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まちづくりの記………みずみずしい唐津

佐賀県 唐津市長
野 副  豊

○ はじめに
松浦潟のうつくしい自然と,ゆたかな風土にはぐくまれた唐津市は,神功皇后の三韓渡航や,松浦佐用姫と大伴狭手彦のロマンスなど,豊富な史実伝説とともに,古くからの大陸との盛んな交流をうかがい知ることができる遺物や遺跡が,数多く発見されています。
特に,日本最古の稲作跡として注目される菜畑遺跡は,その代表的なものです。

「からつ」というのは,中国の唐,朝鮮半島の“伽羅”へ渡る港(津)という意味であると言われていますが,南北朝の時代に入って,「唐津」と書くようになりました。
また,それ以前の中国の史書「魏志倭人伝」には,「末慮(まつろ)国」,すなわち“まつら”の名が記されています。
やがて,慶長7年(1602)寺沢志摩守広高の築城により,城下町としての唐津の発展の礎が定まりました。この唐津城は,海に望む平山城として全国的にも珍らしく,「虹の松原」を翼とするその姿から「舞鶴城」とも呼ばれ,玄界灘の風光明眉に,大いなる魅力をあたえています。

その後,幾多の変遷を経て,昭和7年に市制が施行されました。現在,面積127.33km2,人口79,728人(平成元年10月),佐賀県北部の中核都市として,住みよい町,魅力ある町をめざし,新たな“まちつくり”の道を歩んでいます。

○ まちづくり
これからの都市整備の指針として,その街の個性を生かす「景観」の形成と,そこに住む人々の「アメニティ」の向上が,最も優先されるべき課題となっています。
本市も,そのために市民と一体となって,努力を重ねているところですが,今回は,日記のスタイルをとって,唐津のまちづくりを考えてみました。
地方都市の歩むひとつの方向として,読みとっていただければと思います。

1月新春
初春のさわやかな青空に誘われて,初詣にいく。唐津神社への道は,築地塀や生け垣が連なり,昔の土の匂いを漂わせる舗装の歩道と一緒になって子供の頃の思い出を彷彿させる。参拝の人々の賑わいの中,松の街路樹を通り抜けると,深い木立ちに包まれた境内のピーンとはりつめた空気に,柏手の音がこだまする。
参拝をすませ目を転じると,低く並んだ瓦屋根の向こうに,唐津城がくっきりと目に映る。散歩のついでに城へと向かう。白い御影石の二ノ門を渡ると,重厚なつくりの石垣が左右の水面にゆれている。緑の中,石段を登っていくと,荘重な櫓の総締門が迎えてくれる。東屋では初釜の宴が催されていた。唐津焼の抹茶椀が,一層味を引き立たせてくれる。天守閣からの眺めは久しぶりだ。玄海の白波と上場の台地に囲まれた眼下の街並みには,縦横に緑の線が連なり,その合い間に見える築地塀や石垣が,城下町の趣きを偲ばせる。

4月陽春
春の柔らかな陽ざしの中,庭の垣根,街路樹,公園のいたるところで,桜の花が満開となり,その艶やかさが目を楽しませてくれる。
図書館からの帰りだろうか,花びらの舞い踊る中を,本を手にした女子学生たちが,楽しげに語らっている。通りのそばの児童公園では,子どもたちがスケッチに筆を走らせている。となりの広場では,いつものようにゲートボールに興じている顔見知りのお年寄たちがいた。

5月新緑
友人と末慮館に遊ぶ,唐津駅北の曳山象の前にて待ち合わせ。しばらく,駅南の新しいビルの展望レストランにて,コーヒーとともに歓談する。窓から眺める区画整理事業の完了した街並みに,過去の面影を見つけることはむずかしい。広く整然とした通りは,散策やショッピングの人々で賑わっている。
新緑の並木道を通り,弥生の里につく。若葉の木立ちに包まれた,木造の館。落ち着いた雰囲気の中で古代に接するとき,静かな興奮とともに,タイムスリップする自分を感じる。

7月盛夏
連日の猛暑で,海辺は家族連れや観光客で賑わっている。特に今日はイカダ大会。舞台の西の浜では,思い思いにアイディアを競って作られたイカダが,所狭しと並ぶ。真夏の炎天下,号砲とともに紺碧の海へと漕ぎ出す。沖には,無数のヨッ卜。マリーナの充実で,ヨットもすっかり唐津の魅力の一つになっている。

浜辺は,新たに緑地として整備された松原が,白砂の縁どりをなしている。唐津城を中心として,東に展開する「虹の松原」と対をなし,見事な鶴翼を形成しているという。
夜,昼間の興奮の冷めぬまま,松浦川河口での花火大会を見る。夜空に開く,色鮮かな大輪の花。その度に夏を謳歌する歓声が上がり,七色の光と交錯する。背後には,花火と美しさを競うかのように,闇空にくっきりと浮かぶ唐津城。四季折々に演出を変える,ライトアップの今夜のブルーは,さわやかな夏の涼を感じさせる。

格好の観覧席となっている,河川敷のざわめきの中には,最近とみに聞かれるようになった外国語も多い。どうやら韓国からの団体か。そういえば,東港に優雅な外航客船の姿があった。ホテルはどこも満員だという。

10月清秋
スポーツの秋。スポーツ観光都市の名にふさわしく,松浦河畔公園や体育の森公園の各施設では,屋外,屋内の施設を問わず,各種のスポーツが花ざかりだ。松浦河畔公園のサッカー場では,企業対抗戦が開催されていた。開通したばかりの西九州自動車道や,複線化されて便利になった電車で来たという,福岡からのチームも多い。
また,野球場,テニス場,その他河畔のいたるところで,家族連れや若い二人がそれぞれの秋を楽しんでいる。
川面を伝わってくる潮風が,頬に心地よい。タ陽に映える,長く美しい松浦橋を通る観光バスからは,子供たちの歌声が聞こえてくるようだ。唐津城のたもとに架かる舞鶴橋も,優雅なシルエットを見せている。

11月晩秋
唐津神社の秋祭り「唐津くんち」が,昨夜の宵山から始まった。明日までは,勇壮な曳山囃子が「からつっ子」の血を湧き立たせる。
14台の曳山が,歴史を伝える街並みを練り歩き,そして走る。電柱のない広い歩道は,人,人,人で埋めつくされている。今日ばかりは,通りのあちこちにある観光案内板も,用をなさないくらいだ。赤や金色に輝く獅子や兜が,威勢のよい「エンヤ,エンヤ」の掛け声に曳かれ,目の前を駆け抜けていく。復元された肥後堀に映えるヤマも,また格別の趣きがある。思わず手にしたカメラのシャッターを切る。そういえば,オープンしたばかりの美術館ではくんちのコンクールがあると聞いていたが……。
祭り気分にひかれて,夜まで散策する。街路樹のイルミネーションがひときわ鮮かである。

○ おわりに
まちづくりは,息長く,根気強く,長期的に行う事業です。
現在ある豊かな自然と,優れた歴史的文化遺産がより一層輝きを増し,市民にとどまらず,内外の人たちにとって,個性的で特色ある魅力的な都市となるよう,唐津市のまちづくりに邁進したいと考えます。

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