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「遠賀川 直方の水辺」の土木学会デザイン賞の受賞について
九州地方整備局 池浦光文
1. はじめに

遠賀川直方地区では、平成16年12月から今日に至るまで市民の意見を取り入れた河川整備を進めています。平成20年3月迄の整備で、市民に親しまれる親水性の高い水辺空間に生まれ変わりました。この「遠賀川 直方の水辺」が、土木学会デザイン賞2009において最優秀賞を受賞しました。

2. 土木学会デザイン賞の受賞

土木学会デザイン賞(正式名称:土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞)とは、「優れた公共的な空間や構造物の創出に貢献した人物・組織を表彰することで、設計者や施工者、事業者、NPOなどの意欲と水準を高め、美しい国土の形成に寄与すること」を目的として2001年度に創設された賞です。これまでに九州では、「牛深ハイヤ大橋」、「菊池川小浜地区低水水制群」、「長崎水辺の森公園」、「嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業」などが受賞しています。
(http://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/)
受賞決定後の平成22年1月10日(土)には、「遠賀川水辺館」を拠点に河川愛護活動をされている市民団体の方々が中心となって、これまで「遠賀川 直方の水辺」に関係してこられた方々(大学、行政、民間、市民の全て)や土木学会デザイン賞2009選考委員長である島谷幸宏教授(九州大学)を招いた「お祝い会」が催されました。お祝い会の前半は、関係者各位にこれまでの取り組みについての思い出話やこれからの展望について色々な思いを発表していただき、後半は意見交換会を行い立場の垣根を越えてざっくばらんに語り合い、楽しくそして地域と連携した川づくりを進めていく上で有意義な会となりました。

平成22年2月6日(土)には、土木学会デザイン賞2009授賞式が土木学会講堂で行われました。
授賞式では、まず「遠賀川 直方の水辺」に対する市民の思いを坂本貴啓君(筑波大学 水辺館YNHC所属)に、デザインの内容などを樋口明彦准教授(九州大学)に説明していただきました。
これに対して、選考委員からは、「筑豊の川のイメージを180度変える衝撃的な空間である」、「長時間佇んでいたくなる場所が随所にある」、「歩いていて気持ちがよい」、「ふるさとの川として、子供たちの記憶に残る風景である」などといった講評をいただき、「遠賀川 直方の水辺」の水辺空間のデザインを高く評価していただきました。

3. 「遠賀川 直方の水辺」の創出

直方地区での川づくりは、遠賀川を愛する市民で構成された「直方川づくり交流会」が作成した「遠賀川夢プラン2000」を行政(国、県、市の全て)に対して提案したことがきっかけとなって本格的に動き出しました。
これを受けて平成16年に「遠賀川を利活用してまちを元気にする市民協議会および同市民部会( 以下、市民部会と略す)」を発足し、市民の意見を取り入れた河川整備の検討を始めました。
そして、平成17年度より河川整備の実施が決定し、それまでの市民部会での議論を基に、河積の増大による治水安全度の向上とともに、『“ 市民が安全かつ自由に利用できる水辺”、“ 水を身近に感じられる水辺” の創出』を図るというコンセプトが掲げられ、九州大学建設設計工学研究室 樋口明彦准教授からのアドバイスを受けながら、詳細なデザイン検討を行うことになりました。

4. 水辺空間デザインの考え方
①高水敷の緩傾斜化(左岸)
左岸は、既存の1割5分の低水護岸を撤去し、高水護岸中段からなだらかに水面までつながる緩傾斜を基本断面としました(図-1)。これは、市民部会の場において、多くの市民が粘土模型の上に提案した川のあるべき姿を基に導き出されたものです。これにより、水面が見通せる親水性の高い空間を創出すること、利用者が自由に利用できる水辺空間を創出することとしました。

また、洪水に影響しない範囲で地形にアンジュレーション(図-2の等高線)を設け数箇所の丘を造成することにより、開放感のある伸びやかな空間を創出するとともに、視覚的に空間を分節し、空間に奥行き感や囲まれ感を仕込みました。分節化した空間には、サッカーや草スキーなど様々な利用が出来るよう3%未満の勾配から25%程度の勾配とし多様な空間を創出しました。

②樹木の配置(左岸)
市民からは河川敷内にできるだけたくさんの高木を植えるよう提案が出されましたが、水の流れを阻害する高木の植樹には基準があるため、以前から植えられていたケヤキ等の高木4本を移植することにしました。これら既存樹木の枝ぶりや大きさを吟味したうえで、地形と最も馴染みの良い場所に配置することとしました(図-2中の緑点)。具体的には、散策する人の目標物になる場所や、空間の奥行きを際立たせる場所に配置しました(写真-4)。

③地形に合わせたプロムナード(左岸)
既設の遊歩道をアスファルト舗装から土系舗装に改め、緩傾斜スロープの起伏に合わせて緩やかに蛇行・アップダウンする線形を採用し、歩行者の利用を中心に据えたプロムナードとして位置づけました(写真-5)。なお、歩行ルートの選択を来場者の自由な判断に委ねるため、プロムナード以外には散策路を設けていません。

④左岸と一体的な水辺空間創出(右岸)
右岸は左岸と異なり彦山川との導流堤で高水敷も狭いことから、洪水時の流水による影響と左岸との一体的な水辺空間の創出を図る必要がありました。
そこで、狭い高水敷の中で緩傾斜のスロープを主体としつつ、高水敷中央部にヒナ段状に石積み護岸を取り入れました。
低水護岸はコスト縮減にも配慮し既存のブロック積み護岸を高さの約1/2まで残した上に、階段状のコンクリート構造を追加し、水辺へのアプローチを確保しました。高水敷中央部に設けた小段には、背後の既存の導流堤と同じ日田石積みを採用しました。上流側には水衝部が始まる付近で芝張りの緩傾斜スロープに石積みが沈み込み消えるようにし、既存の沈下橋へのアプローチを暗示するデザインにしました。

⑤スロープデッキのカヌー乗場(右岸)
水辺館の活動のひとつにカヌー等を用いた川と親しむプログラムがあるため、右岸中央にカヌー乗場を設けました。
小さな子供たちの利用も多く、安全に乗降できるようスロープデッキ型のカヌー乗場を採用することにしました。スロープの勾配は、車椅子利用者でも安全に水面まで近づける程度に緩い勾配である10%にしました。スロープデッキ部分の素材は、裸足で子供が駆け回れるように熱伝導率が低く転んでも痛くない木材を使用することにし、滑り止めのリブ加工を施したイペ材にしました。

⑥水辺館へのバリアフリースロープ(右岸)
右岸の導流堤上にある水辺館では、市民主導で川づくりに関する様々な取り組みが行われており、年間約35,000人の来訪者が訪れます。しかし、整備前の堤防上から高水敷へのアクセス手段は、勾配の急な階段しかなかったため、新たにバリアフリーのスロープを整備しました。
スロープ法面の仕上げは、スロープ設置位置下流側の導流堤が日田石の練石積みであることから、連続性を考慮し日田石を使用しました(写真-8)。

5. 水辺の利用状況

左岸完成直後の平成18年秋に九州大学が実施した調査によると、来訪者の数は整備前の約1.5倍に増加していることが分かりました。また、来訪者の動きを観察すると、整備前と比較して河川敷を広く利用する傾向や水辺に近づく傾向があること、等高線に平行な動きや高木に向かう動きなど緩傾斜スロープ化による空間の変化に起因するとみられる来訪者の動きがあること等が確認され、頻繁に人が通るルートにはケモノ道ならぬヒト道ができつつあります(図-5,6)。

このように散歩、ジョギング、釣り、カヌー等の利用の他、草スキーやピクニックなど、以前は見られなかったさまざまなアクティビティが市民によって「発見」されつつあります(写真-9)。
市民による定期的な活動も行われるようになり、一昨年からは市民主催のリバーフェスタが開催されています。また、洪水後のゴミの清掃など維持管理にも市民参加が行われています。
さらに、川辺にはさまざまな植物が繁茂し、水生生物の多様化も確認され、環境再生も進んでいるようです。

6. おわりに

子吉川や多摩川において、川の癒し効果に関する研究や活動が行われています。のびやかな風景や流れる水の音、草木の匂い、思い思いに活動する人々の楽しげな雰囲気などを体感することができる「遠賀川 直方の水辺」も、利用者が癒される水辺空間に生まれ変わったと思います(写真-10)。こうした水辺を九州各地に創出していくためには、今回の事業で実施したような市民主体での川づくりの取り組み内容や質の高い水辺空間の創出手法、まちづくりを視野に入れた川づくりの手法などのノウハウを蓄積し、外部に向かって積極的に情報発信していくことが不可欠であると考えます。
今後とも「遠賀川 直方の水辺」が笑顔であふれる憩いと癒しの場であり続けることを期待するとともに、今後、永続的な維持管理体制や市民主体の川づくりへの支援が重要と考えます。
最後に本事業の実施に当たりご助言、ご協力、ご尽力をいただいた全ての関係者の皆様に感謝の
意を表します。

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