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アーチ開削によるトンネル活線拡幅工法

福岡県田川土木事務所
 技師
平 山 浩 二

1 はじめに
福岡県田川郡添田町は,霊峰英彦山を筆頭に名所・旧跡が多い自然豊かな町であり,四季を通じて観光客が多数訪れる町である。
しかし,田川郡北部より英彦山へと通じる主要地方道添田赤池線の真木隧道は大型車が離合できないほど幅員が狭く,さらに歩道がないために歩行者への危険も多く,早急な整備が望まれていた。
ここに,福岡県が施工したアーチ開削工法による供用下でのトンネル拡幅について報告する。

2 工事概要
 工事長 :L=71.0m
 内空断面:A=70.375㎡
 掘削工法:NATM工法
 補助工法:アーチ開削

3 特殊条件
(1)JRトンネルの隣接
真木隧道は,昭和20年代に建設された延長約60mのトンネルであり,約12m南側には明治時代後半から戦前に建設されたと推定される,全断面煉瓦造りの鉄道トンネルが併設している。

「既設トンネル近接施工マニュアル」によると近接度区分では「制限範囲(要対策範囲)」に属しており,健全度安定区分では「A2」に相当すると推定される。

(2)地形・地質
隧道上部の地山は,緩やかな地形をなしており,全区間に渡り6m以下の低土被りである。
地山表層部では,粘性土および砂質土が分布し,基盤地質は細粒~粗粒砂岩を主体とし,一部では層厚30cm以下の頁岩の薄層を伴っている。
岩盤等級はD級~CL級であり,岩盤分類は,砂~砂質土または軟岩Iである。
頁岩は,地表部では風化が進行し褐色化しており,スレーキングしやすく,風化により土砂~粘土化している部分が多い。
砂岩は,細粒~粗粒に区分され,泥質砂岩の上位では下部に向かって細粒化している。泥質砂岩より下位でも,下方に向かって細粒化する傾向が見られた。さらに下方では,細粒砂岩から頁岩,石炭へという層相変化が見られた。

(3)周辺環境
隧道の上部付近には,幼稚園および小学校の学校施設がある。また,添田赤池線はバス路線であり,周辺には団地や住宅が建ち並んでいる。

4 工法選定
(1)基本工法
 ① 既設トンネルの拡幅案
 ② 別トンネルによるバイパス案
 ③ 地山上部を開削するトンネル回避案
 ④ JRトンネルを含めた全面開削案
にて基本工法を検討した。

①案:低土被りのため地山のゆるみ等に細心の注意が必要であり,施工性で劣る。
②案:①案と同じく施工性が劣り,補償物件が多く全体工事費が高くなる。
③案:JRトンネルヘの影響,補償費による全体工事費の増,縦断勾配の改悪となる。
④案:JRの長期に亘る運行停止は不可能であり,廃案とした。
以上により,施工性に若干問題があるが,経済性・現場条件との整合性により,①案の既設トンネルの拡幅案を採用した。

(2)施工方法
トンネル工法とボックスカルバート工法にて施工方法を検討したが,ボックスカルバート工法では,掘削に伴う土留めアンカーがJRトンネルの保護層を侵すためトンネル工法にて検討することとした。
トンネル本体部はNATM工法を採用するが,
① 地質的に風化しており,6m以下の低土被り。
② 内空幅が標準トンネルよりやや大きい。
③ 供用を確保しての拡幅施工。
上記の理由により,何らかの先受け工法が必要となる。
先受け工法として,
①案:パイプルーフ工法(図ー4)
②案:アーチ開削工法(図ー5)
上記の工法比較をしたが,一般の供用を確保しながらの施工であり,狭隘な空間での坑内からの先受けでは施工性が悪く,坑外から安全性の高い先受け工法が望ましいため,②案のアーチ開削工法を補助工法として採用した。
アーチ開削の利点として,狭隘な空間での施工である当該工区において,天端崩落の危険を事前に防止でき,さらに安全確実に上半アーチ部が施工できる点である。

5 安全確保
本箇所の長期間の通行止めに伴う迂回路が周辺にないため,既設トンネル内にてバスや大型貨物車,緊急車輌等の通行が可能な幅3.5m,高さ3.8mの空間を確保する必要があり,作業架台兼用として利用できる門型シェルターを設置した。
設置には,昼間に作業ヤードにてシェルター組立(1ブロック6m:頂版1枚・側壁2枚の3ユニット)を行い,夜間全面通行止めにより既設トンネル内に防護シェルターの設置(1日3ブロック)を行った。
防護シェルターの設置には,
① 油圧システムによるプラットホームの上下可動により,自力積込・取降が可能
② コンピューター制御による旋回および平行移動が可能
③ 狭い既設トンネル内に±5mm以内の精度で防護シェルターを設置可能。
以上の利点を持つ特殊運搬車輌のドーリーを使用した。
トンネル掘削時の撤去部材の崩落,横断方向の剛性確保,上部開削時の加重変化等に対応するため,既設トンネルと防護シェルターとの隙間を発泡モルタルにて充填を行っている。

6 アーチ開削工法
(1)施工フロー
① 防護シェルター設置(既設トンネル内)
② トンネル上部開削
③ 地盤改良(両坑口付近)
④ フットボルト削孔・設置(写真一5)
⑤ 鋼アーチ支保工基礎設置
⑥ 鋼アーチ支保工建込(写真一6)
⑦ デッキプレート設置
⑧ 上部アーチ鉄筋組立
⑨ スラブコンクリート打設
⑩ 上部埋戻(一次・二次)
アーチ開削工法の施工手順として,以上の流れとなる。

(2)アーチ開削による効果
① アーチ部を事前に確実に補強できる。
② フットボルトにより一次覆工に発生する支保応力の低減
③ フットボルトによるトンネル部のロックボルトの代用
④ フットボルトにより,JRトンネルヘの影響の低減
⑤ 上半掘削時に天端崩落の危険がない。

7 本体掘削
本体掘削は上半先行掘進によるNATM工法により施工したが,掘削土砂と産業廃棄物の分別,および防護シェルターによる作業空間の制約により,変則的な掘削となった。
二次覆工打設には,通過車輌の安全確保のために防護シェルターをスライドセントルに取り付けて施工を行った。(写真一7)

8 情報管理
(1)計測工

(2)事前予測解析
既設トンネル施工により周辺地山が影響を受けている可能性があり,既設トンネルの状況をできるだけ正確に把握するため,レーダー探査による覆工厚測定,オーバーコアリングによる作用応力測定を実施した。
これらの情報をもとに解析モデルを作成し事前予測解析を実施した。
解析結果より,上半掘削時では,水平変位(管理値:4mm)・沈下量(管理値:7mm)とも管理基準値内であると予測できた。

(3)フィードバック
上半掘削時の実測値と予測結果との最大値はほぼ一致していたが,沈下値においては実測値に比べて予測結果が過大になっていた。
そのため,解析値と実測値の誤差が最小となるように各種係数の予測を行い,解析値と実測値の最大変位が一致する結果が得られた。
最終的に最大変位量・沈下量ともに精度よく予測できており,フィードバック解析により安全で経済的な施工ができた。

9 おわりに
本箇所は,特殊条件下での拡幅施工であり,アーチ開削工法を採用したが,FEM解析を用いた情報化施工が有効であり,フィードバック解析等の施工管理が徹底できたことで,異常を示す数値もなく安全確実に施工することができた。
今後,類似例の参考になればと思っている。

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