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皿倉山山頂からは、北九州市内が一望。夜景のスポットとしても人気

日明港からは、下関行きの定期船が運行

河口付近の海岸。向こう側には工場の煙突がいくつも見える日明港からは、下関行きの定期船が運行

中流域では川のすぐ横に石畳が続き、市民の憩いの場に

北九州というのは、とても不思議なところだ。鉄の町としての繁栄と衰退によって、さまざまなものを生み、失い、身につけていった、そのせいだろうか。時代に翻弄されつつ逞しく生きる姿の陰に、すこしの諦めとやさしさをまとったような空気が漂っている。そして、とても親密で、しみじみとした心地よさを私たちに与えてくれる。地域性であれ何であれ、それを北九州の魅力などと安易な言葉で片づけてしまうつもりはない。けれども確かに、公園にも小さな路地の片隅にも、道路の脇を流れる川にも、ため息混じりのあたたかい風が微かにかよっていて、心をそっとなでてゆくのだ。春のはじまりの日差しのように。

そんなことを考えながら、板櫃川の河口付近の海岸にたたずんでいた。ここ、日明地区は、臨海工業地帯としての北九州の顔でもある。複雑なプラモデルのような工場がいくつもそびえ立ち、冬の空に向かって伸びる煙突からは、白い煙が絶え間なく吐き出されている。河口の少し手前の下流には俳人・杉田久女が20代のころ、2年間ほど暮らしたという旧居があるが、それ以外、目につくものはほとんどない。

巨大なトラックやトレーラーばかりが行き交う一帯は、産出することを目的に毎日がただただ機械的に過ぎる。下関行きの定期船が、水面に規則正しい波紋を広げながら、向こうの岸へとまた短い旅に出た。

河口付近には平松という漁港があり、イカ漁やアサリ漁などが行われているらしいが、立ち並ぶ工場にうずもれ、その姿を確認することはできない。

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