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ガイドウェイ方式の新しい道路交通システム

建設省土木研究所
新交通研究室長
谷 口 栄 一

1 まえがき
都市においては交通渋滞,交通事故や交通公害等の様々な形の交通問題が発生している。特に交通渋滞の問題は都市の活動に大きな影響を及ぼしており,一般自動車と共にバスやタクシーの旅行速度の低下をもたらし,旅行時間に関する信頼性の低下をもたらしている。また路面電車は多くの都市で廃止に追い込まれている。このような問題を従来の交通システムの枠の中で解決する努力も続けられているが,新しい交通システムの開発によって解決しようとする試みも行われている。日本においては1960年代から数多くの新しい交通システムが開発されてきた。ここではそのうち,日本で実用化されているガイドウェイ方式の新交通システム(以下では単に新交通システムと呼ぶ)を中心に紹介したい。

2 新しい交通システムの開発
都市は前述のように様々な交通問題をかかえており,その解決のためには既存のバス,タクシーおよび大量輸送機関としての地下鉄以外の第3の交通システムが必要であると考えられた。このような認識の中で1960年代中頃から1970年代にかけて米,仏,西独,日本等で新しい都市交通システムの開発が精力的に行われた1)。日本における例としては建設省土木研究所と民間で共同開発されたデュアルモード・バス・システム(Dual Mode Bus System)2),通産省と民間で共同開発されたCVS(Computer Controlled Vehicle System)および民間独自で開発した種々のシステムがある。建設省のデュアルモード・バス・システムはゴムタイヤで支持された車両がガイドウェイと呼ばれる専用軌道および一般道路の両方を走行できるシステムであり,ガイドウェイ上では集電した電気により駆動し,一般道路では蓄電池で走行する。
デュアルモード・バス・システムはまだ実際の営業路線としては建設されるに至っていない。しかしデュアルモード・バス・システムの開発において得られた知見は次に述べる狭義の新交通システムにおいて生かされている。

3 新交通システム
都市内には従来から自家用車,バス,路面電車,地下鉄等の交通手段がある。これらの中でバス・路面電車に代わり,また地下鉄とバスの中間的な交通需要に対応する交通手段として新しい交通システムが要請されるようになった。そのような手段として前述の各種のシステム開発の成果を生かし,いわゆる新交通システムが実用化されている。この新交通システムの輸送能力は表ー13)に示すように片道1万~1万5千人/時であり,ゴムタイヤで支持された車両がガイドウェイと呼ばれる専用軌道上を電気駆動により走行し,無人運転も可能である。

このような新交通システムが生まれた背景として次の3つのものを挙げることができる。
(1) 都市人口の急増によって都市部周辺に新市街地が形成されたが,この新市街地から都心あるいは最寄りの鉄道駅へのアクセス交通手段を整備する必要があること。
(2) バスや路面電車では交通混雑や渋滞が問題になり,地下鉄を建設すると莫大な財政負担をしなければならない。また地下鉄は駅間隔が長く,きめ細かいサービスに欠ける。
(3) 騒音,振動,大気汚染等の環境問題を克服しなければならない。
この新交通システムは現在表ー2に示すような6路線で営業運転を行っており,5路線が建設中である。写真ー1は平成元年7月に開通した横浜の金沢シーサイドラインを示す。新交通システムの標準的な仕様を以下に示す。

(1) 車両はコンピューターで制御され,自動運転を原則に案内軌条を有する専用ガイドウェイを走行
(2) 車両定員は立席を含めて75人程度/両
(3) 動力は電気で,走行にはゴムタイヤを使用
(4) 最高速度は60mk/h,最高登坂こう配は10%,最小曲線半径は30m
(5) 輸送力は10,000~15,000人/h
(6) 最小運転間隔は1分30秒程度
新交通システムでは無人運転も可能であり,実際に神戸新交通ポートアイランド線では自動列車運転装置(ATO)を用いて無人運転を行っている。
新交通システムが走行する高架のガイドウェイは図ー1に示すように街路の中央分離帯の部分に建設することができるので,そういう場合には新たな土地の取得が不要になるという利点がある。また一般の高架道路に比べるとガイドウェイの幅は狭くなっている。

昭和58年に運輸省・建設省が新交通システムの標準仕様を制定した。標準仕様では車両の案内方式は図ー2に示すような側方案内方式を採用している。案内輪の材料としては一般に硬質ウレタンが用いられている。また分岐は地上に設置された水平可動分岐レールと車上の分岐輸を用いて行う。

写真一1に示した横浜の金沢シーサイドラインでは初めてこの標準仕様が適用された。標準仕様を用いることの主な効果についてたとえば次のような報告がされている4)
① 複数の事業者間の調整作業をスムーズに進めることができた。
② インフラ部のみの先行整備が可能になった。
③ 経験のない事業でありながら,全体事業費の算出が容易になり,かつ予算額がほぼ予定通り実現できた。
新交通システムの特徴をまとめると次のようになる。
(1) バスと鉄道の中間的な交通需要に対応できる。
(2) 一定幅以上の一般の街路に導入できる。
(3) ゴムタイヤ走行なので騒音が少ない。電気走行なので大気汚染の心配がない。
(4) 自動運転なので省力化がはかれる。

4 ガイドウェイ・バス・システム
新交通システムは前述のように各地で実際に建設されている。建設費は地下鉄よりも安いが,建設を担当する地方自治体(あるいは第3セクター)にとっては,かなりの負担となるので,もう少し簡易な新交通システムが要望されるようになった。そこで建設省土木研究所と民間が共同で開発したのがガイドウェイ・バス・システムである5)。このガイドウェイ・バス・システムは通常のバスに案内装置をつけて高架のガイドウェイおよび一般道路を走行できるようにしたシステムである。(写真ー2)ガイドウェイ走行と一般道路走行の2つのモードをもっていることからデュアルモードと呼んでいる。前節で述べた新交通システムにおいても当初からデュアルモードという考え方はあったが,実現には至らなかった。ガイドウェイ・バスは次のような特徴をもっている。
(1) 新交通システムに比べて建設費が安い。
(2) デュアルモードを採用しているので乗り換えがいらない。
(3) 将来,交通需要が増加した場合に新交通システムに移行することができ,段階施工が可能である。
(4) 交通混雑区間のみをガイドウェイとすることができ,将来ガイドウェイの延伸も可能である。
このガイドウェイ・バス・システムは土木研究所における開発のための実験の後,福岡市において開催されたアジア太平洋博覧会(平成元年3月~9月)の会場内に営業線として約950m建設された(営業キロ841m)。これは運輸・建設両省による軌道法の認可を受けて建設されることになった日本で初めての実用化路線である。会期中に入場者の約11%に当たる87万8千人を輸送し,運行期間中事故もなく無事にその任務を果たした。ガイドウェイ・バスにおける案内レールの間隔は直線部では2.5mで,バスの車体幅と同じとした。曲線部では車両の内輪差を許容するために曲線半径に応じて内側の案内レールをずらして走行幅を広げた。なお今回のガイドウェイの最小曲線半径は16mであった。

会場内でガイドウェイ・バスに乗車した一般の人を対象としてアンケート調査を行った。その結果によると乗り心地については,979人の回答者のうち77.8%の人が「良い」,18.3%の人が「普通」と回答し,両者を合わせると96.1%となり,「悪い」と答えた人は1.3%と非常に少なかった。
また現状のバスと比べてどこが良かったかという質問に対しては「乗り心地が良い」が37.5%「高架道路なので眺めが良い」が18.4%,「待ち時間が少ない」が16.7%等となっていた。さらにガイドウェイ・バスをあなたの街に望みますかという質問に対しては76.5%の人が「必要」と答え,「いらない」と答えた人は5.3%であった。これらのことからガイドウェイ・バスに対する乗客の評価は概ね良好であったと考えられる。

5 あとがき
ここでは都市の新しい交通システムのうち,日本ですでに実用化されている新交通システムとそれを簡易化したガイドウェイ・バス・システムを中心に紹介した。これ以外にも例えばリニアモーターを用いたミニ地下鉄,都市の短距離交通のための新しいシステム,LRT(Light Rail Transit)等の様々な新しい交通システムが開発されている。新しい交通システムが実用化されるまでには技術的な課題のみではなく,社会・経済的な課題も克服しなければならないが,都市の交通問題解決のための1つの手段として,新しい交通システムへの期待は大きい。

参考文献
1)例えば,井口雅一,山下恭世,「新交通システム」朝倉書店,1985
2)建設省,「新道路交通システムの開発」1977
3)交通工学研究会編,「交通工学ハンドブック」技報堂出版,1984
4)宮下徳生「標準化仕様採用の新交通金沢シーサイドライン」,第18回日本道路会議論文集PP1280,1989
5)神崎紘郎,谷口栄一,福本陽三,「ガイドウェイバスシステム」交通工学,Vol.24. No.4,1989

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