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グランドアンカー定着層(風化片岩)の周面摩擦抵抗について
~繰り返し注入型アンカーによる対策~
右田隆雄
隅田悟史

キーワード:グランドアンカー、風化片岩、蛇紋岩、周面摩擦抵抗

1.はじめに
グランドアンカー定着層における、地山とグラウト材料との周面摩擦抵抗力は、一般的に、ボーリング結果の地盤の種類やN値により設計され(表-2)、現地での引抜き試験によりその妥当性が確認される。
今回、活断層付近の風化片岩におけるグランドアンカーの引抜き試験を実施したところ、設計値を大幅に下回る結果となった。
ここに、引抜き試験結果の概要とその対策について報告するものである。

2.施工箇所と地形・地質の状況
施工箇所は、福岡県宮若市大字三ケ畑地内に位置する。地形は、三郡山地に属する笠置山地の一角、間夫(508.8m)と湯原山(384.2m) 間の峠付近にあたる。地質は、西南日本内帯の三郡変成岩類が分布しており、岩質は泥質片岩や砂質片岩を主体とする。但し、当該地を含む周辺地域では、超塩基性岩類に属する蛇紋岩の分布が認められている。また、当該地近辺には活断層に認定される西山断層の分布が推定されている。

3.グランドアンカーの当初設計
(1)設計条件
1)計画安全率 1.20
2)すべり面の土質定数
C= 15.0kN/m2 φ= 9°
3)必要抑止力 Pr= 790kN/m
(2)設計結果
1)アンカー材 多重PC 鋼より線F110UA
2)アンカー角、間隔、段数 40°、3.0m、5 段
3)受圧板形式   現場打平板(2.5m × 2.5m × 0.45m)

4.グランドアンカー定着層の状況
(1)ボーリングおよび引抜き試験位置
現場は、500m 程離れたA、Bの2箇所である。ボーリングおよび引抜き試験は同じ位置で行った(図-3)。

(2)ボーリング結果およびグランドアンカー定着層の状況
B-1 からB-4 のボーリング結果およびアンカー定着層の状況を以下に示す(写真-1 ~ 4、表-1)。なお、写真中の赤囲いはグランドアンカー定着層をあらわす-。

5.地山とグラウト材料との周面摩擦抵抗
(1)当初設計時
1)A箇所
B-1、B-2 の結果より、定着層は砂質片岩の中風化岩相当であり、N値は50以上であった。よって、風化岩の最低値τ= 0.60 N/mm2とした。
2)B 箇所
B-3、B-4 の結果より、定着層の状況はA箇所に比べ、風化、破砕が著しく、強~中風化片岩相当であり、N値も一部29~50 を示した。
よって、岩質区分を「岩盤」ではなく「砂礫」とし、N=30あるいは40に相当すると評価してτ= 0.35 N/mm2とした。

(2)抜き試験結果および採用値
A箇所、B箇所ともにボーリング位置で引抜き試験を実施し、B-4ではさらに付近での引抜き試験を追加した。
その結果、A箇所ではB-1で設計値の4割のτ= 0.24 N/mm2 、B-2で同じく8割のτ=0.48 N/mm2となった。
B箇所ではB-3でτ=0.87N/mm2と設計値を上回ったが、B-4で設計値の約4 割のτ= 0.15N/mm2、0.14N/mm2となった。
引抜き試験の結果よりA、B箇所の周面摩擦抵抗は、安全側にそれぞれ0.24 N/mm2、0.14N/mm2を採用した。

(3)引抜き試験結果の考察
定着層の地質はボーリング調査時点では風化片岩と判定したが、掘削後に露頭した定着層を観察したところ、蛇紋岩であることがわかった。
三郡変成岩類の分布地(三郡帯)では、蛇紋岩のような超塩基性の岩体が片岩と接して分布することが報告されており、今回のように片岩地山の所々に蛇紋岩が分布することは十分ありうることである。
蛇紋岩は、岩片は硬いが亀裂が細かく発達し、その亀裂表面は鏡肌状・脂肌状を呈し、一部は滑石や水滑石等の粘土鉱物の膜が生成していることから、せん断に対して極端な脆弱性を示す。
また、当該地は西山断層に位置するため、もともと亀裂の多い地盤であり、大きく掘削したことで定着層まで緩みが及んだものと考える。
なお、蛇紋岩の脆弱性については、「グランドアンカー設計施工要領(NEXCO)」に、「蛇紋岩や膨潤性の岩盤・新第三紀泥岩・凝灰岩の場合、軟岩と判断される場合でも周面摩擦抵抗がτ=0.3 N/mm2程度、風化の進んだ岩の極端な例ではτ= 0.2 N/mm2程度しか得られなかった例もある」とあり、また、図-4に示すような極端に低い付着強度データもある。

6.繰り返し注入型アンカーによる対策
周面摩擦抵抗は、当初設計値の約4割しか見込めないことが判明した。通常型アンカーによる対策とした場合、単純計算で2.5倍の本数増となり、大幅な工事費増になることはもとより、アンカーの配置自体が困難となった。
そこで、繰り返し注入により定着体を造成することで周面摩擦抵抗を改善することができ、併せて工事費の削減が期待できる「繰り返し注入型グランドアンカー工法(以下「RSIグランドアンカー工法」)」の採用を考えた。
RSI グランドアンカー工法により、周面摩擦抵抗を改善できるのは、特殊な注入パイプ(インジェクションパイプ)によりセメントペーストを繰り返し注入することで、アンカー体径を拡大するためである。
RSI グランドアンカー工法の構造を図-5に、インジェクションパイプによる繰り返し注入のイメージを図-6に示す。

RSIグランドアンカー工法により、周面摩擦抵抗を改善できるのは、特殊な注入パイプ(インジェクションパイプ)によりセメントペーストを繰り返し注入することで、アンカー体径を拡大するためである。

結果、A箇所の採用値τ= 0.24 N/mm2に対してτ= 0.48 N/mm2、B 箇所の採用値τ= 0.14 N/mm2に対してτ= 0.28 N/mm2となった。
両箇所ともに通常型アンカーの2倍、当初設計値に対しても8割の周面摩擦抵抗を得ることが判明したので、RSIグランドアンカー工法に変更することとした。
当初設計と変更設計におけるアンカー本数および工事費の比較を表-5に示す。

7.おわりに
「グランドアンカー設計施工要領(NEXCO)」や図-4のデータにより、蛇紋岩において、極端に小さい摩擦抵抗になる場合があることは認識できる。ただ、設計段階において、表-2の値より小さい摩擦抵抗を採用することは、引抜き試験で確認しない限り難しく、また、設計段階において引抜き試験を実施することは、ほとんどないと考える。
しかし、設計時において付近に蛇紋岩の分布が認められる場合は、掘削による緩みも考慮して、極端に小さい摩擦抵抗になる恐れがあることを念頭に、設計すべきと考える。
また、今後、このような事例を蓄積し、技術者間で情報共有を図ることも重要と考える。

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