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インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト始動
~鶴田ダムを核とした新しい鹿児島観光の活性化をめざして~

国土交通省 九州地方整備局
鶴田ダム管理所 専門官
谷 口 正 浩

国土交通省 九州地方整備局
企画部企画課 事業調整係長
草 野 直 美

キーワード:インフラツーリズム、インフラ、鶴田ダム、観光、地域活性化

1.はじめに
平成 25 年観光立国推進会議「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」において、インフラを観光資源として活用する「インフラツーリズムの推進」が打ち出された。
これを受け、国土交通省では『インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト』と称して、モデル地区における社会実験、国内外に向けた魅力ある広報の展開、訪日外国人旅行客のニーズを把握したインバウンド対応に取り組むこととなった。
全国のモデル候補地区からインフラツーリズム拡大に向けた取り組みの効果が特に期待出来るモデル地区 5 箇所のうちの 1 箇所として選ばれたのが、川内川流域を含めた「鶴田ダム」である。
本プロジェクトは、政府が取り組む観光素材としての大胆なインフラの開放に即し、九州地方整備局管内の鶴田ダムを核とした新たなインフラツーリズムの可能性を沿川 5 市町の観光資源を地域と共に磨き上げながら、新しい薩摩地方の観光交流活性化を促進し提案するものである。
本稿では、その取り組みの 1 つである令和元年 11 月 9、10 日に実施された鶴田ダムファムツアーについて紹介する。

2.鶴田ダムと周辺地域
幹川流路延長約 137㎞の九州屈指の大河川である川内川の流域は 3 県、6 市 4 町にまたがり、流域人口約 20 万を抱え、河口より約 51㎞に位置する鶴田ダムは、ダム下流を洪水から守り、大鶴湖に貯まった水の力を利用して発電する事を目的として昭和 41 年に建設された多目的ダムである。
ダムの高さ 117.5m、ダム湖に貯まる水の量 1 億 2 千 3 百万㎥の巨大な貯水池を形成していた重力式コンクリートダムだが、平成 18年7 月の記録的豪雨により、川内川流域は甚大な洪水被害を受けたことから、平成 19 年に洪水調節容量を倍に増やす鶴田ダム再開発事業に着手、平成30 年 10 月に完成し、今の姿となっている。

その鶴田ダムは北薩のほぼ中央に位置し、薩摩川内市や鹿児島空港から車で約 1 時間、鹿児島市内からも約 1 時間 30 分であることから、周辺観光も兼ねてレジャーに最適なスポットである。
川内川流域周辺には多くの温泉地をはじめ、年 間 40 万人が訪れる「曽木の滝公園」や日本名水百選の一つである「丸池湧水」、体験型観光では観光農園や「薩摩びーどろ工芸」、竹細工の「宮之城伝統工芸センター」、インバウンドに人気のサムライ体験ができる「入来麓武家屋敷群」、10 月から 3 月にかけては日本で 3 箇所しか見られない、荒々しい蒸発霧「川内川あらし」を河口付近で見ることも出来る。

またご当地グルメでは鶴田ダムカレーをはじめ、さつま町産の黒毛和牛と特産品のたけのこを使った黒毛和牛たけのこ丼も店舗ごとに工夫を凝らした一品として提供されており、川内川の歴史や文化も含めて、魅力的な「ここだけ」の様々な体験が出来る。

3.これまでの取組み
現在のインフラツーリズムの取組みとして、鶴田ダム見学では 60 分、90 分の基本コースがあり、操作室でのガイダンスやダム内部ではダムコンシェルジュの施設説明を交えた監査廊歩き、途中には放流ゲート室やダムを見上げることができる展望所も見学できる。個人、団体とも申し込みに空きがあればすぐ対応でき(平日のみ)、空き状況は鶴田ダム管理所 HP で確認可能である。ダムの側にある川内川大鶴ゆうゆう館では、川内川や鶴田ダムについてのわかりやすい展示がされており、ダム操作疑似体験もできる。

また、ダム単体だけではなく、川内川水系かわまちづくり推進協議会においては、観光を主軸にした川内川ブランドの構築、交流人口及び物産販路を拡大し地域経済の活性化を図るため、平成 29 年より県境を超えて3市2 町の観光部局や鹿児島・宮崎両県振興局、川内川河川事務所、鶴田ダム管理所で組織する「川内川水系かわまちづくり観光振興部会」を設置し、活動を行ってきている。
この観光振興部会が平成 29 年度に実施した川内川水系観光調査によれば、川内川流域 3 市 2 町への入込客数は年間約 730 万人前後で推移しており、全体の約 5 割が薩摩川内市を訪れ、そのうち宿泊数は約 60 万人前後で推移、約 6 割が薩摩川内市に宿泊している。またその旅行者の交通手段を見ると、JR を利用した来訪者も見られるが、全体のほとんどの来訪者は「車」での来訪となっている。
観光調査を基に観光振興部会では、観光振興を進める上での課題の一つとして、滞在目的が希薄なことや流域の観光資源が十分に知られていないため、多くの市町が通過点となっていることから、各市町村での滞在時間を増やすための対策として着地型観光のメニュー開発などを行っている。また、もう一つの課題である交通についても、「車(レンタカー含む)」を利用した周遊観光のルート構築や川内川流域 3 市 2 町で取り組むプロモーション等の情報発信を行い、流域の魅力を知らせる計画の検討が行われている。

4.本プロジェクトの新たな取組
これまでの取組を踏まえつつ、本プロジェクトでは新たに 3 つの取り組みを行う。
まず、1 つ目は「①鶴田ダムのインフラツーリズムの深度化」で、小中学生に向け教育旅行として自然災害や治水に興味を持たせインフラの大切さを認識する新たなプログラムやダムマニアの要望に応える企画、ダムの建設・治水技術を学ぶ専門性の高い企画など特別感や多彩なツアー設定を行い、すぐに着手可能なものは進めていく予定である。
2つ目は「②周辺の観光資源との連携」でインバウンドへの PR 不足、インバウンドへの対応や自治体が売りたいもの、どのように売っていきたいか明確にするなどの課題から、鶴田ダムを核として沿川 5 市町のタイトルと具体的なプログラムを設定して連携を推進する。

3つ目は「③ファムツアーの実施」でインバウンド対応の遅れている北薩地方において本プロジェクトにより外国人目線で観光資源を評価し、地域にフィードバックすることで鶴田ダムと地域観光資源をインバウンド誘客の視点から深化させる。

5.ファムツアー
前述 4 の③を目標に 11月9 日(土)~ 11月10 日(日)の 2 日間において、鶴田ダムの点検放流にあわせ、既に集客のある観光ルートからの誘客を目指すファムツアーを実施した。
ファムツアー参加者は日本在住の外国人 7 名(うち女性 1 名)、出身地はアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、年齢は 20 代~ 60 代、職業は観光アドバイザーや観光情報通訳、フォトグラファーなど観光や PR を職業としている方々であり、参加されたファムツアーの行程は、図 -3 のとおりである。

1 日目、既に集客のある「桜島ビジターセンター」では、住民目線での噴火と影響について、島内在住のジオガイドの説明に参加者は聞き入っていた。鹿児島を代表する観光地の仙厳園では、
「九州の歴史は外国人の物語がある」と強く感じることができたようだ。

また、サムライツーリズム体験のできる「入来麓武家屋敷群」や「薩摩びーどろ工芸」では甲冑やはかまを体験し、大勢の子供達が行う居合道見学や薩摩切子の見学、またその日は紫尾温泉に宿泊し、温泉や地物の食事に喜んでいた。やはり、日本・鹿児島文化に触れることは参加者に多くの感動があり、インフラツーリズムでのインバウンド対応として必須なものである。

2 日目のダム見学では、内部に入ることが出来るのは貴重な体験でおもしろいとの感想があり、点検放流では、重力式コンクリートダムで九州最大級の勢いある水量は想像以上の見応えに、ツアー参加者だけでなく地域の方々にも好評となった。またマルシェはさつま町、鶴田ダム管理所、ピクニックマーケットの協力により開催され、英語対応の出来る方もいたことから買い物も楽しめたようである。

次に見学した旧曾木発電所遺構はダム湖(大鶴湖)の底に残る建物で、ダムの水位を下げる 5~ 7 月のみ全体が水面上に現れる 100 年前の水力発電所跡である。この時期、湖面を覆った緑の水草が美しいと好評であった。

6.得られた課題
今回、ファムツアーであることから、1 つでも多くの場所を体験してもらいたいためタイトなスケジュールであったが、ツアー参加者からは 1 つ 1 つを 1 日かけてじっくりと体験できる内容であることも、インバウンドが長期滞在リピーターに繋がる要素となる、また移動時間を事前説明に利用するとより良いという意見が挙がった。
ダム見学については、見学ルートに模型や看板 などで詳しく解説がほしい、英文のパンフがあるとよい、操作室やメカニックなど事前に勉強できるような仕掛けがあるとさらに良いなど意見があり、インフラに関する情報をどのタイミングで提供し、どのように表現すれば伝わるか、検討が必要である。
周辺地域の観光については、温泉での看板が日本語表示だけ、スリッパや浴衣のサイズが小さい、といったすぐにでも対応できそうな意見から、お寺やサイクリング・トレッキングなどテーマにバリエーションを持たせた各種の周遊コースを用意すると良いという意見が多数あった。
日本の古いものと新しいもの、そして日本の技術力をどのようにアピールしていくかがとても重要である。

7.おわりに
「インフラ」という言葉は技術的で退屈、下水の配管のイメージ、マニア向けでニッチな言葉であり「Japanese engineering wonder」の見せ方・伝え方を考えるべきである、との今回の参加者の意見があり、これからインフラツーリズムを進めるうえで深く納得させられたものである。
日本では「インフラツーリズム」という言葉がようやく定着しはじめてはいるが、実際、インフラツーリズムでの利用を意識した施設整備にはなかなか至ってないのが現状ではないかと思われる。「すべてをバリアフリー化」や「すべての人を快適に」とはいかないかも知れないが、普段立ち入ることの出来なかった土木現場や土木構造物を観光資源のひとつとして地域活性化に繋げるため、これまで以上に「インフラ= Japanese engineering」の魅力が伝わるような意識改革が必要であると考える。

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