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のり面の樹木緑化手法(案)について

九州地方整備局 九州技術事務所
 技術課 技術第二係長
松 本 義 浩

1 はじめに
道路等の切土法面は,浸食や風化防止として植生や構造物で法面を被覆する安定工が多く用いられている。近年では,自然環境保全や世界的な地球温暖化防止問題に対し,法面においても樹木を積極的に導入し,周辺環境と調和した法面樹林化が取り組まれはじめている。
このため,九州において樹林化を行うにあたっては,九州の地域特性を活かした法面樹林化の目標設定や効率的な施工技術の確立が必要であることから,法面樹林化の事例を収集整理し,各種技術の実態と評価,適用条件の整理,苗木植栽試験工の計画調査,樹木の炭素固定量調査等を行い,九州地域の地域特性を活かしだ法面樹林化計画の導入指標・目標設定方法,施工管理基準等を検討し,「のり面の樹木緑化手法に関する手引き(案)」を作成した。

2 樹林化事例調査・資料収集
九州地区の法面の樹林化の施工事例は,外来草本とハギ類の混じる播種工が大半を占めている。一部で苗木植栽併用の樹林化が施工されている。事例調査結果は,表ー1のとおりであった。

3 九州における樹林化の検討
(1)緑化目標の検討
緑化目標の設定は,道路緑化技術基準・同解説に準じた地域区分とした。
法面の樹林には,高・中・低・林床植物が構成されていることが重要であることから,緑化目標は以下のとおりとした。
① 中・低木林を基本とし,長大法面や上部に住居地域がある場合には,高木林を配置する。
② 法面隣接地の地域区分により配置を変える。
③ 維持管理の低減のために,法尻部は芝または地被(耐日陰性)ゾーンを設定する。

(2)導入植物の検討
導入植物の設定は以下のとおりとする。
① 常緑樹と落葉樹を混成させた共存型とする。
② 土壌環境を考慮し,落葉樹はマメ科などの肥料木を積極的に採用する。
③ 極相林(周辺の植生)の樹種を選定し主な構成種とする。
④ 郷土植物は,九州で採取した種子または増殖した苗木を採用する。
⑤ 播種工では,対象法面近隣で種子を採取したものも使用する。
⑥ 年間を通じて炭素固定能力の高い常緑樹を優先させる。

(3)適用工法の検討
工法を選定するにあたっては,以下を考慮して設定する。
① 播種工と植栽工を併用し,多様な植物による樹林を形成する。
② 厚層碁材吹付工等の材料に周辺の潜在表土を混合し,自生種による樹林化を行う。
③ 播種工では木本類の種子を減少させ,ハギ類等の単一群生の樹林化を回避する。
④ 草本類は芝型草地とし,被圧による潜在(現存)植物の生育阻害を低減する。
⑤ 重層的緑化で植生遷移期間の短縮を図る。
⑥ 植栽木の配置は,高・中・低木,常緑・落葉,陽樹・陰樹の組み合わせた,ランダム集中配置とする。

4 炭素固定量調査
街路樹及び法面の樹木について,炭素固定量の測定を行い,地球温暖化防止対策に寄与する樹種の選定の基礎資料とした。
炭素固定量は,季節と樹種及び立地条件により違いがある。季節的には春が活発で,夏は低下し,秋は春よりもやや低い傾向にある。樹種ごとには,常緑照葉樹が高い傾向にある。立地条件では二酸化炭素濃度が高い箇所が固定量も高い傾向にある。

5 樹林化試験施工と追跡調査
樹林化の検討結果に基づき,福岡県と宮崎県の2箇所において試験施工を実施した。
(1)緑化目標
緑化目標は,低木林型とした。ただし,落葉樹に中高木を加えた形式を採用した。
(2)導入植物
導入植物は,試験地の周辺に分布するものを選定するとともに,比較的多くの樹種を導入し,生育の差異を確認することとした。表一2に試験区ごとの導入植物を示す。

(3)適用工法
工法は,以下の4工法を基本とし,試験区の地質状況を考慮して選定した。
 a 厚層基材吹付と苗木植栽
 b 厚層基材吹付と植栽基盤柵+苗木植栽
 c 連続繊維補強土+厚層基材吹付と苗木植栽
 d 潜在表土を配合した厚層基材吹付と苗木植栽
  〔図-1~2に概要を示す(工法c・dは略す)〕

(4)追跡調査と評価
試験施工の結果は,以下のとおりである
①法面に多様な樹種を苗木植栽で導入できる。
②ランダムな配植は階層構造をもつ植生群落となる可能性がある。
③植栽木の活着率や生長量は,工法(造成厚さ)・樹種によって異なる。
④潜在表土混合は,自生種の樹林化に有効。

6 樹林化手引き(案)の作成
本調査では,収集した事例や技術基準,九州地域の自然環境・植生,さらに試験施工の結果をふまえ,「のり面の樹木緑化に関する手引き(案)―緑豊かな環境づくりを目指して―」を作成した。
手引き(案)は,九州の地域特性や法面の条件と植物の生育などの基本的事項と,樹林化計画のための調査・分析・計画,適用工法・樹木の配置,維持管理等を示し,樹林化を行ううえでの参考となるものとした。

7 おわりに
本調査において実施した試験施工は,施工後約2年を経過し,植栽工から導入した樹木は良好な生育が見られる。今後の生長や淘汰により,多様な樹林を形成していくものと思われる。
本調査で作成した手引き(案)が,九州各地の法面緑化に活用されることを期待する。

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