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九州技報 第40号 トピックス

平成17年台風14号による宮崎県の土砂災害報告

~鰐塚山山系の大規模崩壊と別府田野川の土砂災害対策について~

宮崎県 金丸悟
1 はじめに
宮崎県は,人口約116万人,県土の約80%を山岳地帯が占め,西に「九州山地」と「霧島火山群」がそびえ立ち,これらを源流とした多くの大小の河川が太平洋に注ぎ,豊富な水資源を有する自然豊かな風土であり,毎年のように,梅雨時期や台風時期に,幾度となく豪雨等に見舞われてきました。
このような中,平成17年9月4日~6日にかけて本県に来襲した台風14号は,総雨量1,000mmを越える記録的な豪雨をもたらし,県内各地で,浸水被害や土砂災害,道路災害が多発し,甚大な被害が発生しました。特に,土石流や地すべり,がけ崩れ等の土砂災害は,県内で139箇所発生し,11名の尊い命が失われました。

図-1 経路図・被災状況


2 平成17年 台風14号土砂災害の特徴
2-1(誘因・・・・気象)
○台風の動きが非常に遅く,超広雨域であった。
① 台風の勢力が大きく動きが遅かった。
(気圧935hPa,時速10~20km)(経路図参照)
② 台風接近まえに,秋雨前線を刺激し各地で大雨を記録した。(図-2 雨量分布図参照)
③ 九州山脈への東風による地形的影響を強く受け,雨の降り始めが早かった。
④ 全アメダス観測所の半数以上にあたる16箇所で日降水量の記録を更新した。
○降雨強度自体は特に強いとはいえないが,長時間継続が今回豪雨の特徴。
① 人的被害や大規模崩壊が発生した箇所の雨量について,3日雨量が100年~300年の降雨確率となっている。
椎葉村上椎葉   (862mm・・150年確率雨量)
宮崎市田野町鰐塚山(979mm・・350年確率雨量)
② 山間部を中心に県内ほとんどの箇所で3日間連続500mm以上の累加雨量を記録した。
○主な雨量観測所での雨量データ 
 ・日之影町見立 連続雨量

1184mm

  最大時間雨量

39mm

 ・美郷町南郷区神門 連続雨量

1322mm

  最大時間雨量

71mm

 ・椎葉村上椎葉 連続雨量

848mm

  最大時間雨量

42mm

 ・宮崎市田野町鰐塚山 連続雨量

1013mm

  最大時間雨量

46mm

図-2 雨量分布図
2-2(素因・・・・地質,地形)
○脆弱な地質(図-1参照)
① 北部は椎葉村,美郷町南郷を中心にした断層・構造線帯の大規模崩壊
砂岩・頁岩を主体とする堆積岩で,その上部に崖錐堆積物が厚く堆積している。この地域の砂岩は強風化しており,縦亀裂による深層崩壊が発生した。
(仏像構造線,延岡衝上断層等)
・大規模崩壊(島戸地区,松尾畑地区)
② 南部は潜在危険要因性の高い,鰐塚山日向層群の地すべり型による大規模崩壊
古第三紀日向層群の砂岩・頁岩を主体とする堆積岩であり,地層は袴曲により脆弱化し,深層崩壊が発生した。
・大規模崩壊(別府田野川,広渡ダム上流)
(図-4.1 図-4.2参照)
○急峻な地形
① 宮崎県北部および田野町(鰐塚山)周辺は脆弱な地質のため河川の河床低下による侵食が著しく,深い渓谷を形成して,急峻な地形である。また北部(耳川,一ツ瀬川)においては河岸水衝部にて激しい浸食作用を受け,急峻な斜面が不安定化し,崩壊した。
以上が県内の広い範囲で大雨を降らせ土砂災害を発生させた最大の原因と考えられる。


3 鰐塚山山系の大規模崩壊と別府田野川の土砂災害対策について
3-1 鰐塚山山系土砂対策検討委員会設置
・平成17年9月5~6日に来襲した台風14号がもたらした降雨により,鰐塚山山系周辺の山地では複数の大規模な土砂崩壊が発生した。特に別府田野川流域では,土石流による堆積土砂で河床が上昇し,「わにつか渓谷いこいの広場」のバンガロー,テニスコート等の施設を飲み込むという甚大な被害が発生した。今後の降雨等により新たな災害が起こる可能性が高い,そのためワイヤーセンサー等による監視と宮崎市田野支所による警戒避難体制を強化し,二次災害防止に努めている。
本県における最大級の土砂崩壊となった鰐塚山山系の土砂災害については,地形・地質や大規模土砂崩壊及び土石流対策等の専門知識を有する学識経験者等による指導,助言が不可欠であり,「鰐塚山山系土砂災害対策検討委貞会」を設置し,土砂災害対策を検討することとした。
・検討委員会委員 谷口義信委員長(宮崎大学農学部名誉教授)外10名

写真-1 「わにつか渓谷いこいの広場」上流の土砂崩壊状況
3-2 鰐塚山山系土砂災害対策検討委員会討議内容
① 検討委員会議事
・台風14号で発生した大規模崩壊に対して3回実施した検討委員会では,以下に示す議事に対して討議を行なった。

図-3 議事内容
② 土砂移動の実態把握
(1)地 形
大規模な斜面崩壊は,鰐塚山の北斜面を下刻する二級水系別府田野川A=15.5km2,片井野川A=7.8km2,一級水系支川境川 A=6.3km2,七瀬谷A=1.1km2の4流域で発生した。
鰐塚山周辺は,標高1,000mを超える山頂部から標高200m程度の平野部に至り,その距離はわずか5,000m程度,平均勾配約1/6.5(90)である。
このことは別府田野川をはじめとする河川は,急流河川であることを示している。(図-4.1)
このような急峻な地形は,鰐塚山周辺の隆起活動と河川の下刻に伴う侵食によって形成されたことが接峰面図から理解できる。(図-4.2)
また今回発生した斜面崩壊は,西北西から東南東に帯状に分布している。

 

図-4.1 鰐塚山周辺の模高分布

図-4.2 鰐塚山周辺の接峰面図

(2)地 質
大規模な崩壊が発生した鰐塚山周辺は,前期中新世(約2,000万年前)から古第三紀(約6,000万年前)の四万十層群上部の堆積岩(砂岩・頁岩互層)で構成されている。さらに明瞭ではないが,活断層の分布が確認されていることや,日向灘では地震活動も活発であることから,鰐塚山周辺は,古くから造山活動による隆起が繰り返して発生していることに加え,地震により地質構造が乱され,脆弱化していると推定される。
(3)崩壊土砂量の算定
崩壊に伴い発生した土砂については,崩壊発生前の地形と崩壊発生後の地形を重ね合わせ,その差分を求めることにより算定した。崩壊発生直前の空中写真(平成13年2月17~19日撮影)を用いて航空測量により図化した。また崩壊発生後の地形は,レーザープロファイラにより計測(平成17年9月18~23日)し生産土砂量を算出した。算定した生産土砂量を表-1に示す。
表-1 別府田野川流域の美麗土砂量

(4)土砂移動実績の検証
鰐塚山山系周辺では今回発生した土砂移動により流域内の河道に多量の土砂を堆積させた。この土砂移動現象を発生させた誘因は,台風14号の影響による降雨であるが,土砂移動の発生したタイミングや降雨流出特性については確証できるデータは存在しない。このことから,今後の防災対策や警戒避難基準の運用に資することを目的とし,崩壊発生メカニズムや実績土砂量を踏まえ,二次元氾濫シミュレーションを実施し今回発生した土砂移動現象を検証した。
 
※本検証結果より,今回発生した崩壊に伴う流出土砂は,流域内に整備されていた砂防・治山施設が効果を発揮し,流出土砂を捕捉・抑制したものと推定される。もしこれらの施設が無い状態であれば、下流域に土砂が流出し氾濫していた可能性があり、施設の果たした役割は大きい。

写真-2 既設堰堤捕捉状況


③ 緊急ソフト対策
平成17年9月の崩壊発生直後から現在に至っては,えん填等の施設による下流域への十分な安全性が確保できていない状態である。また流域内ならびに下流域に対する安全対策(警戒避難体制運用)のために,ワイヤーセンサーや監視カメラ,雨量計等の観測機器を整備した。
また,上流域にある流倒木対策として,宮崎森林管理署と宮崎土木事務所により流倒木撤去を行い,下流域への流木による被害防止を目的として,応急的にH鋼による流木止め工を設置した。

 

写真-3 H鋼による流木止め工設置状況
④ 施設配置計画の検討
(1)施設配置の考え方
施設配置は,以下に示す考えに基づいて検討した。
① 既存の砂防・治山施設を評価した上で,地域特性を踏まえた施設配置計画を立案する。
② 今後,降雨により土砂生産が予測される流域に対しては,土砂流出抑制・捕捉,流木捕捉を目的とした透過型施設を配置する。
③ 崩壊残土が堆積する流域,拡大崩壊が見込まれる流域は,土砂生産抑制を目的とした施設を配置する。
④ 地すべり地は,地すべり土塊を安定させることを目的とした効果的な施設を配置する。
⑤ 渓床に堆積する土砂は,二次移動防止と流出土砂の調節効果を期待する不透過型施設を配置する。
⑥ 既存施設(治山・砂防)については,嵩上げ,除石等などによって既存施設の機能回復・増進を図る。
⑤ 復旧対策について
別府田野川流域の住民については,現在も大雨時には警戒避難体制をとっており,不便な生活が続いている状態である。現在は鰐塚山土砂災害対策検討委貞会で提案された施設計画に基づき対策工事を施工中である。今回の大規模土砂災害対策は,上流域が治山事業,中流域が砂防事業,県道の道路災害復旧事業とそれぞれの事業間の連携が必要となるため,復旧対策事業の実施については,宮崎森林管理署,宮崎県宮崎土木事務所,宮崎市田野支所との間で,毎月一回,復旧対策工程会議を設置し,早期復旧に努めているところである。
工 事概要と進捗状況について下表に示す。
表-2 別府田野川土砂災害対策工事概要

写真-4 工事進捗状況写真
4 おわりに
平成17年台風14号は,本県にとって未曾有の大災害をもたらした。現在,県内の被災箇所は復旧に向けて,急ピッチで工事を進めている状況である。別府田野川流域の土砂災害対策についても,住民の安全確保を早急に行うため,国土交通省,林野庁,宮崎県,宮崎市と連携を図り,関係機関一体となり,土砂災害対策工事の早期完成に取り組んでいきたい。

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