には現場からの排水を集水して中和処理後排水するよう環境対策を行った。

4.おわりに
今回の橋梁架設は、規模も使用機材等も大きく、特殊な架設工法で行うなど、改めて土木事業のスケールの大きさを感じた。
特殊な架設工法において、全体の約7 割が安全に架設を行うための準備工である。この準備には大きな重機を使用し組立てる作業や、ワイヤ等をボルト締めする作業がある。大型機械による架設作業に比べると地味で根気の必要な作業を人の手で行う。また、設備の組立て後、定期点検を行いその都度、ボルトの増締めと確認を繰り返し行う。現場代理人によると、「この地味な架設準備に手を抜けば架設時に手戻りが生じ、結果的に良いものは出来ない。」との話である。今回の工事を終えて、あの地道な架設準備の作業を確実に行うことが、事故防止と工程進捗につながるのだと感じている。
この橋梁架設が工期内に無事故で完成したことは、元請けである三井・川田特定建設工事共同企業体の安全と品質に対する取り組みと教育の成果によるものである。携わった関係会社の方々も各部門でこれまでの経験と知識を生かして完成に向けて日々努力をした結果である。
今回の執筆にあたり貴重な資料や情報の提供をいただいた設計・施工関係者の皆様に感謝申し上げる。

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